2002エリザベス女王杯


強力世代の象徴としての女王

 小さなことで、しかも海外のレースだけに気がつきにくい変更だが、ブリーダーズCの古馬と3歳馬の負担重量の差は、今年から1ポンド広げられて、最も大きいクラシックとターフで5ポンド差になった。3歳が有利になったわけ。それでも結果は逆に、2歳戦を除く6レースで去年の3歳3勝から今年は2勝と星を減らしている。これはマイルで確勝級のロックオブジブラルタルの取りこぼしが響いたが、春からの流れでいっても、どうも欧米の3歳世代は大したことがないようだ。それに対して、日本ではこの秋、天皇賞、JBCクラシックと3歳馬が制圧。しかも、どちらもたとえ同斤でも関係ないと思えるほどの強さだった。去年秋のクロフネ、ジャングルポケットによる偉業よりも早い時期から古馬の領域に侵攻している今年の3歳世代の強さはこれまでにないレベル。まあ、技術的には成長期のまっただ中にある日本の競馬だけに、サンデーサイレンスの遺産によって素材の質が保証されている間は、波はあっても毎年、前の世代を上回るレベルになるのは当然でもある。ファンとしては古馬のスターが息長く活躍するのが楽しいのは確かなので一概にはいえないが、チャンピオンシップをかけたスポーツとしての側面、種牡馬としての価値など、トータルで考えれば3歳馬が強いのは競馬全体に活気をもたらす。今の勢いで行けば、来年のドバイはこれまでにない収穫も期待できそうだと思いませんか。

 牡馬の水準でそれだけ3歳馬の追い上げが急だと、成熟の早い牝馬ではいわずもがな。ファインモーションは同世代に圧勝したのと同じように上の世代も蹴散らしてしまうのだろう。父デインヒルの種牡馬実績は書き出すとキリがなく、米ジョッキークラブのデータベースから産駒成績を引き出すとA4にして615ページにも及ぶ。重賞勝ち馬を羅列するだけでこのスペースが全部埋まってしまうほどで、やってみてもいいが、やらない。でも、凄いというだけでは凄さが伝わらないので、統計的なことだけ同年生まれのサンデーサイレンスと並べてみよう。

 デインヒルサンデー
生産頭数1,8091,214
出走頭数1,326860
勝ち馬数916601
出走回数18,04712,634
勝ち鞍数2,7441,745
重賞勝馬11483
収得賞金\160億\382億

 どうでしょうか? 統計というのは下手に使うとかえって焦点がぼやけてしまうので、今イチ凄さが伝わり切っていないとも思えるが、南北両半球で供用されているだけあって、サンデーサイレンス級の質をキープしつつ、量的には遙かにサンデーサイレンスを凌いでいるというのはこの表からも見て取れる。賞金だけは日本が桁違いの水準だけに仕方ない。仕方ないが、その賞金水準のお陰で、今年1年の収得賞金ではファインモーションがロックオブジブラルタルを抜いて、デインヒル産駒2002年の稼ぎ頭となった。今のところ為替レートによって入れ替わり得る僅差だが、ここを勝てば世界の大種牡馬の不動の代表産駒(2002年)ということになる。ロックオブジブラルタルが春から秋までずっと勝ち続けたのに象徴されるように、デインヒル産駒は正直に自分の力を出し続けるものが多く、大きく落ち込んだり、サボッたりということが少なく、大体、良くても悪くても安定した能力を維持するもので、このあたりはサンデーサイレンスやトニービンの産駒には望み難いところ。配合的には非主流のステイヤー血脈とのアウトブリード風配合か、逆にノーザンダンサー系を取り込んでデインヒル自身の持つナタルマ3×3のインブリードをさらに強調した技巧的配合かの極端な2つのパターンが成功しているケースが多いように思うが、ファインモーションは前者に近い。兄ピルサドスキーと同じペティション4×5の軽いインブリードがあるだけの欧州ステイヤー型配合で、ノーザンダンサーの近交でこてこてになったのよりも上品な印象があって、ステイヤーとして成長していく余地が大きいのもこちらのパターンだろうと思う。真の能力を計るには牡馬に挑ませるのがいいと思うが、ピルサドスキーのようにゆっくり強くなった方がより大きな実りを期待できる血統なのは確か。

 ジェミードレスはトニービン×ノーザンテースト。天皇賞sのサクラチトセオー、NHKマイルCのテレグノシスと成功例も多い配合だが、このパターンは何といってもエアグルーヴ。ジャパンCでエアグルーヴを破ったのはピルサドスキーであり、それをひっくり返すと、ファインモーションを負かすとすればエアグルーヴ血統ということになるのではないか(ならないか?)。確かに、母のブリリアントカットはダイナカールとは違う。エアグルーヴは天皇賞はトニービンの血でスパッと勝てたが、ジャパンCでピルサドスキーに食い下がった執拗さはダイナカールの血と見ることもできる。でも、ファインモーションに出し抜けを食わせるものがあるとすれば、それはトニービン〜グレイソヴリンの鋭さであって、同じ父のレディパステルとの比較では、エアグルーヴにより近い配合でG1実績も複数あるこちらを上位に取りたい。それにしてもサンデーサイレンス×ノーザンテーストがG1級に抜け出せないのに比べると、トニービン×ノーザンテーストは成功している。サクラユタカオー×ノーザンテーストも成功例が多いことを見ると、ハイペリオンのインブリードを生じてナスルーラも入る種牡馬との配合がノーザンテースト牝馬には合っているということなのかもしれない。そしてまた、負かすのは無理でも、ファインモーションが前を交わしてその後の混戦でピュッと差してくるのはグレイソヴリン系(プリティジュエル、サクラヴィクトリア、シアリアスバイオと実例多数)。ちなみにブリーダーズC芝牝馬は、デインヒル産駒の人気馬バンクスヒルを押さえ、カロ3×3でグレイソヴリンの塊ともいえるスタリーンが制した。

 ローズバドは昨年のこのレース以降、見どころのないレースが続く。牝馬だけに燃え尽きたと見ることもできる。それでも叔父でサンデーサイレンス産駒のロサードはこの秋13カ月ぶりに重賞勝ちを果たしているし、一般にサンデーサイレンスの一流馬は長い不振からでもところがどっこいと立ち直ってくる。母の父は当代屈指の底力を伝えるシャーリーハイツ。欧州の中長距離戦には欠かせない血だし、BCターフのハイシャパラル、菊花賞のヒシミラクルにもこの血は潜んでいる。

 タムロチェリーは3歳になってから全て2桁着順。父は強力世代の英ダービー馬だが、産駒にはマイラーやスプリンター、それも水準の低いイタリアの重賞を主戦場とするものが多く、代表産駒で英2000ギニー勝ちのミスティコでも、そう強い馬ではなかった。そんなものかなと残念に思うが、父の死んだ年に生まれた娘が輸入後初の重賞勝ち馬でG1制覇という部分には名馬の最後の意地のようなものが感じられる。ファインモーションとは曾祖母が共通。

 ビルアンドクーはアスワンの出る名門ナイルリリーの流れ。今年この牝系からはロックオブジブラルタルが出た。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.11.8
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