2002桜花賞


大君に放たれた矢

 3歳牝馬戦線はサーガノヴェルがずば抜けていて、あとは団子状態。合同フリーハンデの数値ではサーガノヴェルが107、あと、桜花賞の有力馬は103〜98あたりにひしめいていて、どれがホントに強いかは桜花賞の結果を見ないと分からない状況(競馬ブック・ホームページで合同フリーハンデの最新修正版が見られるので、興味のある方は見て下さい)。フリーハンデでサーガノヴェルが高くて桜花賞組が団子なのは、個々の素質どうこうよりも対戦相手によるもので、桜花賞路線からあらかじめはじかれているマル外サーガノヴェルの場合は、否応なく牡馬混合のクリスタルCに挑み、それに勝ったのが大きい。今年に限らず、日本馬が国際競馬での存在感を増してきたのと反比例するように、年を追って3歳牝馬戦線がスケールダウンしてきたように感じるが、それは多分、個々の資質と、その戦うフィールドの広さとの相対的な差による錯覚のようなものもあるのだと思う。10年前と比べてJRAの騎手の技量が落ちたということはなくても、ペリエやデザーモといった世界トップ級が来日し、武豊がより広い世界に飛び出し、地方競馬からは1000も2000も勝っている名手が毎週のように現れて当然のように勝っていく現状では、JRAの騎手の力が相対的にこれまでよりも落ちているようにと見えるのと同じ理屈だ。テイエムオペラオーがファンタスティックライトを完封したり、クロフネがダートの3歳馬として世界トップレベルに評価されたり、アグネスデジタルが日本国内での勝ったり負けたりと同じようにごく日常的に世界の舞台で勝ったり負けたりするようになると、内国産・3歳・牝馬と縛りが3つもある領域は何かもう、スケールがめちゃ小さく感じられてしまうのも無理のないところだろう。内国産血統の保護涵養という部分では、3歳牝馬クラシックが最重要路線であるのは確か。それは確かだが、このままでは、育成のための保護が保護のための保護にすり替わって結局虚弱体質のまま大人になってしまった日本の一部の産業と同じ道をたどる恐れがある。2004年の桜花賞(部分)開放を待たずに桜花賞の価値が立ち腐れになってしまったのでは、生産者が何のためにクラシック開放に反対したのか、その意味も目的もピンボケに終わってしまう。“クラシック”という語は古典や伝統という意味をともなうことが多いが、実際には“格”を備えていることが第一であり、ブリーダーズCのメインレースが創設時から“クラシック”を名乗り、実質も“クラシック”だったことを考えると、旧5大レースの伝統的地位にあぐらをかいているだけでは、クラシックの格は保たれないと思う。実際、イタリアやドイツの“桜花賞”は、今やG2に過ぎないのだから……。海外でG1に勝のが普通のことになった今、国内のクラシック馬が胸を張ってクラシック馬といえる状況をつくることも大事なことだろう。

 うーん、いつものことながら、前置きが長くなった。でも、いつもははっきりいって行数稼ぎだが、今回は時間稼ぎなのである。難しい。ただでさえ難解なのに、さらに、こう急にポカポカ、初夏を思わせる異常な陽気が続くと、3歳牝馬もモヤモヤとフケを催し始めて、アーンもう、ムズムズして平常心じゃいられないわというのもいるわけで、荒れるのが当たり前と考えた方がいい。フケが来てるのが事前に分かればそれにこしたことはないが、実際に陰部をひこひこさせながら馬場に出てくるものは不明にして見たことがない。「実はあのときフケやった」と関係者の談話で事後に判明するのが99%であり、ここは穴狙いに徹してみるのもいいかも。穴狙いの鉄則は「実力」—「人気」の値が大きいものを狙うこと。今回その差が最も大きいと思われるのはアローキャリー。道営時代から強い相手に強く弱い相手に弱かったが、その穴馬としての資質は阪神ジュベナイルフィリーズで証明ずみ。ラストタイクーンの血は欧州とオセアニアではG1級なのに日本ではパッとしないが、オースミブライトが皐月賞でテイエムオペラオーの2着だったり、孫のメイショウドトウがテイエムオペラオーを負かしたり、時として、デインヒル以前のシャトルサイアーNo.1の意地を示している。デインヒルでもそうだが、こういう器用さがなくて地力だけで勝負する血統はG3でダメでも意外にG1で好結果を残すことが多い。母は3歳5月初勝利を挙げると2週間後の特別を差し切って連勝してラジオたんぱ杯に挑んだ(8着)、祖母はオークスTRを追い込んで4着してオークス11着。結果はともかくトップクラスの戦いを経験している強みは小さくない。母の父サンキリコは去年のクラシック戦線でダンツフレームがそれなりの結果を残したし、さらに遡って現れるアローエクスプレス、ミンシオの名は牝馬クラシックのいわば常連。牝系としては地味な部類で、勝つのはどうかなとも思えるが、2着、あるいはワイド圏なら案外確率は高いと思う。ひと足先に行われた浦和桜花賞では同じホッカイドウ競馬出身のラヴァリーフリッグが圧勝、3歳牝馬ダート戦線では単独トップに抜け出している。たとえばこういう地方出身馬がクラシックでサーガノヴェルを一蹴すれば、日本馬が海外G1に勝つのと同等の意味があると思う。

 キタサンヒボタンを欠きながら、それでも4頭がここまで進んできたフジキセキガールズ。仕上がり早やで好調時はヒットの続く血統だが、リズムが狂うとすぐスランプに落ち込むし、いまだホームランが出ないのが悩み。ダイタクリーヴァでも十分フェンス越えだったのに、アグネスデジタルの塀際のミラクルプレーにG1のタイトルを阻まれた。ダイタクリーヴァのスタイルパッチ系はダイタクヘリオスからカブラヤオーまで天才肌を出すスタイルパッチ系。日本随一の爆発力を誇る牝系でもそうなのだから、フジキセキ産駒がG1を狙うには、これは母系に相当パンチ力がないとダメだ。そういう点で4頭の中から選ぶとツルマルグラマー。母の父エルグランセニョールは、サドラーズウェルズ、セクレトと同世代の最強ノーザンダンサー産駒で、受胎率が低いために種牡馬としてはサドラーズウェルズのような大帝国を築くこともない少数豪華主義(?)だったが、80年代の天才サラブレッドの一頭。さら遡っても母系に配された種牡馬は強力というか強烈。G1でこそ狙える血統。

 サンデーサイレンス系を切れ味で圧倒できるとなるとトニービンしかいない。キョウワノコイビトはボールドルーラー3×3の祖母にカーリアンをくぐってトニービン。スピードと切れ味のマックスではこれかも。新馬勝ちの後の気性面やソエの微調整を経て、本番で能力全開となれば態勢逆転まで。

 △サクセスビューティはSS×デピューティミニスター牝馬。フィジカルな能力でトップクラスなのは間違いなく、これがG1に勝てないとなると、SS×ノーザンテースト牝馬がG1に勝てない理由もだいたい主犯格が分かってきそうではある(ヴィクトリアナ血脈が怪しい)。ともあれ、ヘイルトゥリーズンのインブリードと、祖母から入るヒズマジェスティの血は大レース向きだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.4.5
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