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00年6月19日グリーングラス、01年1月12日アファームド、そして今年の5月7日にシアトルスルー。“三冠”が最も輝かしかった70年代の三冠にまつわる馬たちが、世紀の変わり目に前後して世を去った。毎年、年明けから初夏にかけては次々にクラシック候補が現れ、その中から新しいクラシック馬が生まれるが、なぜかどうも名馬の死はこの時期が多い。こうやって長いスパンの世代交代は進み、記憶のよすがは少しずつ確実に置き換わっていくが、しかし、アファームドもシアトルスルーもグリーングラスも完全に死んだわけではなくて、現代の血統表の中でも生き続けていく。トニービンは死んだが、レディパステルが走る、テレグノシスが走る。死が断絶を意味するのでなくて、新しい命に繋がっていくわけで、血を繋ぐのは牝馬。牝馬の祭典オークスは、そういった点から見てみました。 ◎タムロチェリーは忘れられた種牡馬セクレトの忘れ形見。99年に死亡したセクレトは、世代最強でたぶんダンシングブレーヴ出現までは80年代最強だったエルグランセニョールや、後の大種牡馬サドラーズウェルズとともにノーザンダンサー・ブームの頂点に位置したノーザンダンサー直仔の英ダービー馬で、ノーザンダンサー×セクレタリアト(しかも名牝系)という豪華な配合の唯一の成功例。産駒は地元ニューマーケットを離れるとさっぱり走らなかった英2000ギニー馬ミスティコが唯一のG1馬で、その他はイタリアの重賞クラスを多く出した。同期のノーザンダンサー産駒サドラーズウェルズが不動の欧州リーディングサイアーであったり、エルグランセニョールが低受胎率に悩まされながらも大物をポコポコ出したと対照的に、どこか難しいところがあるのか、能力的な限界があるのか、あるいは死後に超大物を用意しているのかというべき種牡馬成績だった。しかも、そのほとんどは短距離を力任せに走って強い産駒。無敵のエルグランセニョールを追い詰め、エプソムの最後の上り坂でこれを捉えた父の底力を思い起こさせる仔はついに出さなかった。ま、ついにとはいえないかも。父が死んだその年に生まれた最後の望みがこの馬だ。グリーングラス以来、20数年ぶりに大舞台に戻った青森の大牧場、諏訪牧場の生産である。北海道の生産をアメリカ的とするなら、青森の生産はヨーロッパ的で、経済効率という点から考えるとイギリス本土になぞらえられるかも知れない。税制上の理由から、競走馬の生産にはアイルランドが圧倒的に有利で、今や経済的に割の合わないブリテン島で生産するのは貴族趣味に等しいが、グリーングラスからカネミノブまで、青森の生産にもそういった貴族的な匂いというか、古き良き英国への同化願望というか、血統表を見る限り、そういう経済効率より趣味優先の、馬産が本来あるべき姿を見ることが出来る。タムロチェリーも牝系の出所はワインストック卿。70年代のトロイやエラマナムー、近くはジャパンCのピルサドスキー、日本ダービー馬フサイチコンコルドや去年JC6着のゴーランまでワインストック家の“作品”だが、この牝系はピルサドスキーと同じ。サクラユタカオーが入るぶん、和風が色濃いが、これにしてもテスコボーイ(英国産)×ネヴァービート(英国産)×ユアハイネス(英国産)×ハロウェー(英国産)という配合。母は桜花賞、オークスともに2着のユキノビジンと同期で、ユタカオー血脈はユキノビジンの他にも99年の勝ち馬ウメノファイバーを出していて、牝馬クラシックには強い。血統表3代目に見られるセクレタリアトとファルリの血もあと400mのスタミナを保証してくれそうだ。 ホワイトマズルは伊ダービーとサンクルー大賞典勝ちなど、現役時は2400m専門に活躍したが、産駒は短距離のビハインドザマスクやダートのフレアリングマズルが代表格。ダンシングブレーヴ系だけに余技でそういったタイプを出しても不思議ないが、今のところそういった余技だけが目立って本来出るべきタイプの一流馬はまだ出ていない。○スマイルトゥモローはサウスアトランティック牝馬にホワイトマズル。サウスアトランティックも本来スタミナ豊富なわりにガーッと短距離で走って強い産駒を出したので、折り合い面が最大の課題とはなりそうだ。しかし、それさえクリアできれば潜在的なスタミナはここでも最右翼。地味な牝系ではあるが、祖母はパーソロン×ヴェンチア×オンリーフォアライフという名ブルードメアサイアーばかりを配合されているだけにマイナスとはならないだろうし、母の父が持つリボー血脈も大レースでの一発を期待させる。 ▲サクセスビューティは桜花賞が大敗。あまりにも脆かったが、サンデーサイレンス牝馬にありがちな好走後の凡走ととることもできる。母は93年生まれのデピューティミニスター産駒。デピューティミニスターは初期には快足牝馬を出すケースが多かったが、後に牡馬の10F路線で強いものを出すようになった。オールウェイズアクラシックやヴィクトリースピーチ、日本ではトーヨーシアトルと同期となる93年生まれなら、その血はより長い距離への適性が高いはずだ。祖母は90年のブリーダーズCディスタフでバイヤコアの2着だが、90年のディスタフといえば、バイヤコアと最後まで競り合った名牝ゴーフォーワンドが直線で骨折した悲劇のレース。ゴーフォーワンドがデピューティミニスターの産駒だったのも、なにか因縁めいてはいる。それはさておき、祖母の父は現代最良のスタミナ血脈のひとつであるプレザントコロニー。リボー系らしい底力にも富み、2400mが長いということはないだろう。 △ブリガドーンは母の父がスルーオゴールド。ジョッキークラブGC2連覇、84年の古馬チャンピオンであり、シアトルスルー最大の代表産駒で、種牡馬としては今イチながら、ブルードメアサイアーとして大物を出すタイプだ。日本ではどうもジリっぽさを伝える傾向もあるようで、そのためマイルや小回りの忙しい競馬には対応し切れなかったのかも。シアトルスルー×ミスタープロスペクターの母にサンデーサイレンスはサスガに似た配合で、隙のない良血といえるし、東京2400mはいいと思う。ただ、勝つまでの切れがあるのかどうか、そのあたり何となくインパクト不足ではある。 東京のG1では委細構わず買っておくべきなのがトニービン産駒。キョウワノコイビトはトニービン×カーリアン牝馬の配合だから、大雑把に見れば勝って不思議はない。細かいことをいうと、母はカーリアン産駒でもマイラーというかスプリンターに近く、実際に勝ち鞍は1000mと1200mでひとつずつあるだけだし、祖母もボールドルーラー3×3だけに東京2400mとなると疑問符が付くが、時には大雑把に行った方が成功するというケースもある。 ユウキャラットはトニービンの孫。孫になると神通力もいくらか弱まるかもしれないし、牝系も東海の雄トミシノポルンガが出るくらい。ただ、ウメノファイバーも、公営色の強いノーザンディクテイター牝馬の仔から生まれたオークス馬。アメリカのマイナー血脈が蓄積された母と、日本屈指のスターロッチ系の御曹司のミスマッチが逆に面白いかも。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.5.17
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