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19年前のこのレースを勝ったニホンピロウイナー以降しばらくは、マイル路線には中心となる1、2頭のスターがいて、それがじわじわと世代交代していったものだが、最近はどうも当時のような安定した勢力図ではことが運ばなくなっている。これは90年代中盤から激増した輸入競走馬の大多数がこの領域を得意とし、国産もそれに対抗するだけの力があったため、この分野に強い馬がひしめき合うことになったから。スーパースターが現れないと、印象としては小粒でレベルが低いように感じられるものだが、実際には高いレベルで上位拮抗しているせいで、ちょっとしたことで序列がひっくり返り、長距離戦のように少数のずば抜けた馬による長期安定政権(?)が維持されにくいというわけだが、タイキシャトルの仏G1勝ち、エイシンプレストンの香港G1勝ちが示すように、日本のトップマイラーは世界でもトップを争える高い水準にあるのは間違いない。ただ、近年の傾向として、チャンピオンマイラーはすぐに2000m戦線に卒業してしまう。アグネスデジタルもエイシンプレストンもそうだし、欧州ではその傾向がさらに強くて、ドバイミレニアムやジャイアンツコーズウェイの例に見るように、強いマイラーは出ても最終的にマイル路線は空洞化してしまうという事態も少なくない。今年G17連勝を達成したロックオブジブラルタルは最後までマイルに徹したが、ブリーダーズCマイルではよもやの2着に敗れてしまう。そのあたりにも、レベルは高いのに最強馬不在という“悩めるマイル路線”の現状が象徴的に現れているように思える。日本でも、香港G1連破で名声を得たエイシンプレストンがせっかくマイル戦線に戻ったのだから、すんなり勝てばいいのに、どうも英語は得意だが国語は苦手という面があるのか、すっきりした結果が出せないでいる。この流れでいくと、まだまだ“隠れチャンピオン”が潜んでいそうに思える。 ミデオンビットは夏からマイル重賞で3戦連続2着。毎回「勝った馬が強過ぎました」なんていって完敗している。今回ソコソコ人気になりそうなクチとの勝負付けも終わっているように見える。馬体にしたって一見した印象はパワー優先のダート向きで、芝向きの伸びや瞬発力を望むのは難しそうだ。上がり3Fも34秒台前半が精一杯のところで、33秒台の決め手を持つものが揃ったこのメンバーに入ると見劣りする。でも、これだけ負の要素が揃っていると逆に怪しい。父のアジュディケーティングは主に力のいる南関東地方競馬御用達の種牡馬で、芝の重賞勝ち馬は1400mの2歳戦を力任せに押し切ったアジュディケーターが唯一の存在。典型的ダート血統ではあるが、これは、芝のG1で戦うチャンスそのものが少なかったためと見ることもできなくはない。良駒は主に南関東に回るし、中央に入ればダート主体に使われることが多いし、実際芝の重賞ではいいところまでいっても単調さが仇となってG3さえ勝ち切れない。しかし、マイル戦でもG1となると、切れ味か底力かという比重が他の重賞とは微妙に変わってくる。過去のこのレースでも上がり3Fの脚は90年パッシングショットの33秒9が極限で、鮮やかな追い込みを決めたサッカーボーイで35秒2、トロットサンダーで34秒2、アグネスデジタルで34秒3だから、34秒の前半で上がってこられれば及第点は与えられる。キツいペースでも前で頑張って、そこからもうひと頑張りして34秒台で上がれば何とか2着には残らないかという◎。ここまで、われながらかなり無理のある進め方とは思うが、ミデオンビットの血統表を眺めていて思い出したのが、かつてのアメリカの芝マイル王ルアー。アメリカで一時期ハイレベルな芝戦線が展開されていたときの最強馬の1頭で、ブリーダーズCマイル2連覇の名馬。これがダンチヒ×アリダーの配合。そう思ってミデオンビットの血統を見直すと、父はフィップス家(今年もブリーダーズCに勝ったアメリカの大オーナーブリーダー。ジュヴェナイルフィリーズ勝ちのストームフラッグフライングは祖母パーソナルエンスン=ディスタフ=、母マイフラッグ=ジュヴェナイルフィリーズ=に続く母系3代制覇となった)の良血の御曹司で、2歳時にG12勝。3歳時はリズムが悪くG1には勝ちそびれたが、最終戦のBCスプリントでは河内騎手が乗って4着に追い込んでいる。ダンチヒ直仔らしいスピードと瞬発力は元来持っていたのである。母の父アリダーはルアー以外にも娘の仔にパントレセレブルやキャットシーフといった大物を出しブルードメアサイアーとして大成功しているし、祖母の父バックパサーはこれもフィップス家の歴史的名馬。種牡馬コーモラントの出ている牝系も悪くない。もしこれがアメリカに生まれていれば、ブリーダーズCクラシックの勝ち馬といわれても違和感のない配合だ。もうひとつの“マイルチャンピオンシップ”南部杯ではこの父の産駒バンケーティングが2着に突っ込んで大波乱となったし、芝とダートのボーダーレス化が加速する昨今のテーマには沿った血統だと思う。 ○ブレイクタイムは同じようなタイプで実績は上だし、安定感ももちろんこちら。同じタイプで揃って来ることは考え辛いが、実際、京成杯ではそうなったし、終わってみればダンチヒ系同士というケースはあり得る。そういえば2頭とも実にダンチヒ系らしい顔をしている。デインヒルはファインモーションの出現で、フェアリーキングプローンの安田記念と合わせてJRAのG1勝ちを一気に3に伸ばしたが、ここらで唯一の国産世代、97年生まれのデインヒル産駒も意地を見せて欲しいところだ。この世代からはダービー3着のアタラクシア、神戸新聞杯のフサイチソニックと素質を見せたものが早くに引退してしまったが、ゴツい筋肉のパワーと足元の成長のバランスがうまくとれなかったのだろう。古い日本の牝系から出て、ゆっくり一線級に上がってきたこの馬が、そろそろ国産デインヒルの真価を見せてくれるのかも知れない。 ▲グラスワールドはラーイ×ストームキャットで、これは2000年の最強馬の1頭ジャイアンツコーズウェイの逆の配合パターン。ラーイの仔にはスピードだけで勝負する産駒も多いが、ファンタスティックライトのように奥手でいつのまにかチャンピオンに育っていたというタイプもいる。グラスワールドも祖母の父にアリダーが入っていて、その祖母の産駒には米G1勝ちのノヴェンバースノーがおり、ケイエスミラクルを通じてMr.プロスペクター系のスピードを初めて日本に伝えた地味な名種牡馬シュトゥッツブラックホークもこのファミリー。全体に世界レベルのG1仕様の良血で、ここ一番での大駆けも十分。 2000年3月に世を去ったトニービンには残された時間が少ないだけに、この秋、東京開催がないのは残念だが、この舞台ではノースフライトが勝っている。△テンザンセイザは母の父がこのレースに縁の深いカーリアン。母は英長距離G2パークヒルS(牝馬版セントレジャー)の勝ち馬で、そうであるばっかりに菊花賞で本命にした憶えがあるが、ハビタットの血が入っている以上、実はマイルで決め手が生きるのかも。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.11.15
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