2002天皇賞・春


日出づる国の天馬

 70年代のトウショウボーイ、テンポイント、グリーングラス、90年代のエルコンドルパサー、スペシャルウィーク、グラスワンダーといった3強体制でずっと進む“最強世代”がある一方で、イギリス90年代中後期の、最強2歳ケルティックスイング、奇跡のラムタラ、不屈のスウェイン、万能シングスピール、晩成ピルサドスキーと、次々に違う個性が出現して結果的に“最強”と認められる世代もある。

 “最強”というからにはそういくつもあってはおかしいので、ほぼ1年おきに“最強世代”なんていってる近年の最強の安売りは安易に過ぎると思うが、アグネスタキオン、クロフネという双璧が去って、それでもテイエムオペラオー、メイショウドトウを追い落としてしまったこの世代が今年も来年も覇権を握り続ければ、最強世代の称号は本物だろう。2歳終わりごろのアグネスタキオン、ジャングルポケット、クロフネの3強体制から、3歳になるとジャングルポケットだけが生き残って、マンハッタンカフェが台頭し、4歳を迎えるとショウナンカンプが高松宮記念を制していて、この世代からはこの後も続々と強い馬が出現することを暗示している。そうなるとこの世代は2つのパターンの混成型といえて、ひょっとするとジャングルポケット、マンハッタンカフェにもう1頭加わって新3強体制を作っていくのかも知れない。

 サンライズペガサスは初めての一線級との対戦となった神戸新聞杯でそれなりの結果を出して、菊花賞惨敗、4歳になると異世代と対戦して2000mで連勝した。ここまでのルートは、天皇賞でそこそこ健闘して、距離の短くなった宝塚記念で逆転という筋書きを連想させる。サンデーサイレンス×ブライアンズタイム×アリダーの配合で、横から見るとブライアンズタイム、トモはサンデーサイレンス、全体的にはアリダーっぽい感じもあるかなという体形は、特に3200mが良いともいえない。そのあたりの、外に現れた面で天皇賞向きでないのは分かっているのだが、分かっていながらそそられる部分がある。ごく単純にいえば、サンデーサイレンスは菊花賞馬3頭と、春の天皇賞馬1頭、ブライアンズタイムは菊花賞馬2頭と春の天皇賞馬1頭を出した。また、ブライアンズタイムは現役バリバリながら母の父としてすでに秋華賞のティコティコタックを出していて、名ブルードメアサイアーとしての才能もチラッと見せている。母系に入ったアリダー血脈は、凱旋門賞のパントレセレブルや去年の米年度代表馬ポイントギヴンに見られるように近代的スタミナ(ってどんなかなと書いてて思うが、古典的ステイヤーとは異質のチャンピオンの資質のひとつといえるかも)の源泉。そしてまた、サンデーサイレンスとブライアンズタイムというヘイルトゥリーズン系で最も活気のあるラインによるインブリードが成功すれば、国際的にも大きな武器になるのではないかとも思う。ちょっと天皇賞からそれるが、サンデーサイレンス、ブライアンズタイムという、最高のヘイロー直仔と最高のロベルト直仔がいるだけに、G1勝ち馬におけるヘイルトゥリーズン直系の占有率は日本が世界最高で、日本はヘイルトゥリーズン王国といえるくらいだが、これは主要国の血統地図がミスタープロスペクターとノーザンダンサーで塗りつぶされていることを考えれば貴重。国内的に見れば過剰とか偏重に見えても、世界的に見ればサンデーサイレンス、ブライアンズタイムを主力にしたヘイルトゥリーズン血脈の供給源として「日本血脈」というブランド価値の確立もあり得ないことではない。実際、サンデーサイレンス直仔は“シャトル”の1番人気であり、ドバイのマクツーム家からは「日本血脈」を求めて数10頭の繁殖牝馬が送り込まれているのだから。サンライズペガサスに戻ると、正直、春の天皇賞は厳しいかもしれんなあと思う。しかし、もしダメでも宝塚記念か秋の天皇賞ではきっと埋め合わせをしてくれるだろう。

 サンデーサイレンスの仔でも、明らかに長距離向きといえるのは、母がローソサイエティの娘でドイツ牝系から出ているマンハッタンカフェ。とかくドイツ血統というと、良くいえば重厚、悪くいうと鈍重なイメージで語られるが、アメリカ血統や英愛血統が世界中に流通しているぶん明らかな部分が多いのと逆に、実際には1800mで毎日王冠より速い時計の決着があったり、ランドが楽々とジャパンCを制したりと、ヨーロッパ競馬の未知領域といえる懐の深さがあって、長距離で33秒台の末脚を使うマンハッタンカフェの奥の深さにもまだまだ底の割れていない部分がある。日経賞の凡走はサンデーサイレンス系独特の“ガス抜き”と考えれば、一変して本来の強さを見せる可能性が高い。

 今季のナリタトップロードは、テイエムオペラオーがいないとこうも変わるのかと驚かされる。溌剌と走っていたのに、苦手なあいつの顔を見たとたんにビビってしまった去年までとはえらい違いだ。ステイヤーとしての資質を強く伝える父に、細く長くだんだん強くという良さもあるアファームド血脈の良さが加わって、自身、今年は去年より強くなったという見方もできる。去年のピークは春が阪神大賞典で、秋はジャパンCの3着。それぞれ並みのG1を超える内容でタイトルには繋がらなかったが、阪神大賞典で去年ほど派手なパフォーマンスを見せなかった今年は、前半戦のピークをここで演じられそう。どうせなら、「オペラオーがいないから」といわせないくらいの勝ち方をしてほしい。

 やってみないと分からない部分もあるとはいえ、△ジャングルポケットの左回り2400mと右回り3200mの差は、サンライズペガサスの2000mと3200mの差と同じくらい大きいのではないかと思う。右回り、左回りの巧拙が血統に左右されるというのは眉つばっぽい気もするが、ベガもノースフライトもスパッとは勝てなかった。ウィニングチケットも京都新聞杯の勝ち方はある意味強烈だったが、何とかやっとこさという感じもあった。マックスの能力ではこれが一番だが、人気だけに過信できない面もある。

 皐月賞でも思い知らされた人気薄のブライアンズタイムの怖さ。今回はエリモブライアンが該当(?)。マルゼンスキー牝馬の仔は過去10年でも、ライスシャワー(2回)、メジロブライト、スペシャルウィークと延べ4頭の勝ち馬を出しているだに、穴馬パターンに収まっているのは確か。叔母にはオークス馬エリモエクセルもいる。前走の阪神大賞典でも、ナリタトップロードとの差は前年より詰まっているわけだから、3強とか4強とかのムードほどの力差はないかもしれないわけで、一角崩しなら十分可能と思える。

 ボーンキングは昨年正月の京成杯を2.03.2で勝った後は勝ち星がない。兄のフサイチコンコルド以上に母系のサドラーズウェルズの影響が強いためか、スピード競馬では結果を出せていない。祖母サンプリンセスが英セントレジャー勝ち馬で、サニーヴァレー〜サンランドと遡る牝系も2400m以上の消耗戦で持ち味が発揮される。その良さを生かすとすれば、日本ではこの3200mが最大のチャンス。渋ればなおいい。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.4.26
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