2002有馬記念


理由なき反攻

 クロフネがドカーンとぶっち切り、ジャングルポケットとマンハッタンカフェがテイエムオペラオーに引導を渡し、そして香港でG1独占という壮挙が演じられた去年の秋は日本の競馬のひとつのピークだったかもしれない。今年の3歳もレベルは高いが、シンボリクリスエスはジャパンCを落としたし、ファインモーションも圧勝続きとはいっても牝馬の枠の中でのこと。今のところ、去年の秋のように、こちらの想像を突き抜けるようなパフォーマンスがあったわけではない。それなら、第2集団からの逆転も十分可能ではないか(無理してでも穴狙いしたいというだけのことなんですが)。

 ノーリーズンは骨折明けから3走(2走か?)して、ようやく良くなってきたと思う。ブライアンズタイムは何かと時間がかかるのだ。今回に似た状況として思い出すのは97年の有馬記念で、1、2番人気のマーベラスサンデー、エアグルーヴで決まるかと見えたところに食らいついてきて差し切ったシルクジャスティス。これがブライアンズタイム産駒で、菊花賞、ジャパンCと不完全燃焼が続いた後での大駆け。有馬記念はナリタブライアン、マヤノトップガンなどブライアンズタイム産駒の3歳が特に強いレースだが、もうひとつ思い出さなくてはならないのが同時代の強い牝馬の存在。ナリタブライアンとマヤノトップガンにはヒシアマゾンがいた。そして、シルクジャスティスのときはエアグルーヴ。85年生まれの父ブライアンズタイムはケンタッキーダービーを牝馬のウィニングカラーズに逃げ切られたある意味歴史的な世代で、そのときの鬱屈が産駒に伝わり、強い牝馬がいると燃えるといわれた(?)ものだ。DNAがそんな屈折した心情まで伝え得るものなのかどうかは知らないが、今回も同世代から強力な牝馬が出てきてお膳立てはできている。ブライアンズタイム×ミスタープロスペクターの組み合わせはオークス馬チョウカイキャロルと同じで、ナシュアのインブリードが生じるミスタープロスペクター牝馬にロベルト系種牡馬の組み合わせではほかに名牝ハリウッドワイルドキャット(ブリーダーズCディスタフ)がいる。チョウカイキャロルがヴェイグリーノーブルというスタミナの源泉といえる血脈を持っていたのに比べると、こちらはいくらかスピード志向の強い配合だが、ヤマニンパラダイスやアーチをはじめ世界中で重賞勝ち馬が出る名門牝系だけに、底力に不足はない。祖母の父にダマスカスの名があるのはナリタブライアンと同じでもある。

 ヒシミラクルはダービー1、2着馬不在、皐月賞馬不在(でもなかったが)の菊花賞馬で、牡馬三冠の地位低下を象徴するかのようないわれ方もされているが、まだ今のところ菊花賞というのはそれなりに強い馬でないと勝てない(2着はそうでもない)レースで、これから強くなっていく可能性は残されている。4代母の産駒アカネテンリュウは菊花賞に勝って有馬記念でもスピードシンボリのハナ差2着している。母はシャーリーハイツ直仔シェイディハイツの娘で、祖母はグレイソヴリン系ラナークの娘。この組み合わせで思い出すのは先週の香港ヴァーズに勝ったアンジュガブリエル。サンクルー大賞典に続いて再び名牝アクアレリスト(父デインヒル)を寄せ付けなかったこの無名の強豪は父がグレイソヴリン系で母の父がシャーリーハイツ直仔の芦毛馬。かなり無理のある持って行き方だが、デインヒルヲキラーたる切れ味と勝負根性の源泉がその配合にあったといえなくもない。そういう配合の母にサッカーボーイなら、G1勝ちを機に瞬発力に目覚めても不思議なかろう(不思議か、やっぱり)。ともあれ、ナスルーラのラインブリードも潜むこの配合が、そういわれているほど瞬発力不足とは思えないということで、皐賞馬と菊花賞馬の組み合わせで万馬券(たぶん)なら脱力する、いや、凄くおいしいじゃありませんか。

 タップダンスシチーは米2歳チャンピオンヲチーフズクラウンをはじめ途切れることなく活躍馬の現れる名門ミスカーミー系。前出のウィニングカラーズは祖母の産駒で、この牝系のシンボル的存在だ。父はアンブライドルドの勝ったケンタッキーダービーで3着だったが、その力がなかなか大レース勝ちに結び付かず、4歳時はブリーダーズCスプリントなんぞに顔を出してそれでも2着に健闘、5歳になってようやく古馬一線級のレギュラーメンバーとなり、サバーバンH、ジョッキークラブGCなどを制して米最優秀古馬に選ばれている。底力はあるのに実を結ぶのに時間がかかる点はこの息子にも受け継がれており、朝日CC後の停滞は力関係よりも立ち回りの巧拙と捉えたい。名牝系にノーザンダンサーがかかって、父が貴重なリボー直系の大物となれば、大レースでこそ狙いたいタイプといえよう。

 イーグルカフェはドラール賞のの好走にもちょっと驚かされたが、JCダート勝ちにはもっとびっくり。エイシンプレストン、アグネスデジタルなど、この世代のソには特別なしたたかさが備わっているようで、日本と海外、芝とダートといった高いはずの壁を簡単に飛び越えてしまう。全体的には弱いとされる5歳世代だが、外国の海外競馬通(?)にこの世代は弱いんですよなんていったら怪訝な顔をされるに違いない。もっとも、祖母の孫には欧州と米国の両方で2歳チャンピオンに輝いたアラジがいて、ボーダーレスの活躍には裏付けがあったわけだし、父のガルチも出すときには欧州の芝も米国のダートも関係なく一流馬を送り出す。サンダーガルチがケンタッキーダービーとベルモントSに勝ち、現役の代表産駒ネイエフは2000mがベストとはいえドバイシーマクラシックも圧勝しているように、配合によっては長距離に対応し得る下地もある。確かにガルチ×ヌレイエフでレイズアネイティヴの近交も持つだけにマイラー配合であるのは確かだろうが、アラジのほかにもダンスパートナー、ダンスインザダークの姉弟、米国の芝の強豪ジョワユーダンスールが出る牝系の力で、そのあたりはカバーできないか。

 シンボリクリスエスには強いという印象はあっても、タニノギムレットのような暴力的な強さというか、破壊力を感じない。ほとんど好みの問題ではあるが、今のところタニノギムレット影から外に出ない感じ。母の父がまったくの無名種牡馬で牝系もG3勝ちの母が出世頭。パターンとしてはサンデーサイレンスやクロフネのように、血統の枠を破って突如現れた怪物という可能性もあるが、個人的にはこういうタイプを認めるのに時間がかかるし、ひとつケタ違いで圧倒的な勝ちっぷりというのを見せてもらわないと信用できないんですな。

 ここ数年の傾向として、牡牝の力の差が、全体の水準として開いてきていると思う。ファインモーションが牝馬に対して見せる強さは圧倒的なもので、あれだけ突出していれば牡馬とも互角にやれるだろうし、恐らくエアグルーヴのように特別な存在ではあるのだろう。しかし、このレースだけはコースの特性か時期的なものか、トウメイ以来30年勝ち馬がないように、牝馬にとってはジャパンC以上に厳しい。勝てば脱帽ということでお茶を濁す。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.12.20
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