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去年のはじめ、シアトルスルーが種付けを中止して頸椎の手術を受けたというニュースには大いに心配させられたものだ。1974年生まれの御老体だけに、ああ、そのまま引退かとも思ったが、やっぱり50年に一頭クラスの名馬は違うね。2000年の種付けシーズンは棒に振ったものの、その後、ちゃんと回復したようで、今年は46頭に予定されている種付けも2月12日にスタートしてから順調なようだ。しかも2月のフロリダ・ファシグティプトンセール(クロフネやケンタッキーダービー馬モナルコスの出た2歳調教セール)では100万ドルの最高価格馬を出したし、今年の米3歳戦線でも牡馬に大物は出なかったが、牝馬にはアッシュランドSのフリートレネー、ケンタッキーオークスのフルートとG1勝ち馬を出して、ますます意気盛んな様子で、ファンとしてはホッとする。もちろんじかにシアトルスルーを見たことはないし、時に見かけ倒しのスカも出すが、その仔や孫にはいいなあとため息の出るようなのが多い。シアトルスルー自身はプロ的に見れば欠点も目につかないではない馬体だったようで、そのせいでセリでは安かった(イヤリング=1歳で1万7500ドル)ともいわれるが、走る姿は古いビデオ映像でも文句なしに格好いい。直仔では、エーピーインディとか、それ以上にタイキブリザードあたりはまさにシアトルスルーという印象がある。
さて、タイキブリザードの後輩(?)にあたる◎マチカネキンノホシは、力を持て余してさまよえるシアトルスルーというべきか、少なくとも体だけ立派だが動きの鈍重なスカ・タイプではないことははっきりしているし、体力面でのMaxはG1級と思えるものの、今のところ条件が合ったときにG2に勝つという程度。530K超級の馬体といい、ギューンと加速するときのパワーといい、シアトルスルーらしさは備えているのだが、それがタイトルに結び付かない。これで、もし、直線的な流れのアメリカで走っていれば、3回に1回くらいは強烈な追い込みがはまってG1に勝てたりしていたのだろうが、日本の中長距離戦では緩急の変化や駆け引きに精神的に消耗してしまって、体力的な強みを生かし切れないようだ。かえってマイルG1の厳しい流れなら、前半で一生懸命ついていって、直線で一心不乱に追いまくれば結果的に最初にゴールしてたというのもありだろう。さすがのデザーモも上がり3F36秒台が限界のボーンキングでは4着が精一杯だったが、こちらは34秒台の脚は使える(1600mで使えるかどうかは保証できないが)。デザーモ騎乗のシアトルスルー産駒といえば去年のBCスプリント、大外から追い込んでコナゴールドに髞n身まで迫った(2着)オネストレディがいるので、藤沢和師が「オネストレディくらいの脚は使えるよ」とか何とかハッタリでもいいからアドバイスしてやればデザーモもその気になって大外一気、大勢逆転のスプリントを引き出してくれる可能性はないでもないと思う。 母はアリシーバの半妹。上級G2のラカナダSに勝って、ハリウッドオークス、サンタマリアHとG1ではチョイ足らずだったから、そういう壁が息子に伝わっているといえなくもないが、ケンタッキーダービー、BCクラシック勝ちのアリシーバは、競走馬としてはシアトルスルーとまではいかないまでも3〜5年に1頭クラスの名馬だったことは間違いないので、底力の面でG1で格負けする心配はない。むしろ、G1でこそ力を発揮できるタイプともいえる。また、母の父アリダーの母系に回っての有能さというのは今年のケンタッキーダービーでもはっきりしていて、デカいばかりでどうかなこれはと思われたターコマン(アリダー直仔)のスタミナはハイペースの流れでモナルコスをグイッと米3歳の頂点に押し上げた。先週の感じからすると、そうめちゃくちゃ高速決着にはなりそうにないし、高速戦になればなったでシアトルスルーは強い。 アメリカ3大血脈のひとつがシアトルスルーとすると、あとの2つはミスタープロスペクターとダンチヒ。○アグネスデジタルは、ある意味ミスタープロスペクターの忠実な後継者クラフティプロスペクターが父で、母の父はダンチヒ×セクレタリアトのチーフズクラウン。これまでのクラフティプロスペクターはホームランは出ないが打率は良くて、最悪でも内野安打で帳尻を合わせるという傾向が強かったが、こういうある水準以上の種牡馬というのは晩年になるとそれなりに自らのアベレージを超える産駒をなぜだか知らんが出すもので、アグネスデジタルがG1で突き抜けたのはそういうA級種牡馬晩年の輝きというのが大きいと思う。ただ、母系を見ればその裏付けとなる底力を備えていたのも事実で、母の父は今後ステイヤー血脈として伸びていく可能性のあるチーフズクラウン、そして祖母はブラッシンググルームの半妹で、その父は当代随一のステイヤー血脈アレッジドときている。ダート馬のようで芝馬、早熟なようで奥手、子供のようでおっさんというこの馬の一種つかみどころのないキャラクターは、極端なスピードとスタミナを組み合わせた、一見ミスマッチに思える配合を微妙なバランスで繰り返してきたことによると思える。見た目にはようやく大人の体つきになってきたところで、発展途上の去年の秋とは違った強さを見せてくれるかも知れない。 ダンシングブレーヴの仔は強いが、自分の形に持っていけないと案外モロい。テイエムオーシャンのオークスで再認識した。エリモシックなんかでもそうだが、素質だけである程度まで行けて、そのあと自分の形を見つけるまでにちょっと時間がかかる。テイエムオーシャンも自分の形を見つければエアグルーヴ級まであると思うが、そこまで行くには今少し試行錯誤が必要なのかも知れない。▲ジョウテンブレーヴはマイルの流れで自分にピッタリの形を見い出した。日本のダンシングブレーヴの成功パターンである“母系にナスルーラ”を踏襲していて、母の父はロイヤルスキーなので、オリャッという爆発力は東京がベストでもあるだろう。牝系がちょっと地味だが、遡れば名門ビューチフルドリーマー系であり、こういう鳴りを潜めていた名門が目覚めるのは近年では結構よくあるケース。はまったときのリファール系の暴力的な破壊力というのはシアトルスルーもミスタープロスペクターも太刀打ちできないものだ。 △メイショウオウドウはサンデーサイレンス×リファールで、祖母が仏オークス馬。グラスワンダーをビビらすくらいの力があるのに、育ちが良過ぎるというのか、G1ではどうもあと一歩破れない壁がある。甥のトブーグも今年の英2000ギニーで1番人気に推されながら、中団でもモジモジしていて伸び切れなかった。でも、ステイゴールドのドバイシーマークラシックに見るように、サンデーサイレンス産駒のモジモジ系は加齢とともにとげとげしさが抜けて深い味が出てくるのも確かで、気楽に臨めば、いや、なんか、すんまへんな、ありゃりゃ、勝ってもうたというケースもあり得る。 トロットスターは去年のフリーハンデもマイルが最高値だったように、安田記念では地味ながら頑張っていた。昨年後半以降は穴党の手の届かないところにいってしまった感があって、4連勝でついにG1ホースになったが、今度はメンバーが豪華なので本来の地味な存在に戻れそうだ。チョコッと単勝だけ買う手も面白いかも。 アラン師は人気薄で日本をアッといわすのが好きなようで、フェアリーキングプローンもディフェンディングチャンピオンだけに馬券的妙味は薄い。案外、狙いは秋のJCやったりして。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.6.3
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