2001エリザベス女王杯


忘れたころのブライアンズタイム

 秋の天皇賞が終わった翌週の日曜日、午前4時の馬場開場に合わせて松田国調教師がトレセン調教スタンドの3階に上がってきた。一番乗りでDWに入るクロフネらの動きを確かめるためだ。それと前後して、3階の専門紙席の一角を定位置としている白井調教師が現れる。どちらからともなく、「おめでとう」、「いやー、強かったなあ」、「握手しようか」という具合に、前週のクロフネとアグネスデジタルの成果を讃え合った。どちらかが結果を出せずに終わっていれば、こういう場面に居合わせると第三者としてはいたたまれない状況となっていただろうが、ときに競馬の神様の粋な計らいというのがある。クロフネはダートで芝以上のパフォーマンスを示し、アグネスデジタルは今や“世界選手権距離”となった2000mを守備範囲に収めた。エルコンドルパサーやグラスワンダーを見ても分かる通り、番組に選択肢の増えた今、秋の天皇賞に出られなくて絶望しなければならないケースは実はそれほどない。どちらかというと、困るのはエルコンドルパサーやクロフネといったスーパースターを排除することで格を落としかねない天皇賞sの方だ。外国産馬への部分開放は去年から春秋の天皇賞、今年はダービー、菊花賞と実施され、来年が皐月賞、2003年オークス、2004年桜花賞と順次2頭ずつ(マル外の食い込みにくそうな菊花賞だけは来年から3頭)の枠を与えられて一応の完結となる。結果的にフルゲートに満たなくて、しかもクロフネがはじかれた今年の天皇賞sではJRAへの非難が吹き出したが、これはJRAと生産者の交わした約束に基づくものであって、約束というのは一方的に破棄するわけにはいかないので、非難されてもJRAとしてはどうすることもできない。長い時間をかけた交渉のすえにできあがったものをもう一度見直すとなるとさらに長い時間が必要で、そうこうするうちにやっと妥協点を見い出した新たな約束が、出来たころにはまた実状に合わないものになっている可能性もある。例えば毎日王冠が国際G1に認定されて、秋の天皇賞はJRAローカルグレードのままというのは最も起こりうるケースだろう。そうなってしまうと、誰もが「もう天皇賞はエエわ」となって、天皇賞を守るつもりの動きが、その価値を損なう方向に働いてしまう。

 個人的には、今のところ春の3歳限定戦はある程度規制を設けて内国産馬を保護するのはいいと思う。成長途上にマル外の猛攻にさらされて、古馬になったらそのマル外もいなくなったというのでは何も残らないからだ。でも、3歳秋以降はもう温室は必要ないのではないだろうか。実際、3歳限定戦として唯一のナだったこのレースに、今年など1頭もマル外がゲートインしていない。自然にしておけば、案外、落ち着くべきところに落ち着くものなのだ。

 さて、今年は、サンデーサイレンス産駒のドバイワールドC2着馬にトニービン、ブライアンズタイム、サッカーボーイにメジロマックイーンの産駒、桜花賞馬にオークス馬、秋華賞馬に2頭の2歳女王、さらにダートの“オークス馬”までバラエティに富んだメンバーが揃った。これまでの傾向をいえば、世代のレベルとしては5歳と3歳が強い。上半期のクラシックはジャングルポケット、レディパステルでトニービンが“勝ち組”になった。でも、菊花賞、秋華賞とトニービン産駒が敗れ、“弱い4歳世代”のアグネスデジタルが天皇賞を、レギュラーメンバーとノボジャックがJBCクラシックとスプリントを制したのを見ると、ちょっと風向きは変わってきたのではないかと思う。秋を迎えて反攻に出た4歳世代で、今年まだG1に勝っていない“3大種牡馬”の一角ブライアンズタイム。となるとスリーローマンだ。思いつきをむりやりこじつけた予想で全然自信はないが、テイエムオーシャンのペースメーカー役が今度はヤマカツスズラン、トゥザヴィクトリーという強力古馬。2200mのはずが2000mのレースになって差し馬に展開が向くケースは十分考えられ、そういう消耗度の激しい乱戦になるとブライアンズタイムの底力が生きてくる可能性は大いにある。祖母のカミモリレディーが走った84年のエリザベス女王杯もそんなレースで、桜花賞馬ダイアナソロン、オークス馬トウカイローマンをキクノペガサスが差し切ったと見えたところをさらに後ろからキョウワサンダーが交わし去ったのだった。カミモリレディー自身はそれらに続く5着で、関係ないといえば関係ないが、本来、女王杯というのは残り1Fからの大逆転のスペクタクルが売り物であり、2200mの古馬混合戦になっても、それなりにそういう部分は確かに残っている。ひとつ上の半兄オペラハットは東京王冠賞を後方一気で差し切っていて、差し脚に自信を持つファミリーかと思いきや、アコニット系の代表といえば、人気薄の逃げで皐月賞、ダービーの2冠を制したカツトップエース。つかみどころのない部分が多くて、むしろ単穴が妥当かもしれないが、どうせなら大きく返ってくる方がいい。ちなみに母は大井の東京プリンセス賞勝ち馬。ブレイヴェストローマン産駒としてはこの世代唯一の重賞勝ち馬で、こういう綱渡り的狙いにはむしろふさわしいかも。

 ○ローズバドはこの4走、100%能力を出し切ったレースというのは一度もなかったと思う。といって、スムーズに運んでいても案外なのかもしれないが、それぞれのレースで勝ち馬により有利な状況になっていたのは事実だろう。スローで流れてもビュンと差し切れるのがサンデーサイレンスの良さであり、消耗戦になればなったで母の父シャーリーハイツのスタミナが生きてきそうだ。どっちに転んでも怖い。

 メジロサンドラは昨年のこのレース、そして一昨年の秋華賞と、馬券を買っていないとそうでもなくても、多少ひいき目に見るとそれなりにいいレースをしていると思う。メジロマックイーン産駒だけに上がり34秒の究極的な切れは望むべくもないが、今年の馬場なら流れ次第ではこの馬の守備範囲にならないか。エルコンドルパサーの母の父がサドラーズウェルズ、今年の凱旋門賞馬でブリーダーズCクラシック僅差2着のサキーの母の父もサドラーズウェルズ。父系としてはスピードに一抹の不安が残るサドラーズウェルズも、母の父として底力を付与するという点で今後も世界でトップの地位を守っていくだろう。眠った底力の爆発に賭けて。でも、京都2200mって全盛期の父がライアンに負けた宝塚記念と同じ舞台やねえ……。

 テイエムオーシャンは前のヤマカツスズランとトゥザヴィクトリーさえ交わせばいい立場だが、逃げ馬といっても、それぞれ経験を積んだ古馬、果たしてそういう競馬ができるのかどうか。母のリヴァーマン×ミルリーフという組み合わせが騒ぎ出すと難儀かもしれない。△。

 やはりレディパステルは、というよりトニービンはある程度自分の形にはめないと切れ味が発揮できないようだ。このレースでトニービンが未勝利なのは、なかなかそういう展開にはならないということかも。

 ティコティコタックはこの1年不完全燃焼だが、去年の秋華賞で燃え尽きているわけでもない。サッカーボーイの血は奥が深いぞ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.11.9
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