2001桜花賞


偉大な勇者の忘れ形見

 テイエムオペラオーのとんだエープリルフールで始まった4月。今年の春先は日によって気温の変化が異常に大きかったし、例年より花粉の飛散量も多いようなので(これは関係ないか)、ただでさえ体調維持が微妙な時期のクラシック、やはり波乱含みで推移していくのだろうか。とはいえ、ここまでのテイエムオーシャンの強さは別格で、過去に1番人気でコケた桜花賞候補のようなちょっとしたほころびのような部分もないだけに、ここは信頼できそうだ。荒れるとすればヒモに人気薄が絡むパターンだろう。

 テイエムオーシャンは祖母が桜花賞馬エルプス。エルプスはミホノブルボンに見られたように、その父マグニテュードのガンガン飛ばすスピードの側面が強く出た牝馬で、世代的なレベルではそう強いわけでもなかったその年の牝馬戦線で、オークス、エリザベス女王杯と距離が延びるともうごまかしがきかなかった。スプリンターに近いマイラー、今や珍しい“桜花賞命”というタイプの可憐な快足馬だった。繁殖入りしてからのエルプスは成功しているとはいい難いが、直仔は今イチでも一代おいてその血の真価を発揮する例は多く、テイエムオーシャンもそういう存在だろう。父は欧州最後(?)のスーパー名馬ダンシングブレーヴ。欧州最後といっちゃっていいのかどうか迷う部分もあるが、欧州型の競馬が世界最高の競馬であった時代はとっくに過ぎてしまったとドバイの国際レースを見てると思う。それはさておき、ダンシングブレーヴの才能は欧州に残してきた産駒の活躍や、日本に輸入されてからもキョウエイマーチ、エリモシック、キングヘイローといった大物を送り出してきた事実からも明らかだし、逆に、産駒の出来のバラつきや、ここ一番で強いかと思うと楽な相手に弱かったりするアテにし辛さという弱みもあったが、やっぱり一番の特質というかダンシングブレーヴのエッセンスは、勢いに乗ると何をもってしても止められない圧倒的な驀進力(こういう言葉ないか?)だと思う。ダービーまで無敗で突き進んだコマンダーインチーフ、伊ダービーでのホワイトマズルの派手なパフォーマンス、キョウエイマーチの桜花賞での圧勝劇など、どれも、ああ、ダンシングブレーヴやなあと思わせるものがあった。テイエムオーシャンもその点ではまさしくダンシングブレーヴ的だ。母系からナスルーラ血脈が入っているのは日本でのダンシングブレーヴの一流馬のセオリー通りだし、キョウエイマーチと同じくネヴァーベンドをくぐってのナスルーラ。ただ、母の父が、歯車がピタッと噛み合ったときとそうでないときの差が激しいリヴリアで、母自身ネヴァーベンド3×4のインブリードを持つあたり、オークスになると危険なムードも漂ってきそうだが、そのぶんだけ桜花賞でこそといえる面もある。これまでのような力任せの競馬で押し切ってしまいそうだ。

 さて、ここからが本題です。相手にどれを取るか。ここまでの前哨戦からは、暮れの阪神3歳牝馬Sの結果通りになりそうな気もするが、ダイワルージュは優等生タイプのサンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合で、母のスカーレットブーケ、その全姉スカーレットリボンはどちらも桜花賞で人気に応えられなかった。リワードアンセルには大レースで一発がありそうな可能性が感じられないでもないが、ダイワルージュとの親分子分関係がもう固定してしまった感じで、牝馬ってこういう上下関係は大事にするものだ。そこでムーンライトタンゴ。父はサンデーサイレンス後継No.1の期待がかけられながら、いまだ重賞勝ち馬ゼロ。でも、去年のフレッシュマンサイアーランキングではトップになっていて、2歳フリーハンデにも結構な頭数が入ってきている。要するに能力はあるが決め手がない、素質はあるが成長途上、好意的に解釈すればそんなところだろう。ムーンライトタンゴも、好意的に解釈すれば、ほかより遅れて仕上がったぶん、開発余地も大きい。ブルードメアサイアーのトニービンもこの分野(母の父)では若手だが、すでにアドマイヤベガ、アドマイヤボス、サンプレイス、ミスキャストと大きな成果を上げていて、サンデーサイレンス血脈と相性がいいのも強み(それにしても、社台の歴代トップって、ガーサント、ノーザンテースト、リアルシャダイ、トニービン、サンデーサイレンス……とみんな不思議とお互い相性が良くて、どっかの政党とエラい違いですな)。牝系は4代母オドリコの仔に朝日杯3歳Sのギャラントダンサーがいきなり出て以来、鳴りを潜めているが、ディクタス、トニービン、ダンスインザダークとそれぞれ違ったタイプの強烈な差し脚を武器にする種牡馬ばかりが配合されてきたことによる奥の深さは期待できて、テイエムオーシャンがガーッとみんな蹴散らしたところに差し込んでくるシーンが目に浮かぶ。ただ、デビューから桜花賞までずっと馬体重を減らす一方の馬が勝ち負けする例は極めて少ないので、当日の馬体重は要チェック。

 ▲タシロスプリングは97年8月に世を去った大種牡馬マルゼンスキーのラストクロップになる。マルゼンスキー牝馬というと、現役時はスピードに任せてピューッと行くだけで味がなく、繁殖入りしてから本領発揮というのが多いし、この馬あたりも重賞勝ったし牧場がオーナーやからもうええかな……という背景がありそうな気はする。前走の大敗も不利どうこう以前の問題ではないかとも思う。でも、年の差はともかくマルゼンスキーとフォーティナイナーの配合はいかにも合いそうで、曾祖母も米G1セリマS勝ちの名牝。血統表を眺めていても、バランスの取れた様式美を感じさせるという点ではこれがメンバー中一番。死んだ種牡馬の仔同士でワンツーというのがひょっとしてあるかも。

 △フィールドサンデーは、入厩して、馬場に入ってくるとちょっと目をひく馬体、キャンターも実にいい飛びをしていて、週刊誌の推奨馬コーナーで思わず「桜花賞候補」と書きそうになった。ま、どうも切れる脚がなさそうで、そこまで書かずに良かったなとは思っているが、これも「ひょっとしたら」のクチ。半姉ブライトサンディーはサンデーサイレンス驚異の初年度産駒(ま、ほとんどの世代が“驚異”の……だが)の1頭で、サファイヤS、函館記念に勝ち、エリザベス女王杯はサクラキャンドルの2着。牝馬限定G1.5クラスの能力はあった。サンデーサイレンス×アリダーの配合では皐月賞のイシノサンデーが出ていて、祖母の父がロベルトでヘイルトゥリーズン3×4のインブリードを持つあたりも流行の先を行っているおもむきがある。うまく立ち回って、ドンピシャで脚を使えれば……。

 フローラルグリーンはナリタトップロードの半妹。この母はナリタトップロード以外にも、全日本3歳優駿のホウシュウサルーン、若葉Sのグリーンプレゼンスと配合種牡馬を問わずに高い能力を伝えていて、同時にブルードメアサイアーとしてのアファームドの優秀さも証明している。フォーティナイナーとの配合では、レイズアネイティヴ3×4をメインに、ダブルジェイ4×4、ナスルーラ4×5×5が生じて、はっきりいって桜花賞ではここまでアメリカ血脈が強い配合は似合わないのだが、逆に考えるとテイエムオーシャンを負かそうとすれば、これくらい異質な血統の方がいいかも。ただ、グリーンプレゼンスは2連勝して皐月賞を前に骨折、ナリタトップロードは皐月賞、ダービーともに惜敗で、フローラルグリーンはトライアル前に熱発。この系統にとって、3歳春はちょっと不調な時期なのかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.4.6
© Keiba Book