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桜花賞では500万下の平場を勝ち上がったばかりのムーンライトタンゴが2着して、NHKマイルCでは、これも500万下の牝馬限定戦を勝って挑んだシェリルウーマンが見せ場たっぷりの3着。未曾有のハイレベル世代といわれるこの3歳も、何頭かのスーパースター級が突出しているだけで、全体として考えると(今のところ)そう高い水準というわけでもなさそうだ。特に牝馬戦線は、フィリーズレビュー、フローラSともに1勝馬が勝っているように、テイエムオーシャン1頭が突っ走って、あとは実績馬も新興勢力もそれほど差のない2番手グループ団子状態といえる。 突っ走るテイエムオーシャンは、史上10頭目の牝馬2冠を目指すことになる。桜花賞に勝ってオークスでも1番人気になった馬をタイプ別に分けると(1)オークスもそのまま押し切る(過去20年の例ではメジロラモーヌ、マックスビューティ、ベガ) (2)何かに負けるかもしれないが連は外さない(ダイアナソロン、シャダイカグラ、アグネスフローラ、シスタートウショウ) (3)人気だが微妙にヤバいかも(リーゼングロス、アラホウトク、ニシノフラワー、オグリローマン、キョウエイマーチ)と大別できる。こう並べてみると、なるほど、何となく納得できるものがあって、その年の桜花賞馬がどのタイプに属するか事前に分かると馬券を買う段になって非常にありがたいのだが、近年はファレノプシスとかプリモディーネとかチアズグレイスとか、どうも微妙だ。1番人気が確定的なテイエムオーシャンはどのグループに属するかというと、(1)に近い(2)であろうというのは何となく分かる。負かせそうなのを見つければその馬から狙えばいいし、そうでなければ無理にひねらずテイエムオーシャン中心で考えて良さそうだ。掛かるので2400mが微妙という考え方もあるが、桜花賞であのペースなら行きたがらない方がむしろおかしい。それに折り合いというのは距離が延びれば延びるほど確かに重要な要素になってはくるが、それが全てというわけでもなく、まず身体的能力的な距離適性が先にあって、そのあとで掛かるよりは掛からない方がいいという程度だと思う。例えば、オグリキャップ対タマモクロスで、うーんどっちかな、掛かった方の負けというレベルの話で、引っ掛かるけどステイヤーというのは少なくないし、掛かる掛からんで大きな能力差がひっくり返るわけでもない。ひっくり返るとすれば別の要素で、テイエムオーシャンを前述の例で(1)とはいい切れない(2)かなと思うのは、やはり祖母エルプスの存在。エルプスは桜花賞を逃げ切ってローズSでも2着に粘ったが、その走りっぷりからすると本質的にはスプリンターというべきで、こういう強力なスプリンターの個性というのは母系に入って代を経てもなかなか消えないものだ。先日世を去った名牝クリムゾンセイントなどもそんなスプリンターで、セクレタリアトだろうがニジンスキーだろうがどんな配合でも強烈なスプリントを伝え、孫のストームキャットのさらに孫の代くらいでようやくそのスプリント能力を(中距離でも)賢く使えるようになったとさえいえる。テイエムオーシャンの場合もその能力が高いがゆえに、エルプスの強力なスプリントの影響を無視できないと思う。同じ父の桜花賞馬キョウエイマーチとは馬のタイプが違うので、ありゃりゃという惨敗はないと思うが、何かに足元をすくわれる可能性はある。○。 ダンシングブレーヴはダービーを取りこぼしたが、ダービー、“キングジョージ”、凱旋門賞の欧州近代3冠を無敗で制したのがラムタラ。ダンシングブレーヴとラムタラが同じレースを走ればジワジワ抜け出したラムタラをダンシングブレーヴがギューンと差し切ってしまうと思うが、これはあくまで想像に過ぎず、ま、実際にはダンシングブレーヴにも出来なかった偉業を達成した奇跡の馬として史上空前の価格でシンジケートを組まれて導入されたのがラムタラだ。ただ、この92年生まれは、世代としては近年の欧州では最高のレベルを誇った。まず、2歳戦でケルティックスイングがインターナショナルクラシフィケーション“132”という空前のレーティングを得たのを皮切りにペニカンプ、ペンタイア、スウェイン、シングスピール、ピルサドスキーと年を追って尻上がりに強い馬を送り出したのがこの世代で、そのクラシック戦線の中心に位置していたのだから、やはりラムタラもただ者ではなかったといえる。種牡馬としての可能性は血統背景、供用環境その他いろいろな要素に左右されるが、実は最も信頼できるのはその馬自身の実際の強さであり、ノーザンダンサーにニジンスキー、シアトルスルーにサンデーサイレンスと、やはり名種牡馬の多くは名競走馬なのである。ラムタラは欧州に残した初年度産駒からは英オークス3着のメリカー程度しか出なかったし、輸入後の世代からもまだ目立つ産駒は出ていないが、たぶん“忘れたころの満塁ホームラン”をかっ飛ばすタイプだろうと思う。あれだけ大騒ぎして輸入されて、何もないというのは考え辛い。◎アデレードシチーは忘れな草賞にすら出ていない全くの別路線組だが、母のヤンゲストシチーは89年のオークスで内の3番手で渋太く粘ってライトカラー、シャダイカグラからクビ+1齡n身差の3着に入っている。ミルジョージ×アローエクスプレス×テスコボーイというナスルーラのインブリードを施された配合にしては、不思議と瞬発力よりも渋太さの目立った馬だったが、ラムタラとの配合ではそのナスルーラ血脈が生きてくると思う。しかも、ミルジョージ、アローエクスプレス、テスコボーイはそれぞれオークス馬を送った種牡馬で、5代母ヒロイチはオークス馬(ちなみにラムタラの母も89年の英オークス馬だが、これは圧勝したアリーサが薬物検査で陽性となったためのタナボタ)。400Kそこそこの小さい馬だが、お母さんもそんなものだった。阪神3歳Sのゴールドシチーのいるファミリーで、さらに遡ってチップトップ系からは最近でも有馬記念のシルクジャスティスが出ているから藤田騎手にはピッタリかもしれない。でも、そういえば、ゴールドシチーといい、この馬のお母さんといい、主戦は本田騎手だったな。 ムーンライトタンゴとテイエムオーシャンの桜花賞での0.5秒差は数字以上に大きい印象を残したが、当時のペースと今回の距離延長を考えれば縮まる可能性は大。ただ、父系がサンデーサイレンスで母系がトニービンという配合には繊細な部分がつきまとって、距離が延びていいのは確かでも、無条件で飛びつけないモロさも秘めていそう。そのぶん△。同じ父のオイワケヒカリはその点、母の父がモガミで、オークス向きの図太さを感じさせる。ネーミングも好対照だが、こちらの方が2400mでの消耗戦になった場合は踏ん張りがききそうだ。▲。 ローズバドは母といい叔父のロサードといいG1ではチョイ足りないという印象だが、母の父シャーリーハイツは時として配合種牡馬の個性を無視してステイヤーを出す。フィリーズレビューの脚をここでも発揮できれば勝てそうだが……(勝ったら前回買ったひとは怒りそうだ)。 サクセスストレインはNHKマイルCで消化不良というしかない内容に終わったネイティヴハートの姪。父はネイティヴハートのスターオブコジーンと同じコジーン直仔で、こちらはより長距離で切れ味を発揮したティッカネン。ティッカネンはプリンスキロ4×4のBCターフ勝ち馬で、母の父がノーアテンション。ネイティヴハートの長距離バージョンといえる配合。父譲りの末脚が発揮できればバッサリ。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.5.18
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