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コンコン。失礼します。 どうぞ。そこらへんに掛けて下さい。というても君ら座れへんわな。じゃ、立っといて。吉田くん(秘書)、紹介してくれるか? 吉田 はい、左がダイタクヤマトさん。7歳の牡で父ダイタクヘリオスの平取町出身。去年の秋、突如スプリンターズSに勝って、今年も阪急杯でブラックホークさんを押さえて勝ちました。右はトロットスターさん。こちらは浦河産の5歳牡馬で、父がダミスター。去年の秋からどうしたことか3連勝中です。 あ、そう。で、今日お二人に来てもらったのは他でもない、「高松宮記念プロジェクト」の件や。分かってるやろけど、日本は今、株価暴落にデフレにリストラ、その他もろもろで大変や。ヨーロッパはというたら口蹄疫でてんやわんややし、アメリカでもこないだのバレッツセールなんか去年から40%減の売り上げや。こういう、競馬を取り巻く状況が世界的にチョー厳しい中で、君らがどれだけやってくれるかを聞かせてもらえへんやろかということや。場合によっては今回のプロジェクト全面的に任せたい。 ダイタクヤマト(以下ダイ) 何のこっちゃ分からんけど、大丈夫なんちゃうかと思うよ。 トロットスター(以下トロ) ボクもとりあえずいいかなと思います。 分かってんのかいな。どうも全面的に信用でけへんのやけどな。今回はこれからの日本の短距離界をホンマに君らに預けてええのかどうか、大事なプロジェクトになる。頑張ってもらわんと困るんや。で、ダイタクヤマトさん、履歴書見ると君は若いころは随分のんびりしてたようやね。2歳で未勝利、特別と連勝して、センスあんのかな〜と思たら、そのあとは年1勝ペースや。私は君のお父上も存じ上げてるけどね、ヘリオスさんはホントに強なったのは古馬になってからやが、何やかやいうても3歳春には重賞勝ってたよ。 ダイ ワシは大器晩成なんかな。 トロ 自分でいわないで下さい。 ダイ いや、正直なハナシ、橋口さんとこにおるころは、ほれ、ほかに良血で才能のある若いコがいっぱいおるわけでしょ。ワシらがそんなに出しゃばらんでもええわけよ。でも石坂さんが独立して、10馬房からスタートとなると、立場的にワシら即戦力の大黒柱やからね。それで今までみたいにのんきにやってたらちょっと悪いなと。こう見えても気い遣てんねん。 確か去年の高松宮記念にも出てたね。 ダイ チョロッと前へ行って、ブランク明けやったから粘れんかったけど、そう負けてないで。 吉田 キングヘイローさんからたった0.5秒差ですが、11着の惨敗です。 0.5秒差か。短距離の0.1秒は大きいからねえ。 ダイ でも、あれで、大体分かったわ。フランスのG1勝ったとかいうてた、あいつ……。 トロ アグネスワールドさん? ダイ そう、それ。実際走ってみて何や大したことないなあと思た。G1でやっていける手応えを感じたね。 トロ ホントですか、あのときはボクにも負けてたんですよ。 ダイ おまえ、出てたんか? 知らんかった。あのころまだ印象薄かったもんな。 当時のトロットくんは、強い相手に健闘したかと思うと弱い相手に取りこぼしたり、穴党の秘密兵器みたいなもんやったからねえ。 吉田 はい、資料によりますと、昨秋オーロCに勝つまでは、1番人気になったのが3回だけ、1番人気で勝ったのはたったの1回です。 いやいや、力はあるのに競馬が分かってない時分にはようあるこっちゃ。それより、ダイタクヤマトさんなんか最後に1番人気になったのが、えーっと……。 吉田 99年の11月が最後です。準オープンで6着です。 ダイ あー、あの時な。あれはでも、タケユタカが乗ったからやで、1番人気になったの。 そうや。でもねえ、ユタカが乗ったから人気したんやという、無責任とはいわんが、あなたの姿勢というかな、それがわれわれの間でも論議を呼んでるわけよ。大事なプロジェクトの責任者が務まるんかどうかと。私はね、あなたの擁護派ですよ、どっちかというと。去年の高松宮記念でもあなたとトロットくんで馬連2千倍の馬券を本線で持ってたんやから……。 ダイ アホや。 アホていうな! ま、それはいいです、終わったことやから。で、またお父上のことをいわしてもらいますけど、彼は、1番人気で勝ったのは2歳の暮れの特別が最後で、人気に応えたといえるのも3歳のニュージーランドTで1番人気2着が最後でしたね。古馬になってから1番人気で勝ったことなかったんちゃうか。 吉田 ありません。ダイイチルビーとかイクノディクタスとかシンコウラブリイとかの美人と走ったときだけ張り切ってたようです。 そやろ。そのへんがアテにできんのよ。良くいえば天才肌特有の気まぐれというか、そういうのがあるから。ま、君の場合はね、お母様もユートピア牧場の名門のお嬢さんやから、そのぶん、ホンマに強なった今なら信用してもええかなという部分もあるんやけど……。ただ、こないだの日曜日、君が左回りで調教するの見させてもろたんやけど、逆手前でキャンターしてたな。そのへん、左回りで勝ってないのと関係あるんちゃうか? ダイ そんなん軽いキャンターやんか。ワシらもう6年も走るの商売にしてんのに、いちいちどの脚から出すかなんて考えて走ってられるかいな。 ふーん。それはまあ、ええとしよう。でも、それだけやない。7歳いうても、去年までなら8歳や。体力勝負の短距離戦やろ、いいたくはないけど、年齢的なものも無視できん。 ダイ あのな、あんたら見てるだけやから「短距離=体力=若さ」と思うんやろけど、距離が短いぶん、長い距離と同じくらいの駆け引きが短時間にいっぱいあるわけよ。下の条件の短距離やったら体力でガーッと行けるけどな、G1レベルになると10m単位の判断力と瞬発力がいる。なあ。 トロ そうですよね。こないだでもボク、直線で抜けるチャンスはホント一瞬でしたもん。 ダイ そやろ。そのへんの機微はある程度キャリアを積まんとアカンねん。経験と勘というかな、体力だけではどうにもならん部分があんねん。ブリーダーズCのスプリントでも見てみ、結構、オジンが頑張ってるやろ。 吉田 まあ、そうですが、セン馬もオジンといっていいのでしょうか? 知るか。まあ、去年の高松宮記念から1年たって、君らにも大きい仕事を任せてもええかなとは思う。ただ、問題は配当が付かんいうことや。われわれとしてはそれではつまらんのよ。そこで、今回はこの吉田くんを◎に抜擢して、君らにはサポート役に回ってもらおかと思ってるんや。 トロ 吉田くんっ!? あ、吉田、おまえ、そのメガネ外してみろ、やっぱり……。その金髪。 そう、吉田さんちのご令嬢、ゴールドティアラさんや。スプリントG1といえばシーキングザゴールドやからな。 トロ 兄貴っ! こいつ関東の吉岡TMの予想をパクッてますよ。 ダイ だれが兄貴やねん。まあ、パクッてもええやん、同じ会社やろ。 そう。吉田くん、いや、ゴールドティアラさんは、これまでダート部門で活躍してきてきたけどな、あのギュンと加速する脚はスプリントでこそと思える部分もあるんや。 トロ それはともかく、あのゴールドティアラさんは許せないっすよ、ボク。いかにも「私、引退したらサンデーサイレンス様とするの」って顔して……。ああいう女が多いから日本の馬産が一極集中しちゃうんです。 ダイ 女の子も自分で決めるわけやないからなあ。 トロ いや、許さん! ボクが勝てなさそうだったら、もう、兄貴のためにひと肌脱ぎます。 ダイ 気持ちはありがたいが、ワシらいつも裸やんか。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.3.23
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