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開拓者ニホンピロウイナーの連覇で始まったこのレースには、その後の10年ほどで本命馬が強いという伝統が出来かけたが、その後、どうも傾向は変わってきたようで、今週の週刊競馬ブックの表紙には「例年波乱の連続」なんて書いてある。流れが変化してきたのは94〜95年あたり、アメリカの調教ずみ2歳馬セールで買われた馬たちを中心とするマル外が急速に勢力を伸ばし始めたころと一致する。それまで島国の地理的条件を生かして内国産馬を中心とした豊かな暮らしを営み、平和的に王位の継承も行われていた“マイル”の領域に、異民族の侵入といっていいのかどうか分からんが、異民族には1600m前後を得意とするものが多かったので、マイル戦線は一気に最激戦区となった。ほどなく異民族ながら名君の誉れ高いタイキシャトルがこの領域を治め、しばらくは平和が保たれたが、彼も海外遠征を行って凱旋引退を決めると、その空白を内国産のエアジハードが1年は埋めることが出来たが、それも香港遠征に敗れて引退してしまう。その後は、香港の海老王フェアリーキングプローンがいったんはアジア全域にわたる覇権を築いたもののこれも1年で撤退、海老王不在の秋に砂の国からひょっこり現れたアグネスデジタルは、取るものを取ると特にこの地に執着も見せず、また別の地域に進軍していってしまった。テイエムオペラオー、メイショウドトウの両巨頭による安定的支配が続く中長距離圏(そろそろそうでもなくなってきたかも)に比べると平均的レベルはずっと高いのに、トップクラスの消長が激しく、ダート路線への才能の流出などがあり、長く重鎮としての役割を果たしたブラックホークが春を平定すると同時に引退、さらに香港方面への野望によって戦線離脱した強豪もいるため、このマイル路線の政情は今年も混沌としている。 ◎トロットスターは昨年秋から今年春にかけて4連勝でG1勝ちを果たしながら、安田記念では惨敗。態勢を立て直して秋緒戦のスプリンターズSに勝ってスプリント戦線を制圧したが、それでもそれほどの勢力とは考えられていないようだ。しかし、昨年の安田記念では最低人気ながら0秒4差の5着と、マイル侵攻への地歩は抜かりなく固めてあった。これでブラックホーク・クラスの良血であったならもっと人気にもなっただろうが、あいにく派手なセールスポイントを持たない血統だ。父は2歳馬としてアラジと並ぶ驚異のレーティング“130”を得たケルティックスイングを出した(だけ)、母の父は3歳時のナリタブライアンを負かした唯一の馬スターマンを出した(だけ)という実績がありながら、(だけ)が引っ掛かるんやね、やっぱり。確率的には代打逆転満塁サヨナラホームランが2試合連続で飛び出すようなもんやから……。実際、日、欧、米のごった煮的な配合で、アストニシメント系でも極めて地味なファミリー。再現しようとしても容易でないチャンスブレッド的な部分が大きいのは確か。それでも、ミスタープロスペクターとアレッジドの血のミックスには注目しておく必要がある。このパターンには先日の天皇賞、アグネスデジタルにもアッといわされたばかりだ。ストームキャットにリボーの配合はアメリカの定番だが、それに似た新たな大レース向きの定番配合になるかもしれない(ならんか)。アグネスデジタルやクロフネ、そしてブリーダーズCクラシックでほとんど勝ってた凱旋門賞馬サキーなど、未知の領域への越境がこの秋のモード(一時的なものでもなさそうだが)とすると、ここはスプリントからの侵攻が決まっても驚けないだろう。 春はアグネスタキオンの皐月賞だけで、例年に比べて不振といえたサンデーサイレンスが、秋を迎えて菊花賞制覇、エリザベス女王杯ワンツーと、凄い勢いで帳尻合わせ(?)に乗り出してきている。○メイショウオウドウはこの秋2走が、直線の不利、そして道悪と完全に不完全燃焼。そういう後のサンデーサイレンス産駒にはギューッとエネルギーが蓄積されている場合が多い。調教でもハミを外すと跳ね回り、ハミをかけると引っ掛かり、追えば追ったで遊んでみたりと、容易に人の手に負えないことではステイゴールドと双璧(?)といえ、それだけに6歳を迎えてもまだ秘められた能力があるのではないかと思える。ロサードと同じサンデーサイレンス×リファールの配合だが、仏牝馬2冠の祖母から、リボーやセクレタリアトの血を引いているぶん、完全燃焼したときの破壊力ではこちらが上位。 ▲ゴッドオブチャンスはコジーン×ミスタープロスペクター、そして母の全妹にはブリーダーズCディスタフに勝って引退するまで13戦無敗で突っ走った歴史的名牝パーソナルエンスンがいる良血。世界中、どこでG1勝ちを果たしても驚けないレベルだ。父の産駒にはブリーダーズCターフ勝ちのティッカネンとBCクラシックでシガーを破ったアルファベットスープがいて、父自身はBCマイル勝ち馬。距離には融通が利くが、ベストはマイル。こういう良血に良血を積み重ねた配合というのは往々にしてここ一番に弱いものだが、母系にリボー、父系がグレイソヴリンとなると、人気薄でこそ狙える意外性に富んでいる。 フジキセキの産駒は短期集中で力を発揮するのがいいようで、△ダイタクリーヴァも休み明け2戦目なら一気にエンジン全開となりそうだ。ただ、近親ダイタクヘリオスやカブラヤオーが示したような、スタイルパッチ系独特の勝手気ままな天才ぶりよりも、母の父サクラユタカオーの優等生的な性質が前面に出ているように思える。確かに安定感では最右翼だが、そのあたり、去年のアグネスデジタルみたいに無茶苦茶な脚を使うのがいると抵抗し切れない部分はあるかもしれない。 イーグルカフェのガルチ×ヌレイエフという配合は特に目新しくも面白くもないが、アラジの出るファミリーには注目しておきたい。アラジの半弟ノヴェールは中心不在の今年の欧州マイル路線の中心だった馬で、仏2000ギニー1着後、後日失格、セントジェームズパレスSでブラックミナルーシュに足元をすくわれ、サセックスSでは力強く抜け出して見せたが、ジャックルマロワ賞ではプラウドウイングスの斜行のアオリを受け、クイーンエリザベス2世Sでは自分のペースメーカーに逃げ切られる失態、ブリーダーズCマイルでも1番人気に推されたが、見せ場もなく7着に終わった。ずっと中心にいながら、主役を演じ切れず、何をやっておるのか君はという馬だが、このへん、マイル路線の混迷は北半球共通であることが分かる。まるで関係のない日本でそのへんの埋め合わせがないとは言い切れない。 ゴールドティアラはチーフズクラウン牝馬にミスタープロスペクター系種牡馬の配合だから、表面的なパターンとしてはアグネスデジタルと同じ。こちらは米国血脈オンリーで構成されているのがアグネスとの違いだが、牝系の活力では負けていないしバックパサーが入っているのも底力という点では魅力。タイキシャトルの引退レースを差し切ったマイネルラヴ、シーキングザパールもこの父の産駒だ。牝馬特有の投げやりモードに入っているかも知れない懸念もあるが、一発の魅力は大きい。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.11.16
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