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先週も少し触れたが92年生まれの英国を中心にした欧州調教馬のレベルの高さは90年代では屈指のものだった。90年代はヨーロッパの基礎的なレベルが相対的に下がっているだけにその範囲内でのハイレベルということにはなるが、レーシングポストトロフィーを大差にぶっち切ったケルティックスイングが欧州クラシフィケーションで“132”のレーティングを得ると、翌年の英2000ギニーでは大本命となったケルティックスイングをペニカンプが抑え、ペニカンプが本命となったダービーでは突如現れた無名のニジンスキー産駒がレコードで突き抜け、その勝利とドラマチックな背景から一躍“奇跡の馬”と呼ばれることになったラムタラは、キングジョージも凱旋門賞も制して無敗で引退した。ラムタラが去った後も同世代のペンタイアは前年ラムタラのクビ差2着に終わったキングジョージを制し、その後の2年もキングジョージは92年生まれのスウェインが連覇して、結局4年連続同一世代が独占することになる。国際的にはシングスピールがジャパンCにドバイワールドC、ピルサドスキーはブリーダーズCターフやジャパンCを勝ったほか、スウェインもドバイワールドC2着、ブリーダーズCクラシック3着と気を吐いて、およそ4年半にわたって、北半球の競馬をこの世代が支配したといってもいいくらい。今年の日本のクラシック世代もひょっとするとそれくらいの陣容を誇っているのかもしれない。タガノテイオー、メジロベイリー、アグネスゴールド、ミスキャスト、そして主役のアグネスタキオンと、素質馬が次々とリタイアしても、それを補って余りある勢いで次々に強い馬が現れてくる。こういう流れは欧州の92年世代に共通するイメージがあって、あんまり先のことをいうのも何だが、秋にテイエムオペラオーに土を付けるものが現れるとすれば、この世代からではないかと思える。 さて、この世代の仮想最強馬がアグネスタキオンとすると、現実に最も近くまで迫ったのは◎ダンツフレームで、ここは素直にその力を信じてもいいのではないか。90年代なかば以降は大体、クラシックの図式といえば、先行するサンデーサイレンス、それにブライアンズタイムが追いつき追い越すかというケースが多く、サンデーサイレンスの前衛部隊が力尽きた今、台頭してくるとすればブライアンズタイムか、あるいはサンデーサイレンス後発部隊で、現時点では順調にきたブライアンズタイムが有力、秋には奥手のSS後発部隊が主力になってくるかもしれないという見方が自然だ。ダンツフレームの4代母マリアドロは、モンテプリンス、モンテファストの兄弟天皇賞馬を産んだモンテオーカンを出したことで知られ、母は、モンテ兄弟の威光がまだ残るころの桜花賞TRで3着、オークスTR4着の成績を残した。その後は500万下の特別に勝っただけで引退したが、両トライアルで見せた末脚には光るものがあり、その光をブライアンズタイムで増幅させたのがダンツフレームといえるかも(でも実際にはダンツフレームの白眼がちな右眼の方がお母さんを思い出させるが……)。母の父サンキリコが何とも地味〜な印象を与えて、実際、2歳時は5戦して何とか無敗で終えながらクラシック路線ではいいところのなかった早熟なマイラーで、ネックになるとすればこの点かなとも思う。でも、リファール系は、ダンシングブレーヴ級の一流馬が母系に回ると素晴らしいのはもちろんだが、そうでないクラスもそれなりに実績を挙げていて、モンテヴェルディでもあれだけやれる(エイシンプレストンの母の父)のだから、サンキリコだって、そう足を引っ張るようなことはないのではないかと思う。立っている姿は、ブライアンズタイムのような、サンキリコのような、どこかボテッとして見栄えがしないが、この馬の良さはやはり全力疾走時のダイナミックなストライドの伸び。走ってこそ格好いいというのは多くのブライアンズタイムの一流馬の共通項で、小回り中山の荒れ馬場より広い東京のパンパン馬場の方が間違いなくいい。 次にアグネスタキオンに近付いたのはジャングルポケットで、こちらは皐月賞ではロスも大きかった。でも、直線でいったんはダンツフレームを交わす態勢に持ち込みながら、ゴール前で差し返されているのが引っ掛かる。発馬後の躓きを差し引けば内容としては五分以上だし、「底力のある」トニービンの仔だけに東京に替わるアドバンテージもあると一般的には考えられている。確かにトニービンの仔は東京で走る。先週のオークスでもそうでしたね。でも、それが「底力」があるからというのはどうも違うようで、エアグルーヴはまあ別格異質の存在とすると、トニービンというのは、たとえるなら居合いの達人。グッと構えて据え切りでズバッと斬るのは得意だが、やくざ映画の出入りのシーンのようにゴチャゴチャしたところに居合いの先生がいてもあまり実際には役に立たないのと同じで、牝馬戦のようにバラけてからズバッ、サクラチトセオー流に測ったようにズバッというのは得意だが、牡馬のクラシックの乱戦ではあんまり良くないような気がする。ヌレイエフの血も、ハートレイクやブラックホークのようにパワー×スピードという感じで出たのは日本でも実績を残したが、繊細な感じに出たのはその良さが案外日本のG1レベルではなぜかいい結果に繋がっていない(牝馬ならワンダーパヒュームのような例があるが)。よれたりつんのめったりというのも荒削りというより繊細さが出ているものと勝手に解釈して▲。 クロフネと同じ去年のファシグティプトン2歳トレーニングセール出身のモナルコスがケンタッキーダービーをセクレタリアトに次ぐ歴代2位の好時計で圧勝した。その直後にこちらもNHKマイルCに勝って、2頭で同セールの世界的2枚看板となった。しかしモナルコスは先週のプリークネスS、遅いペースにも関わらず押っつけど動かず6着に完敗。2歳の冬にピークに仕上がって、それから実戦を、それも最前線で戦って、そうも長く好調ではいられないということで、そういうのは怪物以上の化け物でもないと無理だろう。オグリキャップやナリタブライアン、サイレンススズカ……、それらの歴史的名馬もやはり生身の馬であったことを考えると、デビュー以来ほとんどレコードかそれに近い時計で走ってきて、しかもここ一番でピークに達するというのはどうなんでしょう? 武豊でも3連覇できなかったダービーを3連覇してしまったのがサンデーサイレンス。こういうのを比べても意味はないが、日本の競馬でひとり抜きんでた武豊のさらに上をいくのだからやはり凄い。今回の5頭は、素質を示しながらモタモタしていたおかげで、結果的に最大の舞台に立つことが出来たわけだが、○ダイイチダンヒルは母の父リアルシャダイというのが何とも怖い。ライスシャワーやステージチャンプに代表されるように、直仔は人気薄の長距離G1で猛然と突っ込んでくるケースが多かったが、母の父としてもその底力と意外性は薄れることなく、ボールドエンペラーは14番人気で2着に突入してきた。そこまで大穴にはならないだろうが、妙味は十分。 △プレシャスソングは秋に強くなりそうだが、スペシャルウィークの3/4同血。ボーンキングは時計的に苦しいが、英2000ギニーのゴラン、オークスのレディパステル、シンガポール航空国際Cのエンドレスホール、香港で2年ぶりに勝ったオリエンタルエクスプレスとこの5月に入って英国のワインストック家がらみの血脈が大活躍している。デザーモ効果も後押しして、ひょっとして連鎖反応があるかも。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.5.25
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