2001有馬記念


最強世代の第三の男

 たとえばゴドルフィン、UAEドバイのなかば国家事業ともいえる最強軍団が惜しみなく全力を注いでも、ブリーダーズCの8つのうち2つに勝てばいい方。それを考えると凄いですねえ、12月16日の香港国際レース、3つのG1を日本馬が全部勝ってしまった。海外の報道では“日本チームの大勝利”とかいわれているが、実際には“チーム”というわけではない。個々の厩舎それぞれが計画して工夫してやりくりしてそれぞれに勝ち取った勝利だ。ゴドルフィンやアイルランドのクールモアグループ、それらゼネコン級の大プロジェクトに比べれば、こういうと失礼だが“日本チーム”は実際には栗東中小企業連合会とでもいえるもので、それが綿密な用兵策により派遣されたゴドルフィンのエクラール(ヴァーズ)、チャイナヴィジト(マイル)、トブーグ(カップ)をことごとく打ち負かしたのだから痛快、を通り越して全てで完璧に天才的な騎乗をして勝てなかったデットーリに同情を覚えるくらい。でも、喜んでばかりもいられない。実質的にわが唯一にして最大の国際レース・ジャパンC(とJCダート)が負けてる。勝ち馬やレースのレベルそのもので劣ることはないが、イベントとしての盛り上がりや世界的な注目度では“香港国際賽事”の勝ち。まず、国際色の豊かさ。「日本馬+引き立て役の欧米馬」という単純な図式で捉えられるJCに対して、香港は生産地で10カ国、調教地でも10カ国、米国産日本調教馬にフランス人が乗ったり、ドイツ馬に日本人が乗ったり、インド産シンガポール調教馬にフランス人が乗ったり、黙っていても「競馬に国境はない」と教えてくれる。しかも、表彰式が凄い。驚くべき早業で本場場に豪壮なステージをしつらえ、メインのカップなどはオリンピックの金メダリストや映画スターを壇上に上げて勝ち馬関係者を褒め称え、さらに生のブラスバンドによる国歌吹奏。勝っても負けても、また来るぞ、今度こそという気になるだろう。そして、ジャパンCが終わるころからインターネットの香港ジョッキークラブのサイトには香港国際レースに関する豪華絢爛多種多様な情報が載せられ、これで現地に行ってなくても行ったような気分になれる。出走馬の詳細なプロフィールにとどまらず、1週前からは毎朝の調教のビデオ映像を流していて、追い日だけのグリーンチャンネル「今日の調教」を凌ぐもの。JRAのホームページでこんなふうにジャパンCの1週間前から楽しめるかというととても無理。ドカンと賞金だけ高くしても、ソフト面で工夫していかないとジャパンC(とJCダート)の未来は暗い。しかし考えてみると、国際レースというものの旬はせいぜい10年くらいなのかも。かのワシントンDC国際はいつのまにか消滅したし、凱旋門賞も徐々にブリーダーズCへのステップという意味しか持たなくなりつつあり、“キングジョージ”にはフランス馬の遠征すらまれ。“ミリオン”をメインとするアーリントン国際フェスティヴァルも、小回り向きの欧州馬がポンと来て勝っていくだけだ。そういうレースは賞金額が大きくないとなかなか有力馬を呼べず、賞金額が大きくても、回数を重ねるうちに「こういうタイプはジャパンCには勝てない」、「こういうのがドバイに行くと立ち直るのに時間がかかる」ということがはっきりしてくる。そういう意味では香港国際賽事には手探りの面が残っているぶんだけ上昇する勢いがあるし、有力国際レースではジャパンCに次ぐ老舗となったブリーダーズCは広いアメリカを東西南北さまざまな競馬場で持ち回りすることで新鮮さを保っている。20回を超えたジャパンCはここらでそろそろ出血覚悟のリストラが必要ではないかと思う。そして、天皇賞秋や菊花賞、有馬記念といった国内戦の最重要レースをジャパンCの予選や敗者復活戦の地位に固定してしまうことにも危険性を感じる。感じるがしかし、こればっかりは小手先でどうなるものでもなく、流れに任せるより仕方ないものかも。

 ここでテイエムオペラオーが香港組に劣らないパフォーマンスを示せばめでたしめでたしで、日本競馬の黄金時代として後々まで記憶されることになるのだろうが、水曜の追い切りの動きには感心できなかった。たまたま動きが重いだけなら実戦ではそれほど影響するものでもないが、今年のオペラオーは去年よりも頑張ってきた。去年は100%の力を絞り切らなくてもメイショウドトウを抑えれば勝てていたが、今年は宝塚記念、天皇賞秋、ジャパンCとその時点での100%に近い力を出して頑張っていながらそれが勝ちに結びつかない。合同フリーハンデの暫定レーティングでも今年のジャパンCは去年より高い数値を得ているにもかかわらず勝てなかった。こういうのストレスたまると思うな。それを踏まえた上で、今週の動きを見ると、どうもなあという感じ。○。

 ◎にはマンハッタンカフェ。最強と呼ばれるこの世代にあって未完の最強馬として引退したアグネスタキオンはいうまでもなくサンデーサイレンス産駒。巷では弱いとされる現4歳世代によって香港マイル、カップが連勝できたのだから、この世代でクロフネ、ジャングルポケットに続くNo.3でも、去り行く王者に引導を渡す役回りならこなし切れるのではないか。菊花賞はレースとしてはレベルの低いものだったが、唯一強い競馬をしたのがこの馬。英ダービー馬スリップアンカーや独ダービー馬スタイヴァザント、そして日本でもビワハイジを出すドイツの名門牝系が当代屈指のステイヤー・ローソサイエティをくぐって仕上げがサンデーサイレンス。かすかにボールドルーラーが入っているものの、これまでのサンデーサイレンス産駒とは明らかに異質な血統構成で、ニジンスキー血脈を別にすれば、サンデーサイレンス産駒には従来のものと同じでないパターンの配合がA級に育つという面もある。古典的欧州馬のような雰囲気を持ったステイヤーで、相手が強くなるほど自身の埋もれていた才能が掘り起こされるというタイプでもある。

 ▲トウカイオーザは93年のこのレースで“奇跡”と呼ばれる復活勝利を遂げたトウカイテイオーの半弟。サンデーサイレンス産駒でもブランド的には一級品で、兄と9つも年が離れていると、ズブいというか、よりステイヤー的志向を強めているのがレースぶりにも現れている。これもマンハッタンカフェ以上に一気の相手強化といえて、こういう上昇中の穴馬が一線級の厚い壁に跳ね返されるのが過去の有馬記念の歴史でもあるのだが、エイシンプレストン、アグネスデジタルに続いて“弱い4歳”のそしりを跳ね返す大駆けがいかにもありそうな血統ではある。

 メイショウドトウはこの秋が2戦とも力を出し切らぬままに敗退。そのあたりが力を出し切ってなお勝てなかったテイエムオペラオーとの比較では、ここに来てアドバンテージとはなり得る。でも、それならステイゴールドと同じく見合わせになる武豊=サンデーサイレンスのトゥザヴィクトリー、ようやく能力を結果に結び付けることができたメイショウオウドウを絡めたSSボックス馬券も面白いかも。ちなみにアグネスデジタルを最後まで苦しめたトブーグはこの馬の叔父に当たる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.12.21
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