2001天皇賞・秋


王国の黄昏とMr.Pの野望

 この週末には米国でブリーダーズCが行われる。注目は何といってもクラシック。ダートの10Fで英ダービー馬ガリレオがダート生え抜きの米国勢を押さえつつ、今度はファンタスティックライトに代えて切り札サキーを繰り出してきたゴドルフィンに雪辱できるかというのが焦点。結論からいうとガリレオにとっては、かなり厳しい戦いになると思う。サドラーズウェルズ産駒ということで考えられるのは、まず、アウェイの戦いでは能力の割引が必要になること。そして、ダートの捌き自体に問題はなくても、砂を被って嫌気を出さないかということ。さらに決定的なのが、平均的に速い流れで、ことによるとガリレオにとっては超ハイペースといえる展開になって、なし崩しに末脚を殺がれてしまわないかということ。前走の愛チャンピオンSの敗因はまさにそれで、10Fなら自信満々にアクセル全開で運べるファンタスティックライトが刻んだ時計は前年のジャイアンツコーズウェイより1秒3も速いレコード。3着以下を引き離したとはいえ、ガリレオが最後に競り負けたのはそういうサドラーズウェルズが最も苦手とする展開のためだったといえる。それでもあえて勝算の高いターフに目もくれず、クラシックに出走してくるのは、ガリレオ自身の評価だけでなく、サドラーズウェルズが本当の世界的スーパーサイアーになるか、欧州限定大種牡馬で終わるかという事情があるためだが、とりあえずはサドラーズウェルズ王国の浮沈を賭けた冒険には拍手を送りたい。

 さて、日本におけるサドラーズウェルズ系の最高峰テイエムオペラオー。今年これまでの戦績は、昨年の無敵の快進撃からすると、勢いという点ではレベル落ちが否めない。大阪杯は体調ひと息で厳しい展開、宝塚記念は4コーナーの不利が大きかったとはいえるが、休み明けでも明らかに大阪杯当時よりもいい動きだった前走の内容は、もう言い訳のきかないものだったのではないかと思う。これまでG1では滅多に高速決着にはならなかったし、なったとしても勢いのあるときにはある程度は無理がきくものだが、もう今回あたり、1分58秒台の争いになるとサドラーズウェルズ系が避けて通れない死角が浮かび上がる可能性がある。何となく日本時間で日曜早朝のブリーダーズCクラシック(ガリレオ)の結果と連動しそうな気もする。地力に敬意は表しつつ

 昨年、マイルチャンピオンシップで芝初勝利を挙げたアグネスデジタルが今年も意表を突いてここに現れた。84年の番組改革で明確な距離体系ができてからは、短距離なら短距離、中距離なら中距離に専念して勝っていくのが名馬のあり方という考え方が育って、ナリタブライアンの高松宮杯のように突飛なことをするとあまり評判がよろしくないという風潮があったが、今や英ダービー馬がBCクラシックを目指したりする時代であって、カテゴリーを自在に越境するフットワークの軽さというか柔軟性が大事になっている。トゥザヴィクトリーのドバイでの大健闘でもそうで、最初はゴドルフィンマイル(ダ1600m)にエントリーしていたのがウイングアローの回避で空いた席を埋めたもの。それもその前にフェブラリーSにひょっこり現れて好勝負できたという伏線があった。アグネスデジタルにしても、ここで好勝負出来るようなら、もし暮れの香港国際レースや来年のドバイ(これは今後の国際政情にもよるが)に行っても幅広い選択が可能となる。父はミスタープロスペクター系のベテランで、デビュー以来長い間、祖父の得意分野を忠実にスケールダウンした形でダート、短距離、G3という領分を守ってきたが、97年にディーヴィアスコースがG1勝ち(といってもB級のシガーマイルH)を果たしたのが口火となったか、代表産駒といえる本馬が芝・ダート両方でG1勝ちを果たすなど活躍の場を広げてきている。大種牡馬ミスタープロスペクターにしても直仔のケンタッキーダービー勝ちは昨年のフサイチペガサスで初めて。加齢によって、あるいは代を重ねることによって過去に思いもよらなかったタイプの産駒を送り出すのはミスタープロスペクター系の得意技だともいえる。さらに本馬は、父と母の組み合わせだけを見るとミスタープロスペクター×ダンチヒというスピード志向の強い血だが、血統表の下およそ8分の3は欧米混成のスタミナが圧倒している。こういうタイプはマイラーではあっても距離延長に対応しつつスピードを維持できるものだ。芝初勝利が安田記念、そして2000m初勝利が秋の天皇賞だったヤマニンゼファーを思わせる戦績でもある(そういえば当時の1番人気は春の天皇賞馬だった)。

 メイショウドトウの父はラストタイクーンの初期の活躍馬でG1に4勝した名馬だが、個人的に印象に残るのは力任せに差し切ったサセックスSくらいで、どうも個性に欠けるというかつかみどころのない面があった。種牡馬入りしてからもシャトル供用されたオーストラリアでG2級が出るくらいで実に地味。アファームド×ニジンスキーの母も上質だが地味で、テイエムオペラオーに2着を続けたのはその地味キャラクターゆえと思っていたのだが、前走で逆転してしまった。こうなるとかえって目標を失ってしまわないかと勝手に考えて

 ステイゴールドは常時健闘の善人キャラという仮面を脱ぎ捨てて、悪漢というか癖馬の本性をあらわにしてきた。ま、悪漢とか癖馬というのは人間の価値で見るからそうなるわけだが、前走のような事件を起こすと、馬仲間からも白い目で見られるかもしれない。サンデーサイレンス産駒はギュッと絞ればドバッと汁の出る果物のようなもので、早い時期にギュッと絞って高みに登り詰めるものが多いが、この馬のようにジワジワと絞ればいつまでも豊かな果汁が出るタイプも少なくない。テイエムオペラオーが今年もファンタスティックライトを負かせる保証はないが(JC来るかどうかも分からんので当たり前だが)、こちらはガリレオとともに今年ファンタスティックライトを破ったたった2頭のうちの1頭。実はまだ表に出していない力が武豊に引き出される可能性も大きく△に。でもまあ、妙に期待されると照れて裏切るタイプではある。

 メイショウオウドウも力を絞りきらないままここまできたサンデーサイレンス産駒。ステイゴールドよりひとつ年少なので、これもまだまだ大化けする可能性は残されている。これまでこのレースには2回挑んでともに2ケタ着順だが、3度目の正直がないものか。祖母ラコヴィアは仏オークス馬で、近親の英G1デューハーストS勝ち馬トブーグは先週の英G1チャンピオンSで2着に入り復活の兆しを見せている。昨年以外、このレースでは必ず連に絡んでいるサンデーサイレンス産駒だけに一発大駆けはあり得る。

 現3歳のブライアンズタイム産駒は粒揃いだが、その素質が今イチ結果に結び付いていなくて、代表格のダンツフレームも結局クラシックでは無冠に終わり、他の世代を含めても今年はまだG1勝ちがない。トレジャーは母がG2よりもG1で強かった名牝シンコウラブリイ。ヘイルトゥリーズンの近交もあって、大舞台でこそ真価を発揮するのかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.10.26
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