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桜花賞=チアズグレイス、皐月賞=エアシャカール、ダービー=アグネスフライトと、今年のサンデーサイレンス産駒の勢いは初年度産駒が4歳だった95年以来のもので、さらに、クラシックで唯一残していた桜花賞をものにして、古馬戦線ではこれまで実績のなかったスプリントの領域でディヴァインライトが高松宮記念2着と、今まで以上にその活躍の場を広げてきたあたり、サンデーサイレンスの血が日本競馬により深く広く根を下ろしたことを示している。安田記念でのサンデーサイレンスは、97年にジェニュインがタイキブリザードの渾身の追い込みにクビ差屈した2着が最良の成績だが、もしバブルガムフェローやイシノサンデーあたりがこのレースを目標にして臨んできていれば勝っていたかもしれないので、まだ勝ち馬が出ていないというのも単に巡り合わせに過ぎないと思える。今回はスティンガーがサンデーサイレンス産駒代表という立場。でも、ちょっとなあ、前走が鮮やか過ぎる。だいたいサンデーサイレンスの仔は勝負への集中力が高いので、ここぞというときに無類の強さを見せるのだが、そのぶんリバウンドも大きく、案外前哨戦で勝ってしまうと本番で嘘のようなモロさを見せる場合が少なくない。それにスティンガーの場合、全姉のサイレントハピネスも素質としてはG1級のものがあったと思うが4歳牝特(東)やローズSといったトライアルでの勝ちっぷりがあまりにも鮮やかで、結局オークスは回避したし、エリザベス女王杯は7着という結果に終わっている。それだけに、前回のような強さをそのまま今回も再現できるかとなると、どうなんでしょうね? ま、馬はけなしたらダメという法則(?)はある程度普遍的なものと思うし、個人的にはこうやってケチをつけた馬にすこーんと勝たれるケースが今年の場合特に多いので、気懸かりといえばその一点につきるが、来たらゴメンなさいということで……。 そこで、同じサンデーサイレンス産駒でも◎フサイチエアデールに一変の期待。スティンガー、ウメノファイバーと、これら5歳世代の牝馬は4歳時は強いのか弱いのかよく分からなかったが、5歳を迎えると結構強いのがはっきりしてきた。そのなかでも切れ味の鋭さに関してはこの馬がNo.1で、これまでのG1ではゴール寸前にその切れがつきてタイトルに無縁だったが、その辺りは距離とか体調とか、巡り合わせですまされるような要素が多分に影響していたように思う。その点、5歳を迎えるとダービー卿CTを勝って、前回が大敗。いいのか悪いのか分からん部分はあるものの、少なくともこれまでの常時善戦型のもどかしさからはひと皮むけたようで、前回の淡泊な負け方はサンデーサイレンス産駒だからこそ、今回へのバネになると思う。そういった鋭さとモロさの同居した危なっかしさは、多分にレイズアネイティヴ2×3という母の血統にある。ノーザンダンサーと同い年のレイズアネイティヴは3歳時だけ走って4戦4勝、ステークス2勝、レコード勝ち2回、サラブレッドよりむしろクオーターホースに近い馬体でわずかなキャリアを一気に駆け抜けた快足らしく、直仔ミスタープロスペクターに代表されるアメリカ的スピード血脈の典型といえる存在だが、ノーザンダンサーのインブリードを持つ馬がすっかりポピュラーになってきたのに対して、レイズアネイティヴの近交馬となると昨年引退したリアルクワイエトくらいしか思い浮かばない。そのリアルクワイエトも、ケンタッキーダービーやプリークネスSなど、未勝利勝ち以外の5つの勝ち鞍が全てG1という極端な成績で、これなんかもレイズアネイティヴの極端な一面を示す例ではないかと思う。フサイチエアデールの母の場合はレイズアネイティヴ2×3に加えてナスルーラ&ロイヤルチャージャーという近親関係でしかもかなりエキセントリックな面を持つ血脈が脇を固めており、そこに天才肌のサンデーサイレンスが配合されれば、本質は常時善戦型ではなく、一発大駆けタイプだという方がしっくりくる。牡馬相手の底力勝負になっても一歩もひかないくらいの爆発力は秘めているのではないか。余談だが、サンデーサイレンスの不思議なところは将来のサンデーサイレンス帝国が行き詰まらないようにという周到な計算があるのか、特定の血脈とのニックスを示さないという点。確かに、ニジンスキー系とかリファール系とか、そのあたりのメジャー血脈からはある程度複数の一流馬を出す。でも、これまでのG1勝ち産駒の母の父を羅列してみれば分かるが、全体的にはどんな系統ともまんべんなく良いおつきあいをするという八方美人的な作為があるように感じられる。まだ、G1勝ち馬を出していない大物血脈のひとつがミスタープロスペクター。ここらでそろそろ、ビッグ2の歴史的和合(?)というのがあるかもしれない。 ○シンボリインディが立ち直ってきた。父は4歳後半のベルモントS、ブリーダーズCで派手なデモンストレーションをしてすぐに引退したし、シアトルスルーも古馬になると4歳時ほどの華々しさはなかったので、父系を見る限り、古馬になってからの可能性という点では未知な部分というか、疑問の生じる余地もあったのだが、今年になって父の産駒にスティーヴンガットイーヴン、ゴールデンミサイルと、牡馬で古馬のG1ウイナーが出てきた。牝駒の成績だけでは100%信頼し切れない部分もあるのだが、牡馬で年を重ねて強くなってくるのは本物で、シンボリインディの成長力にも明るい展望が開けてきた。米国を代表する牝系のひとつであるグレイフライト〜ミスティモーンにダマスカス、エクセラーとくぐった祖母の血を考えても、4歳春が生涯のピークとは思えない。 キングヘイローはいついかなるときも▲が似合うというか……、相も変わらぬ評価に落ち着く。どんなG1でも圧勝して不思議のない爆発力を秘めた血統と、かといってどんな弱メンでも信頼し切れない気性。東京コースも向いているようでいて、4コーナーまでに終わってる屁のようなレースをするときもあるし、仮にやる気満々で直線を向いても直線が長いぶん案外脚の使いどころが難しいという面もある。でもまあ、開き直ってもう届かんというくらいのところからオリャーッとひと太刀で決めるような競馬をすれば、グラスワンダーもアグネスワールドもいない今回、“最強世代”の一角を占めたプライドを示して見せるかも。 シルクプリマドンナがサンデーサイレンスのクラシック独占を阻止したブライアンズタイム。△マイネルマックスは“ブライアンズタイム最強世代”として最初にG1に勝ち、何となく渋太く最後まで生き延びて、マイラーズCでは、やるときはやるで! という根性を示した。奇しくもレース当日は母の父ハイセイコーの月命日であり、だからどうやというわけではないが、何となく何かありそうな気もする。 ウメノファイバーの前走は動くのがちょっと早くて失敗。ある意味、トライアルらしいレースだった。テスコボーイ風からネヴァービート風に移行したというべきか、初期の弾むようなマイラーを出さなくなった最近のサクラユタカオー産駒で、母系のシルバーシャークの間口の広さを反映してオークスに勝ったようにも思うが、この馬自身、東京なら距離は不問という面もある。とはいえ、血統から受けるイメージでは1600mがベスト。 フェアリーキングプローンは日本遠征の実績では“ゴドルフィン”以上といえるアラン厩舎。ツイッグモス×ブレッチングリーの母にデインヒルなら、器としては母国オーストラリアでもG1を狙えたかもしれない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.6.4
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