2000皐月賞


翼を取り戻したクラシック血統

 フサイチゼノン自重のニュースで幕を開けた今年の皐月賞。そこで思い出すのが96年で、弥生賞勝ちの大本命候補ダンスインザダークが熱発で回避したものの、同じサンデーサイレンス産駒のイシノサンデー、ロイヤルタッチが1、2着を占めてスーパーサイアーの底力を示したのだった。で、今度も同じように残ったサンデーサイレンス産駒からエアシャカール本命かというと、先週に続いて武豊騎乗でそこそこ人気のエアなんとかではあまりに芸がない。しかも半姉のエアデジャヴーは4歳牝馬のG1コケコと、勝負強さが身上のノーザンテースト産駒には珍しいタイプ(晩年の仔だったせいか)だったし、この馬にしても長身(?)をまだ持て余すようなところがあって、中山2000mのゴチャゴチャを捌き切るシーンというのはどうも想像し難い。なら何やといわれると、うーんどうでしょう? 分からんなあというのが率直なところ。今年の4歳世代は重賞2勝以上してるのがマル外のエイシンプレストンとシルヴァコクピット、そしてダイタクリーヴァだけ。しかも、それらにしてもそんなに圧倒的に強いという印象を残したわけではない。世代のレベルどうこうはもう少したたないと分からないとしても、勢力図が固まるのが例年より遅れているのは確かだろう。それならまだ重賞未勝利の馬にもチャンスはあるのではないか。

 リワードフォコンは祖母がエリザベス女王杯勝ちのリワードウイング。グリーングラス×インディアナ牝馬というほとんど趣味的ともいえる強烈な印象のステイヤー配合のせいでデビュー時からよく覚えているが、リワードウイングは10月京都の新馬戦で人気薄ながらマチカネアスカ(シンボリルドルフの全妹)の2着に食い込むと、しばらくモタモタして翌年2月に初勝利。4月に忘れな草賞2着のあと平場で400万を勝つと、またしばらくモタモタしてやっと秋の阪神で3勝目。続くローズSで最後方から目立つことなく凄い脚(?)で追い込んだものの8着にとどまり、しかしエリザベス女王杯ではエルプスが速いペースで逃げて1番人気のアサクサスケールがそれを早目に捉えに行く展開の助けもあって追い込みが見事に決まった。牡馬のG2クラスでは歯が立たずじまいだったので、そんなに抜けて強いG1牝馬でもなかったと思うが、勝つときの豪快さはステイヤー血統の底力をよく示していたと思う。直仔はどれも体質が弱かったり気難しかったりとどれも今イチで、3勝(未出走と500万2回)したこの母が出世頭。その父シンボリルドルフの直仔もまた、ひと握りの天才タイプを除くと気難しかったり体質が弱かったりで潜在能力を出し切れないのが多く、見方によっては遺伝的ポテンシャルはその競走成績を遙かに超えるものがあったのかもしれない。父フォティテンというと今やすっかり地味な中堅級に甘んじている印象だが、時代を先取りしたヌレイエフ産駒で、牝系も現代の種牡馬族−−エーピーインディやサマースコール、ディアハウンドにオナーグレーズ、ちょっと古くはゲイメセンが出る−−ゲイミサイル系だからこれは貴重な存在。代表産駒のワンダーパヒュームは桜花賞でダンスパートナーを押さえて、サンデーサイレンス初年度産駒の春のクラシック完全制覇を阻止したわけで、無理にこじつければサンデーサイレンス(系)キラーといえなくもない。遠い世代でハイペリオンやらネアルコ、ジェベルといった欧州血脈が存在感を強める重厚な配合はマル外とサンデーサイレンスの洗礼を受ける以前の日本的で古風な品の良さを漂わせている。牡馬クラシックの最初で距離も2000mだけにスピード優先に考えられがちな皐月賞だが、過去の勝ち馬を見ると意外なほどスピードより底力優先で考えた方がいい。母系に並ぶ日本的クラシック血脈はここ一番でものをいうはずだし、直仔のブラックホークに孫のワールドクリークと、去年からヌレイエフ系の頑張りが目立っているのも追い風。

 ダイタクテイオーが1番人気の95年はサンデーサイレンス初年度産駒が1、2着を独占したが、当時その世代の最強と考えられたのはサンデーサイレンス産駒最初のG1勝ち馬で前年の3歳チャンピオンだったフジキセキ。本当に最強だったのかどうか、今となっては分からないが、弥生賞勝ちから皐月賞直前にリタイアして種牡馬入り、2年目の種付けで生まれたのがダイタクテイオーの近親でもあるダイタクリーヴァだった。こういう因縁めいた血統ばなしは好きなほうなので、もしフサイチゼノンが出てきてたら迷わず本命で行ったところだが、ちょっとね、仇敵(?)であるべきサンデーサイレンス直仔が小粒になってしもた。そのぶん気勢をそがれてというわけだが、まともならこれが一番強い。母の父サクラユタカオーはテスコボーイよりある面ネヴァービート〜ネヴァーセイダイの鈍牛っぽい(?)ところの強く出た馬で、母のネヴァービート2×3の影響はたぶんかなり強いのだろうとは思うが今のところ何ともいえない。馬の感じとしてはフジキセキの仔らしく、ちょっと頭が高く肩も立ち気味で、そうストライドが伸びるタイプでもない。現時点では東京より中山でこそだろうと思う。でもまあ、カブラヤオー、サルノキング、ダイタクヘリオス以来、久々に出たスタイルパッチ系の異才。無敗で驀進していくのも良し、あるいは突然大駆けするのも楽しい。いずれにしても規格品の優等生でないことだけは確かだろう。

 話題の“ケンタッキーダービー本命馬”フサイチペガサスを見ていると、スケールの違いはあるにしても高崎(所属で本拠地より中央好き)のタマルファイターの姿がダブる。かたやミスタープロスペクター直仔の400万ドルホース、もう一方はキンググローリアスの仔でミスタープロスペクターの曾孫のダート下手の地方馬だが、父系の影響力の強さというのはやはり何らかの形で姿かたちに現れる。で、少々飛躍した理屈ではあるが、キンググローリアス産駒のクリノキングオーは1970年にこの世に発生したミスタープロスペクターの遺伝子を受けているという点ではフサイチペガサスと同期(うーん、そんな無茶苦茶ええのか)と考えられる。キンググローリアスの仔は非常に有能でありながら大仕事ができないというのがネックだが、代表産駒のナムラコクオーはナリタブライアンと同い年、ボールドエンペラーはスペシャルウィークと同期と、最も損なタイミングで生まれてきたという面も否定できない。1勝馬同士の1、2着でレベルが低いとされる若葉賞組(場所も変わった)だが、今年の場合はそう上と下のレベル差はないし、97年なんか人気薄の若葉賞組が上位独占で馬連5万円! 一発があって驚けないし、押さえておいて損はない。

 △ラガーレグルスはトニービンの一瞬の切れをよく受け継いだサクラチトセオーの一瞬の切れをよく受け継いだ。ただ、ナスルーラのラインブリードに頼った切れ味だけに、線の細さがつきまとう印象が否めない。切れ味だけなら同厩の皐月賞馬ナリタタイシンに匹敵するものがあると思えるが、G1で要求される底力という面でちょっと心配。古くからのソネラ系に月友、プリメロと配された曾祖母のステイヤー血脈でどこまでという感じ。

 パープルエビスは強い相手に2着を続けフリーハンデ的には相当ポイントを稼いだ。ただそれも地力がなくてはできない話で、ミスタープロスペクター×ロベルトの配合だけに一般的なジェイドロバリー産駒の枠を超えた力がありそう。チタニックオーはパープルエビスと同じ母の父リアルシャダイ。直仔がよくクラシックで穴を開けた血だけに、母の父に回っても要注意。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.4.16
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