|
92年生まれのダンスパートナー、93年生まれのエアグルーヴ、94年生まれのメジロドーベルと続いた名牝の時代は幕を閉じ、牝馬戦線はその規模を縮小して新しい世紀に向かうことになった。世紀といえばしかし、ダービーをまだ100回もやってない国が“20世紀の名馬”なんて大風呂敷を広げるのもどんなもんかと思うが、本格的に競馬の世界に参入して(たぶん)30年足らずのモハメド殿下でも、ドバイミレニアムとかドバイトゥーサウザンド(こっちは全くの名前負け)といった超大風呂敷を広げているので、どうせハッタリかますのなら大きく出た方が勝ちだということかも。ま、それはさておき、巷間いわれているように4歳世代は確かに弱いかもしれんが、かといって5歳もそれほど……、6歳もなあ……、というのが昨今の牝馬戦線。おおまかに見ればどんぐりの背比べであり、人気ほどには個々の力差も大きくない。4歳劣勢の顕著な過去の傾向も、秋華賞からの間隔が1週間開いたことによって変わってくるだろう。一般的にトップクラスの牡馬の場合、ジャパンCのころには4歳が古馬に追いつきつつあるし、有馬記念のころになると、負担重量の差はあるにせよ、もう完全に追いついている。牡馬より完成するのが早い牝馬、時期的なことだけをいえば、本来ならこのエリザベス女王杯で4歳が古馬を圧倒していてもおかしくなかった。そうならなかったのは、古馬が余裕を持ったステップでここに臨めるのに対し、4歳馬が敷かれたレールに沿って秋華賞でピークを迎え、しかも中2週という綱渡りを余儀なくされていたからだ。それが今年から1週余裕ができて、秋華賞も消化不良でレースをしていないのが多い。本当の世代間のレベル差というのは、もうしばらくして、後から見た場合に本当のことが分かるだけで、ひょっとすると4歳世代がそんなに弱くないという可能性もある。今年は凱旋門賞2、3着が4歳牝馬、BCディスタフも4歳の1、2着だった。世界的にはむしろレベルの高い世代だともいえる。 “20世紀の名馬”投票でニホンピロウイナーは95位だった。この評価が高いか低いかは分からんが、2年連続最優秀スプリンターというタイトル以上に、2000mでも超一流に互して戦えた底力と、種牡馬としても大成功した血統的な奥行き、そして7戦無敗の京都競馬場での強さは印象深い。4コーナーで外を回ってゴールするころには内ラチ沿いまでささっていってたくらいだから本質的に京都で走るのがうまいというわけでもなかったのだろうが、そういう走り方でも勝てる京都が合っていたのはたしかだったろう。その妹のニホンピロピュアーは体質が弱く2勝を挙げるのがやっとだったが、さすがマルゼンスキー牝馬、繁殖入りしてその才能を開花させた。◎ニホンピロスワンはその母の6番目の仔。いくら名ブルードメアサイアーのマルゼンスキーといっても、イチローでも4割はなかなか打てないようにどの仔も一流馬に育つわけではなくて、カコイーシーズ産駒でダートで活躍したニホンピロホーリー以来久々の“できのいい”仔だが、ちゃんと父パラダイスクリークの良さを生かして、馬体重以上に伸びのあるスケールの大きな体に育ったのはやはりさすがマルゼンスキーといえよう。パラダイスクリークは4歳夏を境に急成長を遂げて、ブリーダーズCマイルでルアーの2着に入ると続くハリウッドダービーを制し、5歳時はモタついたが6歳で米の芝重賞を勝ちまくり、引っ掛かったぶんだけ3着に敗れたBCターフのあと、ジャパンCでマーベラスクラウンの2着に入った。シアトリカルの甥にあたる良血で、本格化してからの手のつけられない強さはシアトリカルに似ていたが、シアトリカル産駒同様、能力があるのは示していながら、やや気難しい面があるせいか、一流に抜け出すきっかけをつかむのに苦労する仔が多いようだが、一旦そういう壁を破ってしまえば安定して活躍できる血統といえそうだ。この牝系からは祖母の産駒に菊花賞馬キタノカチドキ、エリザベス女王杯のリードスワローのほか、ちょっと遠いが4代母の玄孫にこれまたエリザベス女王杯のサンドピアリスが出ている。実質的には違うレースだとはいえ、京都の大レース、特にエリザベス女王杯には縁の深い血だ。 ○シルクプリマドンナはニホンピロスワンと同じく秋華賞不発組。ブライアンズタイム産駒の4歳秋ということでは、同じブライアンズタイム×ノーザンダンサーのナリタブライアンが秋2走目の菊花賞で復活し、同じ“シルク”のシルクジャスティスは秋もどん詰まりの有馬記念で爆発した。じゃ、牝馬でもあるし、その中間あたり、3走目のここらで一発があるかもという見立て。ブライアンズタイム×ノーザンダンサーの“ナリブー配合”以上に見逃せないのは祖母の父インリアリティで、近年のアメリカのクラシックで陰に隠れながら重要な働きをしているのがこの血脈で、かつてリアルシャダイ(母の父インリアリティ)が大レースになると強さを発揮したのもその血の影響が大といえる部分もある。 ▲エイダイクインは桜花賞を2番人気でコケて以来、運に見放された格好だが、能力的には同世代のファレノプシスとそれほど変わるものでもないと思う。メジロマックイーン×ホリスキーは菊花賞馬×菊花賞馬の配合。今年なんか見ていると、菊花賞の値打ちも相当落ちたといわざるを得ないが、マックイーンもホリスキーも強い菊花賞馬だった。勝てば2年8カ月ぶりの記録的超久々だが、血統的かつ季節的にはちょうどいいころだ。 メジロマックイーンということでは△メジロサンドラの方が、見た目、よりマックイーンらしい(確か去年の秋華賞で本命にしたような気がする)。当時の期待に沿って、メジロマックイーンのように4歳秋に一気に素質開花するようなことも、古馬になってさらに一段と強くなるようなことも起こらなかったが、それでもメジロマックイーン×サドラーズウェルズというスピード化時代を無視したわが道を行く配合は不気味。可能性は低いとは思うが、かつてのエリザベス女王杯のような、あと1Fを残してすでに有力馬がバテバテになっているような展開なら浮上の余地はあるだろうし、そこは牝馬限定戦、そうそうだれもが予想するような流れにはならないだろう。 サンデーサイレンスは牡馬のクラシック馬は毎年必ず出すが、牝馬のG1勝ち馬は92年生まれのダンスパートナー、96年生まれスティンガー、97年生まれチアズグレイスの3頭だけ。もともと牡馬よりグンと確率が下がる上に96年世代は牡馬でもアドマイヤベガを出しただけだから、過信は禁物といわざるを得ない。トゥザヴィクトリーは(たとえば伊藤雄師風にいうと)、(体を)縮めて走ってるうちはええけど伸ばしたらあかんというタイプの馬で、前走のようにギュッと力を溜めたままゴールまで行ければいいが、G1ともなると力を振り絞り切らねばならず、そうなるとたぶん伸びない。フサイチエアデールは母の持つレイズアネイティヴ2×3の強い近交が諸刃の剣となっているのか、強いが脆い、いわばG1.5クラスの壁が越えられない感じ。 牝馬のトニービンとかいわれる割にこのレースでは産駒の成績は今イチだが、これは6歳時にエアグルーヴが取りこぼしたのが響いているのかも(その後ジャパンCで2着)。トーワトレジャー、スプリングチケットにはともにまだ線の細さがつきまとうが、決め手だけの争いになれば上位に食い込むだけの切れ味が期待できるし、クリスマスツリーはたとえばひと雨降って、ちょっと力のいるような馬場になれば侮れない存在になりそうだ。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.11.12
© Keiba Book