2000高松宮記念


太陽の子のヤマト魂

 今年のケンタッキーダービーの本命と目されるフサイチペガサスがついに重賞の舞台でベールを脱いだ。3月19日のG2サンフェリペSで圧倒的人気に支持された同馬は2番手から楽々と抜け出し、3/4馬身という着差以上の圧勝を収めたらしい。父ミスタープロスペクター、母のエンジェルフィーヴァー(その父ダンチヒ)がプリークネスS勝ちのパインブラフの全妹という良血馬は98年のキーンランド7月セールの最高価格である400万ドルで購買された。そのころにはもうとっくに日本のバブルは終わっていたが、あるところにはあるというのか、あるいはバブルの残り火というべきか、フサイチペガサスは日本の競馬人が世界の舞台で経済力によって勝負した象徴的存在で、たぶんこういうのはこれで最後だろう。モハメド殿下が20余年をかけて示したように、最も高い馬が最も良い馬である可能性は高く、結局のところ競馬は経済力だというのは間違いない。でも、競馬はそれだけではないという部分もある。エルコンドルパサーは理想の配合を追求した結果だし、アドマイヤコジーンは配合の可能性と経済的な合理性のバランスを突き詰めたもの、グラスワンダーは2歳時25万ドルで、エイシンプレストンにしても一流馬の水準からすればお手頃価格だったはずだ。100万ドルクラスの圧倒的良血ががんがん入ってくる状況なら話は別だが、こういうレベルなら内国産血統でも知恵と工夫で何とかなるはずで、今後、天皇賞やクラシックがマル外に解放されても、それほどワンサイドゲームにはならないのではないかと思う。その裏付けとなるのが昨年のこのレースの勝ち馬マサラッキで、前年の仏G1勝ち馬であるシーキングザゴールドの仔と、その年に後に仏G1勝ち馬となるダンチヒの仔を問題にしなかった。これは日本の短距離界においてアグネスワールドの快挙と対極にあって、しかもそれに勝るとも劣らない価値を持っていたといっていいのではないか。

 日本でもスピード=アメリカ血統というのはシーキングザパールやアグネスワールドの成果を見る限り正しいが、このレースは過去、なぜか欧州系血統か欧州系和風血統が米国系を押さえ込むというパターンで終始している。スプリンターズSにもそういう感じはなくもないが、よりはっきり傾向として現れているのはこちらの方だ。スプリンターズSから今回はわずか3カ月。常識的には勢力図にそう大きな変化も現れるとは考え辛いが、時間感覚でいうと人間の3カ月より馬の3カ月はずっと長い(推定6カ月〜1年)はずで、スプリンターズSの結果がそのまま今回に持ち越されるとは限らない。今回、欧州起源の和風血統でこれはというと、うーん、ダイタクヤマトかな。父のダイタクヘリオスはマル外侵攻前夜の短中距離界をリードした名マイラーで毎日王冠レコード勝ち、マイルチャンピオンシップ2連覇の……、という教科書的表現は似合わない。調教では勝手に突っ走ってバタバタになったかと思うと実戦ではダイイチルビーを問題にしなかったりしたし、たとえ相手がミスタープロスペクター直仔の超良血やろうが、その気にさえなれば簡単に蹴散らしただろう。無頼漢というか何というか、常識には収まらない馬だった。トウルビヨン系らしく細々と繋がる父系にたまたま開いた大輪ともいえるし、カブラヤオー、サルノキングとこれも時々規格外の大物を出すスタイルパッチ系らしい天才ともいえる。今年はダイタクリーヴァがスプリングSを快勝してスタイルパッチ系が目覚める年(だいたい10年周期くらいで目覚める)なのかもしれず、えっ! ダイタクヘリオスの仔がG1!? という結果もまた痛快なのではないか。牝系はセレタ〜英月〜ケンタッキーとたどるユートピア牧場の名門で、母の父テスコボーイも日本の競馬にスピードを注入した歴史的存在。勝てばこの牝系としてはカツアールの宝塚記念以来19年ぶりのG1(級)勝ちで、高松宮(杯)記念変則父仔制覇となる(レース名だけのことやけど……)。無理を承知で

 無理狙いついでにといっては何だがトロットスター。ダイタクが取消明け、こちらが熱発明けとなるとどうもありそうもない組み合わせだが、スプリンターというのは落ちるのも早いが回復も早い。ステイヤーに比べると生理的サイクルも速いのである。それはともかく、この馬は何というか、渋いな。父のダミスターは3歳インターナショナルクラシフィケーション130というアラジと並ぶ驚異的なレーティングを得たケルティックスイングを出した割に輸入後の成績は平凡だが、ま、それはそんなものだろうと思う。コンスタントにパワフルな仔を出せるわけでもなく、時として一発があるというタイプで、一瞬の切れには欠けるが能力のある仔はスピードの違いでいつの間にか後続に差をつけているというケースが多い。そういう決め手不足のためにこの馬もいまだ重賞未勝利というわけだが、スプリンターズS0.6秒差、シルクロードS2着の力は人気以上のものが確実に期待できる。ちょっと時計のかかる馬場ならさらに。

 スギノハヤカゼは、ああタイキシャトルがいなければ、もうちょっと馬場が良かったらとかいってるあいだに長期休養を挟んで8歳になってしまった。でもブリーダーズCスプリントでも8歳馬は2勝、7歳が1勝している。層の厚いマイルや中距離ではなく、いわば職人的キャリアも必要とされるスプリントとか超長距離では若さよりも経験がモノをいう場合がある。ダイイシス〜シャーペンアップという父系は牝馬の場合は中長距離にも対応できるが、牡馬の場合はいかにも欧州的な短中距離タイプで、フェアリーキング(シンコウキングの父)、グリーンデザート(シンコウフォレストの父)、カジュン(マサラッキの母の父)ときた英国スプリント血脈の流れにも沿うものだ。タイキシャトルと同時代を走った古豪の意地を示すかも。

 タイキシャトルということでは、実際にこれを負かしたマイネルラヴの名前も当然挙げなければならない。ひょっとすると一世一代の大仕事をすでにしてしまったのでその後は精彩を欠いているのかもしれないし、シーキングザゴールド産駒も牡馬の場合は牝馬ほど息の長い活躍をしたものがいない。でも、母はサルサビル、インザグルーヴといった強力な同世代に押さえられた4歳の欧州時代を経てもクサらずに古馬になって米国に渡って重賞勝ちする渋太さがあった。大一番で一皮むけた強さを見せるかも。

 キングヘイローはフェブラリーSがおおむね予想される最悪のケースに出た。ということは芝に戻れば前走は度外視できる。手前の換え方とかフットワークがどうもぎこちない右回りに比べ、もともと左回りは向いていて、その不器用なイメージに相違して中京はソツなくこなすと思う。いうまでもなく限りなく期待の大きな血統なのでいつなんどきG1に勝っても驚けないし、たとえば1シーズンに高松宮記念と天皇賞qに勝ったらタケシバオー級の快挙ではないか、いや、距離体系が整備されてそれに沿って使うのが常識だとされる今どきならそれ以上の快挙ではないかと、密かに期待している。

 ここ一番で頼りないがメジロダーリングは見捨てられない一頭。兄のリンピドがG1パリ大賞典の勝ち馬で、それがしかも大して強くないので、メジロの将来の基礎牝馬としての期待の方が大きいのだろうが、父のグリーンデザートは当代欧州随一のスプリント種牡馬。これまでのレースぶりから見る限り、G1の厳しい流れではよほどのことがない限り力を発揮できなさそうな箱入り娘の弱さがあるが、流れなんて分からんからね、実際。あれよあれよのシーンがあるかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.3.26
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