2000有馬記念


忘れたころのブライアンズタイム(またもや)

 3月のドバイに始まり12月の香港で終わった“エミレーツ世界シリーズ”の2代目チャンピオンには、先週末のシリーズ最終戦・香港Cに勝ったファンタスティックライトが就いた。競馬にF1的な世界シリーズ戦は馴染まないと考えるひとが多いせいか、今イチ盛り上がりに欠けるのは否めないし、しかもこれで2年連続して発案者のモハメド殿下の馬がチャンピオンになったのもしらけるといえばしらけるが、でも、ファンタスティックライトは偉ねえ。ドバイミレニアムに次ぐ“ゴドルフィン”のナンバー2として5カ国を渡り歩き、ジャイアンツコーズウェー、モンジュー、ジョンズコール、カラニシ、そしてテイエムオペラオーと2000年を代表する北半球のスターホース全てにひと通り完敗して、しかもシリーズ・ポイントでトップになるとは、香港でもらった漢字名“奇異光芒”そのままの不思議な存在といえる。20世紀最後の競馬はこの馬の成績をたどればほとんど分かるわけだ。

 さて、ジャパンCでファンタスティックライトを抑え、世界のビッグ5(またはビッグ6)となったテイエムオペラオー。こちらはファンタスティックライトよりも早い2月に始動してここまでパーフェクト。ひとつ上の最強世代、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、グラスワンダーあたりとは相手関係とかいろいろ違うので一概にはいえないが、出られるレースに全て出て、しかもひとつの取りこぼしもないのだから史上最強クラスの一頭といえるのは確かで、あまりに強くてしかも危なっかしさがないため、人気という点ではかつての阪急ブレーブス的な部分がないこともないが、ま、ここも負けるとは考えにくい。取りこぼすとすれば東京での2戦のどちらかだろうと思っていたが、それもどうもなかった。高配を狙うばっかりに、今年は重箱の隅をほじくるようにして死角を探してこじつけてきたが、オペラオー向きにちょうどいい具合に馬場も荒れてきた中山の2500ではもうお手上げ。で、ここでは別格大本命ということにして、それ以外の馬で話を進める。

 今年のジャパンCで衝撃的だったのは、上位の着順ではなくて下の方、しんがりから4頭に日本の4歳G1馬が並んだこと。同じ世代のフランスの牝馬レーヴドスカーが7着とはいえ0.5秒差に入っているのに、凱旋門賞では1〜3着、ブリーダーズCクラシックでも1〜4着を4歳が占めているのに、これはどうしたことだろう。よくいわれるのは世代レベルの優劣だが、マイルチャンピオンシップは4歳馬のワンツーだったし、ダートでは例年より早い時期から古馬の壁を突破している。阪神牝馬特別でもティコティコタック、ヤマカツスズランはなかなか頑張った。そういう状況で、4歳の表街道を進んだ組だけが低レベルとは考えにくいし、大体、ジャパンCでも単純に時計でいえば、2.26.1で上がり35.2なら、アグネスフライトもエアシャカールも難なく走破できるはずである。そういう計算が成り立たなかったのは、簡単にいってしまえば、やはり菊花賞の時期が早くなったせいだろう。残暑の厳しい時期に栗東に帰って、菊花賞前に1度使うとすると選択肢はひとつだけ、それをクリアして何とか菊花賞で本調子に持っていけても、さらにジャパンCで古馬のスーパー一線級と互角に戦える余裕は、結果論でいうともう残っていなくて当然だったということではないか。先々、こういう秋の路線が定着して、菊花賞はジャパンCの4歳馬の予選という割り切った考え方になればまた違ってくるのだろうが、今のところそこまでは無理で、結局、今年のジャパンCの日本の4歳馬は、切羽詰った番組上の綱渡りでちょっとだけ帳尻が合わなかったということで、能力的なレベルが劣るわけではないという考え方もできる。で、トーホウシデンは菊花賞後ひと息入れてここに備えた。サンデーサイレンスでもそうだが、ブライアンズタイムの一流馬は体力の限界ギリギリまで頑張ってしまう面があり、しかも、同じ父の小兵エリモダンディーと同じくらい小さな体だけに、無理を避けたこのステップはおそらく吉と出るだろう。どうでもいいことだが、この馬には微妙な心情というか、ダービーでも菊花賞でも本命にしたい気持ちもあったのだが「将来がある、ここで無理したらアカン」とかなんとかで印は控えめにしてきた。でも、余裕を持って使われた4歳の暮れ、もう今回は目イチの勝負も大丈夫だろうと思う。ブライアンズタイム産駒の4歳馬はこのレースでナリタブライアン、マヤノトップガン、シルクジャスティスと過去3勝。先輩たちと違って重賞未勝利のぶん、パンチ力不足は否めないかもしれないが、まあ、そういうのは巡り合わせの問題もあって、ここ一番のブライアンズタイム産駒は、過去の実績とか序列を軽々と飛び越えてしまう。マヤノトップガンと同じブライアンズタイム×ブラッシンググルームの配合で、牝系はエルグランセニョール(84年欧州最強馬)からザール(97年欧州3歳チャンピオン)まで常時天才輩出体勢にある名門ベストインショー系。母のブラッシンググルーム×ニジンスキーの配合はニックスとして定評のあるところで、冒頭の“最後に笑った”ファンタスティックライトもブラッシンググルーム直仔×ニジンスキー牝馬の配合だ。それにどうもブルードメアサイアーとしてのブラッシンググルームは、世界的に見ても有能だが、それ以上に日本で特に優秀だということを誰か書いてたな。そういえばそうやね。ヤマニンゼファー、マヤノトップガン、それからテイエムオペラオー……。常識の線を大きくははみ出さないが、ちょっとだけ出る、そんなプチ天才を出すタイプなのかもしれない。ファンタスティックライトがドバイミレニアムやモンジューの刺すような視線を浴びつつ「いや、すんまへんな、チャンピオンになってしまいまして……」と20世紀を締めくくったように、「アッ、良かったんですかね、ボク、テイエムオペラオーさん負かしちゃって」というのはあるかも。ちょっと気掛かりなのは、しょうもないことやけど、ナリタブライアンとマヤノトップガンのときはヒシアマゾン、シルクジャスティスのときはエアグルーヴと強力な牝馬がいたのに、今回はいない点。現役時代、牝馬のウィニングカラーズに後塵を浴びていたブライアンズタイムだけに、あながち無関係とも思えず、牝馬がいないと闘志に火がつかないという可能性もなきにしもあらずで、ああ、フサイチエアデール出てきてほしかったなあ……。

 実力的にテイエムオペラオーを負かせる可能性を、実際に示したことがあるのはツルマルツヨシ。まあ、去年の有馬記念はグラスワンダーとスペシャルウィークが完全に「2人の世界」に入っていたので、3着だろうが4着だろうが大して関係ない部分もあるけど、迫るが負かせないメイショウドトウよりはいくらか未知の部分が残されている。父は有馬記念2勝を含め、中山2500mでは磐石の強さを示したシンボリルドルフ(どこでも強かったけどね)。母の父コンキスタドールシエロといえば、産駒のワゴンリミットがスキップアウェーの連勝を9でストップさせたことが思い出される。牝系はテイエムオペラオーと同じで、20世紀最後のモンスターマシン・ドバイミレニアムは祖母の曾孫になる。この母にはずっとシンボリルドルフが配合されているが、シンボリ牧場としても、何としてもルドルフの後継馬をという期待をかけた血統だからこそだろう。ああ、やっぱり95年生世代は強かったんやなあという結果になるのも悪くない。あとは、キングヘイロー、△メイショウドトウ×マチカネキンノホシメイショウオウドウ


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.12.22
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