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凱旋門賞でまさかの敗退、汚名返上を狙ったチャンピオンSで2着に敗れ、さらに傷を深めてしまった王者モンジュー。30年前に三冠馬ニジンスキーがこれと同じ経路をたどって引退したが、今は年が暮れるまでにBCとかJCとか香港とか、まだまだチャンスが残されていて、モンジューはどうもブリーダーズCターフで捲土重来を期すようだ。本来のデキが戻ってアメリカの老芝馬が相手なら成算ありと考えてのことなのか、あるいはなかばやけくそなのかは不明だが、冷静に考えると夏までのモンジューの強さは半分くらい幻想に過ぎなかったのではないかとも思える。“キングジョージ”をピークとするモンジューのパフォーマンスは、実際には層の薄い欧州で自分より弱い相手を力通りに斥けていただけだったのに、前年の凱旋門賞幻想を引きずっているぶんその強さが誇張され、エルコンドルパサーがからんでいることもあって日本人もその幻想に乗っかったわけで、例えばエアシャカールが“キングジョージ”ではなく宝塚記念に出ていても同じようなものだったと思うが、ともあれあの結果でモンジュー崇拝派は圧倒的多数になった。でも、今年の凱旋門賞はいつものような多頭数にこそならなかったものの、残り800mから激しくゴチャゴチャするこのレース特有の流れと、平均的に速いペースで上がりも速い高速馬場というサドラーズウェルズ産駒には辛い条件が揃って、結果、元来凱旋門賞が苦手なサドラーズウェルズ産駒らしくモンジューは負けた。負けようがないと思えるときほど、案外あっさり負けちゃったりするものなのだ。 大本命のテイエムオペラオーがサドラーズウェルズの孫なので、モンジューの話を引っ張ってこじつけようとしてるな、こいつ、ここまで読んでそう考えるひとは鋭い。当たり。まあ、確かにテイエムオペラオーは強い。でも、こじつけといわれようと予想の道に反するとそしられようと何でもいい、万馬券の出る確率が高いこのレースで万馬券を狙わなくてどうするか。そのためには本意でなくても大本命の死角をほじくる必要がある(テイエム・ファンのひとは次の段落まで飛ばして読んで下さいね)。さて、テイエムオペラオーは去年の有馬記念でグラスワンダー、スペシャルウィークから時計差なしの3着に健闘して、その2頭の引退で自動的にチャンピオンの座に就き、今年に入ってからは目下敵なしという状況。ただ、どのレースも同世代相手の王座防衛戦で、ほとんどが前半ジワーッと行って上がりで力任せに圧倒するという内容。今年走った最短距離のレースで緩みのない流れになった宝塚記念では思わぬ辛勝だった。ここで思い出すのが“キングジョージ”の直前に英レーシングポストのインターネット版にあったエアシャカール=森調教師の強気の談話で、「モンジューはジワーッと行って上がり勝負になったら強いけどね、テンから力を出さないといけない日本みたいな流れになったら負かせるよ」とまあ正確には憶えてないがそんな内容で、“キングジョージ”の時点では全くの大ボラでしかなかったが、凱旋門賞が終わるとまさにその通りやったんやねえ、これが。ほれ、何となくモンジューとテイエムオペラオーが重なりませんか? 今回は皐月賞では勝ってても、古馬になって初めての2000m、時計差なしのところまで迫った2頭に加え、捨て身の逃げ馬とか追い込みに全てを賭けるのとか、わけの分からんのまでいろいろ出てくるだけに、何かに足元をすくわれる恐れはあるのではないかと……。○。 テイエムオペラオーが力でねじ伏せられずに終わったのが、グラスワンダー、スペシャルウィーク(+エルコンドルパサー)のひとつ上のいわゆる“最強世代”。まあ、それらが今年も走ってたら力ずくで追い落としたかもしれんが、勝ち逃げされたような形で直接負かしてないのは事実。◎はその世代で、抜け出すのに手間取りながら毎日王冠でグラスワンダーにハナまで迫ったメイショウオウドウ。いくらグラスワンダーが左回りではタダの馬やといっても、実際に怪物を脅かすところまでいったのはエアジハードとこの馬だけ。サンデーサイレンスの仔は初年度産駒のジェニュインが4歳で2着に来て以来、過去5年途切れることなく連対して2勝2着4回の好成績を収めているのは見逃せないところで、しかも去年のスペシャルウィーク=ステイゴールドのように、高配当を演出しているあたり、今年も狙いとしてはうま味たっぷりだろう。リファール牝馬にサンデーサイレンスの配合はバブルガムフェローの二番煎じともいえるが、トーホウシデン(ブライアンズタイム×ブラッシンググルーム)はマヤノトップガンの二番煎じでありながら、菊花賞で惜しい2着に来た。良いものは良いと素直に認めるのも大事。サンデーサイレンス×リファールというだけならロサードも同じだが、今回はメイショウオウドウの祖母である名牝ラコヴィアに注目しておきたい。ラコヴィアは1983年生まれ。4歳春にサンタラリ賞、仏オークスとともに楽勝したフランス春の4歳女王で、秋の4歳牝馬のG1ヴェルメーユ賞はダララの3着となって引退したが、フリーハンデではダララとタイの仏4歳牝馬トップの評価を受けた。ダララはその後、ダンシングブレーヴが勝った凱旋門賞で6着とはいえ見せ場たっぷりだったから、この2頭の仏4歳女王の実力は確かだったといえよう。繁殖入りしてからダララがG1勝ちのダラザリを出し、2歳の産駒は今年の英タタソールズ・ホートンセールで史上最高の340万ギニー(約5億7000万円)で落札されるなど華やかな話題に包まれるのと対照的に、ラコヴィアは準重賞勝ち馬を出した程度で実に地味だったが、ここに来て様相は変わってきた。10年目の種付けで生まれたトブーグが、夏にフランスでサラマンドル賞、10月にデューハーストSとG1を連勝して3戦3勝で3歳シーズンを終えて、欧州3歳チャンピオンの座に王手をかけたのだ。こういうファミリーの勢いというのは直接関係ないように見えて実際には不思議と深いものがあって、ラコヴィアの初仔アルタデナの産駒が日本でG1に勝ったとなると、やっぱりなと頷くひとが世界中で数10人はいるのではないかと思う。また、ラコヴィアはミスワキの姪で父がレイズアネイティヴ系なので、秋の天皇賞が最後のレースとなった天才サイレンススズカ(母の父ミスワキ)に通じる部分があるし、マジェスティックライトの母の父がリボーである点も、こういう大舞台で一発を期待できるゆえん。 短い距離は別にして、このレースはほかのG1に比べると牝馬の台頭する余地がいくらか大きい。▲トーワラノビアはたまたま6歳で、強力世代の一員とはとてもいえないが、叔母で同じニホンピロウイナー産駒のトーワダーリンはノースフライトの安田記念で2着に飛び込んで万馬券をかっ飛ばした。ほかにサクラバクシンオーがいたし、外国馬もスキーパラダイスを筆頭に結構強力だったが、それでも突っ込んでくるのが名種牡馬ニホンピロウイナーの面目で、父自身、このレースでも直線絞られながら3着しているように十分守備範囲。母はダイタクリーヴァの母に似てネヴァービートの強い近交(3×3)が目をひき、この馬とダイタクリーヴァの今後の活躍次第では、ネヴァービートのインブリードは大きな話題を呼ぶかもしれない。 △には、ホントはJCで狙いたいナリタトップロード。以下、ダイワテキサス、ステイゴールド、ロサードと続くが、ネヴァービートの名前が出たところで大穴にユーセイトップラン=ロバーツの無欲のおっさんコンビの直線一気……、とまあ、これはないか? |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.10.29
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