き使った同じ手が使えないからだと聞いている。 それに、最近になって聖なる大樹に異変が起こり、よくない噂もひろまってきている。 コンコン― ドアのノックであたしは現実に引き戻される。 「はい?」 「フィリィ様、ファミィ議長がお呼びです」 「わかったわ。すぐ行く」 それだけを告げるとあたしは部屋を後にした。 「また悪魔達の行動かもね」 ここ最近悪魔による被害が多く、金の派閥、蒼の派閥もその対処に追われている。まだ人的被害は出ていないものの、それはいつ起こってもおかしくないものだった。 「あれ?」 議長室に向かう途中、旅人らしき人とすれ違う。 「今、ここまで他の召喚師でも入れたっけ?」 そんなことを考えてしまった。今は上位召喚師しか入れないようになっており、一般に旅している召喚師もそう簡単には通れないようになっている。 「まあ、今回のあたしの任務のことについて知らせてくれた人なら別かもね」 そんなことをつぶやきながら、議長室の扉を叩いた。このとき、すれ違った人はどこかであった気がしていた。でも、これはまだ気づいてなくてよかったかもしれない。知ってい たら、昔の自分に戻っていたと思うから。 その少し前、1人の人物が議長室にいた。初め、その人物を見てファミィは驚いたが、どこか安心したようなものだった。 「なるほどねえ、それで今までわからなかったのね」 安心したのか、懐かしみつつも本来の落ち着きを取り戻している。 「それで、あの子にはまだ会わないの?」 そのことになると、その人物はまだ早いといった。 「そうかもね。これはあなたが持ってきたものですからね」 二人が話しているのはフィリィの任務についてのことだ。今回の内容は高位召喚師でも危険なものだった。 「とにかく、もしものときはお願いね。強くなったって言っても、まだ肩に力が入っているようなものだから」 返事をするとその人物は席を立とうとした。 「ああ、その前に一言言わせてちょうだい」 その言葉にその人物は疑問に満ちた顔をする。 「もしもあの好みに何かあったら、きついお仕置きをさせてもらいますからね」 こわばった返事しかその人物はすることができなかった。 「早めにここを離れたほうがいいですよ。あの子がここに来ますから」 それを聞くとあわてて脱いでいたローブをまとい、軽く挨拶をすると部屋を出た。それから少ししてドアをノックする音が聞こえる。 「どうぞ」 「失礼します。お呼びですか、おば・・・ファミィ議長」 机に戻り、作業をしていたファミィは招き入れる。思わずいつもの呼び方をしそうになったフィリィは言い直す。 「いいわよ、ここには2人だけだから」 それを聞いて少しフィリィは気を楽にしてソファーに座る。いつも身につけている銃とそのパーツと弾倉の入ったポシェットの着いたベルトをはずす。 「それで、今回の任務はなんなんです?」 「この場所の調査に行ってほしいの。さっき、この当たりで悪魔らしき姿を見たってそう聞いてるの」 「ここって、スルゼン砦があった場所ですよね」 示された地図には昔、悪魔によって陥落されたトライドラの砦のひとつがあった場所だ。 「確かに、隠れるならうってつけですけど。確か今かなりあちこち壊れかけている場所が多いはずだし、結界による封印もあるじゃ・・・」 「そうよ」 「そうよって、お婆さま!」 あっけらかんといったファミィの言葉にフィリィはわずかに怒鳴った。 「とにかく、お願いね」 「あううう」 ファミィの満天の笑顔で言われたフィリィは苦渋に満ちた顔になっていたのは言うまでもない。 「わかりました。やれるだけやってみます」 疲れたようにそう言うとフィリィは議長室を後にした。それと入れ替わるようにミニスが入ってくる。 「なんか、最近あの子ばかりにやらせすぎじゃないの?」 入ってくるなり早々ミニスが声をあげる。 「んー、でも今回はちょっと仕方がないのよ」 「仕方がないって?」 「それはもう少ししてからのほうがいいわね」 「あー、また知ってて言わないんだから」 「今回ばかりは貴女にも言いづらいのよ。私も信じられなかったんだから」 「???」 ミニスが疑問に満ちた顔になる。 「でも、あとでいろいろ問題になるからミニスちゃんには早めに言ったほうがいいわね」 もう少し黙っておくつもりだったが、この後のことを考え、先に話すことにした。 「実はね・・・」 「・・・・・・え」 それを聞き、ミニスの顔色が少しずつ変わり、長い沈黙が続く。 「ええ〜〜〜〜っ!?!?!?」 ミニスの驚きの声が議長室いっぱいに広がった。 陽が高く昇るころ、フィリィはスルゼン砦跡に来ていた。門は硬く閉ざされ、召喚師の結界による封印がほどこされており、簡単に入れないようになっている。 「何度見てもひどいものね。お母さまもここで悪魔と戦ったのね」 結界の封印を解き、門を開け、中の様子を見てつぶやく。砦のいたるところが崩れ、今にも崩壊してもおかしくないほどだった。 「・・・よし」 腰の銃のロックをはずし、いつでも使えるようにすると、中へ進む。 ギイイィィ―ガラガラ― 「けほっ、こほっ。・・・ここから人は出入りしていないみたいね」 扉を開けた途端、崩れた瓦礫の土煙にむせつつも、足跡が残っていないことを確かめる。 「えーと・・・あった」 ごそごそと誓約したサモナイト石を入れた袋から一つ取り出す。 ―フィリィ・マーンが汝に願う。好奇強き霊者よ、我に道を示せ 「声に応えて、ボア!」 高めた魔力により、呼び出したのはランプを持ち、フードをかぶったお化けだった。 「よし、行こう」 ボアに声をかけると共にフィリィは建物の中に入っていった。 建物の中をボアのランプの明かりが辺りを照らす。ずいぶん使われていないことをあらわすようにクモの巣が貼っている所もあった。 「誰も入っていないみたいね。魔力とかの気配もないし」 全身の神経を研ぎ澄まし、注意深く見るが何も変化はない。だが、空気の流れは悪くなっているのか、一階の中央辺りで息苦しさを感じるようになってきている。 「これ以上・・・この・・・階を調べるのは・・・無理ね・・・」 やむなく一度戻り、一息ついて次の階を調べることにした。 「はあ・・・」 一人フィリィはため息をつきながら薪をくべる。 「思ったより難航しそうね」 砦のほうを見ながらつぶやく。一度結界の封印をしなおし、入ることは出来なくなっている。 あの後、上の階の痛み具合がひどく、手詰まりとなってしまったのだ。 「手持ちの術も最低限のものだもんね。もうちょっとしっかりしたものが必要ね」 そんなことを考えながら、沸かしたお湯に持ち込んだ固形スープを入れ溶かす。とけっきった所で、夕方近くで採ったきのこらを一口大に切ってスープに入れ、火を通しそれを 食べる。すっかりなれた簡単な食事だ。 「なんかすっかり慣れちゃったわね、こんな生活」 そんな事をふと思う。一人で旅をしていた最初の頃は、自力で火を起こすことも出来ず、召喚術での炎は大きすぎることもあり、食事も満足に取れたことのない日もあった。 「さ、もう寝よう、と。明日はもう少し頑張らないと」 食事が終わると焚き火が夜明け前まで持つように薪をくべると、丈夫で汚れてもいいローブをかけて眠りにつく。胴回りに余裕があるので、寝袋と変わらぬ働きをするため、 旅をする召喚師にとって必需品になっているのだ。 「おやすみ・・・」 自分にむけてのようにそう言うと、一分もしないうちに夢の中へ旅立っていった。 暗闇の中、次から次へと出てくる敵を撃ち倒していく。持っていた弾倉のほとんどが空になり、残りも少なくなっている。 そんな事を考えながらまた敵を倒していく。そして少しずつ殺気や狂気に似た気配が近づいてくる。 そう確信すると自然に銃を握る手に力が入る。それとともに強力な魔力が解き放たれたのが分かる。 そのまま横に飛ぼうとする。しかし― 体中が凍りついたように一歩も足を動かすことは出来なかった。こうしている間にも、解き放たれた魔力―召喚術―は迫っている。 そう思った時、目の前に誰かが現れ、フィリィを突き飛ばす。 その人物の顔を見たとき、何をしようとしているのかが手に取るように分かった。 そう叫んだとき、召喚術がその人物を隠すように直撃した。 「リエル!」 その名前を叫んだと同時に目を覚ます。額や背中にびっしょりと汗をかき、呼吸も荒くなっている。 「また・・・あの夢・・・」 呼吸を整えながらつぶやく。二年前から見ている悪夢。それもフィリィにとって忘れられない日に。 「見なくったって・・・分かっているのに・・・」 そんな事を考えながらローブを羽織る。 「本当に・・・強くなれたのかな?」 空を見上げ、静かにつぶやく。静かに流れた風がそっと頬に冷たさを残す。 「・・・どうして、泣いちゃうんだろう・・・」 頬の冷たさについ弱気になる。今でも昔より強くなっているのか考えてしまうこともあった。 月が西へ傾いたころ、ふたたび眠りについた。 翌朝、簡単に朝食を済ませた後、フィリィは昨日行けなかったところの調査をすることにした。 「我が声に応えよ、天使エルエル!」 声と魔力により作られた扉から大きな剣を携えた天使が現れる。ちなみにこれは今誓約したものである。 「お願い、あたしをその翼で導いて」 そう頼むと天子は光になりフィリィを包む。光が消えると背中に透き通った翼があった。 「よし」 強く踏みしめ軽く飛ぶと、ふわふわと宙に舞い一番高いところの窓のそばに降りた。 「こういった使い方もできるんだ」 思わず自分でも驚いていた。今まででも誓約してもすぐに使うことはあまりなかったことや、憑依召喚も初めてだった。 「さてと・・・」 そっと中を覗き込むが、所々崩れてかけている以外何もなかった。その場に降りたとき、わずかな気配を感じた。 「誰か、いる」 銃を手にし、気配を感じたほうへ進む。進むにつれその気配は殺気に似たものになる。 「ここね・・・」 一つの扉の前にたどりつき、銃の安全装置をそっと外す。ゆっくりとドアノブに触ろうとしたとき、背後に気配を感じた。 「っ!」 とっさに蹴りを放つがかわされる。そのわずかな隙をつかれ、腹部に重い何かが直撃したような感覚が支配する。 「ぐ・・・しま・・・!?」 鈍い痛みに背後に回っていた人物に気づかず、そのままフィリィはその人物の一撃を後頭部に受け気を失った。 後半へ
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