「どうしたの、こんな朝早くに・・・」 それに気づいてミニスが出てくる。 「ミニス、久しぶり」 「マグナ、トリス。それにモーリンとシャムロックも」 そこにいたかつて悪魔と戦った仲間達を見てミニスは事態が分からなかった。 「ちょっと厄介なことが起こっちまってね」 「急いできたんだ。あのときの惨劇を止めるために」 「どういうこと?」 「・・・ガレアノ達は生きていた」 「!?」 それを聞いた途端ミニスの顔が青ざめる。 「とにかく、ファミィ議長にも話しておく必要はあります」 「分かったわ、先に部屋で待ってて。お母さまを起こしてくるから」 それだけを言うと、ミニスは本部の中にある母親の寝室へ向かい、マグナたちは議長室へ向かった。 ミニスには見えなかったが、フィリィは、ティスとリィナに支えられていた。まだ、その瞳に意思の光はない― 「お待たせしました」 「すみません、こんな朝早くに」 「いいのよ、今日はお仕事なかったから」 部屋の中にはマグナ、トリス、ティス、リィナ、モーリン、シャムロック、レシィの姿があった。 「ハサハの姿が見えないけど?それにモーリンがいるならリエルたちもいるはずよね」 「・・・本題に入る前に、そっちを話したほうがいいかもね」 モーリンのわずかな言葉からの重さをミニスは感じた。 「・・・リエルは死んだよ」 「え・・・?」 「守るためにフィリィをかばって・・・」 わずかに震える声で、机の上にリエルの短剣と黒くこげたバングルを置く。 「そんな・・・」 ミニスは立ちくらみにも似た感覚に襲われた。 「今のフィリィにここへ連れてくるのはあきらかに精神的な部分を追い詰めてしまうからね。別の部屋で休ませているよ、ハサハに頼んでね」 「・・・そう」 ショックを隠しきれず、ミニスは近くのソファーに座る。 「・・・とんでもないことになるよ。あいつらは生きていたんだ」 「まさか!?」 「俺達とは別にビーニャも生きていたんだ。キュラーはわからないけどな」 モーリン、マグナの話にミニスとファミィは何も言えなかった。 「でも、まだ完全じゃないからこっちにも勝機はあるわ」 「もっとも、それは相手のほうに手助けをしている者がいないことだがな」 トリスの言葉にそうマグナは付け足す。 「手助けって?」 「リィナからも聞いているしね。あたし達を狙っているものたち、もしビーニャたちが動けない代わりによこしたとしたら?」 「それなら説明はつくけど・・・」 ミニスも話を整理しながら聞いていたが、ある矛盾に気づいた。 「でも、いくらまだ力が戻っていないからって屍人や魔獣を使えば済むことだし・・・」 「確かに使ってはいたけど、やっぱりあの状態じゃ限度があると思うわ」 「それで暗殺者を使ったってこと?」 「多分な。俺も一度シルターンのシノビに襲われたこともあったからな」 「それって・・・まだ人間をなめているってことでしょ?」 「でも、シオンの大将の話の通りあの残党が召喚したとしたら?」 「それなら・・・ありえるけど」 いつの間にかティスとリィナは蚊帳の外になり、何か簡単に話すとそっと部屋を出た。 「なんか疲れたわね・・・」 「うん・・・」 外に出るなり、2人は10分ほどの時間でかなりの疲労を感じていた。 深く堕ちていく意識、そこには無限と変わらぬ闇が広がっている。どこが始まりで、どこが終わりなのか分からない。そんな闇の中を漂っているのかすら分からないが、そんなことを考えていられる状態では なかった。 後悔と絶望。その思念がすべてを支配する。その闇は、まだ深い部分へ堕ちていく。 「・・・」 そっと覗くように宝珠を通してフィリィを見ていたハサハは、暗い表情になり歯がゆく感じていた。以前のように相手の心の中に入ることができなかった。フィリィの堕ちた闇の部分は深く、失敗すれば戻ること はできない。それほど危険なものだった。 コンコン― 軽くドアを叩く音が聞こえ、それと共にミニスが入ってくる。 「・・・相当つらかったのね」 いまだうつろで光のない瞳、今のフィリィにはその声も届かない。 「ハサハ、なんとか連れ戻せないの?」 「深すぎて、届かないよ」 「それでもできるのよね?」 その言葉にハサハの顔色が変わる。 「・・・ダメ。もう戻れなくなるよ」 「・・・今はそんなことを言ってられないわ。今は時間がほしいの。フィリィをこのままにして置いたら悪魔より悪いわ」 その言葉には強い決意があった。そのためハサハは何もいえなかった。 「どうすればいいの」 「入りたい人の胸に手を当てて」 言われるがままミニスはフィリィの胸元に手をそっと置く。 「目をつむって。そして助けるって思って」 その行動が終わるのを確認するとハサハは宝珠に力を込め、ミニスの精神をフィリィに送り込む。あとは彼女が連れ戻すだけだが、ハサハは気を緩めることなく魔力でミニスを助ける。無事に終わらせるた めに― 「ここは・・・」 深い闇からいつの間にかフィリィは平原に立っていた。だが、いたるところに死体などが無造作といっていいほど転がっていた。 「ぐあっ!」 聞き覚えのある声がして、そのほうを見るとリエルがいた。すでにボロボロで、長剣は使い物にならなくなっている。 「いい気味だねぇ。アタシに壊されるってのは」 そこにいたのはビーニャで、子供のような感じではあるが、殺意に満ちている。 「う、あ、ああ・・・」 あのときの恐怖が一気によみがえる。体が震え、足元がすくむ。いつの間にか持っていた銃を握る力もない。 「さあ、壊れちゃいな!!」 そうビーニャが言った途端、リエルを囲むように召喚術の剣、ダークブリンガーが現れ突き刺す。 「!!!!」 よける間もなく、リエルは一気に数多の剣に突き刺され、召喚術が消えることなくそのまま動かない。そして、その剣に大量の血が伝い流れる。 「キャハハハ!アンタはそうやっているしか出来ないもんねぇ」 大きな笑い声と共にゆっくりとフィリィに近づく。 (逃げなきゃ) 頭でそう考えても体が動かない。 「アンタにもっと地獄を見せてあげるよ」 動けないフィリィにそっと耳元でビーニャがささやいた。悪夢は、まだ終わらない― 深い闇の中をミニスは降りていた。右手のところに誰かが握っているような感覚が常にある。それをハサハの魔力による補助だということをミニスは分かっていた。 「本当に深いわね」 終わりのない闇を見ていてミニスはそう思う。絶望は今のフィリィのように深い闇に人を突き落とす。 「だから悪魔がこれを好むのね」 人の心の闇―悪魔にしてみれば自らの糧にするのにこれほどいいものはない。心の闇は自分が思うよりも深く、おぞましいもの。 「きっと、わたしも誰かがいなくなったらこうなるのかもしれないのね」 顔をわずかに曇らせ、そのまま深いところへ降りていく。まだ、終わりは見えない。 後編へ続く
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