あるメイトルパの魔獣なのだ。 「こんのぉ!!」 その中、リエルは刃を振り続けた。長さの違う二つの剣、その斬劇はすべてを切り裂いていた。 我流剣・閃空乱舞―後にリエルの使う技の中で一番力の強い技、疾風撃の連続攻撃に、長剣を合わせたもので、疾風撃に入らない範囲の敵にも効果を発揮する疾風撃の 発展版である。ばらつきはあるものの、「加速」した状態では十分な威力を誇っているのに変わりはない。 「ま、まだこんなにいるのかよ・・・」 倒しても、次から次へと魔獣はやってくる。はぐれにしてはおかしすぎる。すでにリエルは2ダース近くもの魔獣を倒しているが、いつの間にかどこらか沸いて出て来る。ただ でさえ能力を使っている状態ではそんなに持たない。 「生きとし生ける者に光の加護を与えよ、聖母プラーマ!」 一方のフィリィはすでにほとんどの銃弾を撃ちつくし、召喚術による騎士や傷を負った人々の手当てをしていた。 「・・・まだいるってゆうの!?」 手当てが終わるころに近づいて来た魔獣に一発銃弾を撃ちこむ。今使っているのは最も反動の大きい32口径の銃弾だ。フィリィの手に有り余っている銃は何も無いようにフィ リィが向けたところへ正確に撃ちだされる。 「キリが・・・無いわね・・・」 まだそんなに魔力の戻っていない体で召喚術を治療に使っているとはいえ、ほとんど限界だった。 「・・・なに?わずかだけど魔力の流れがする」 召喚師特有の魔力の流れがフィリィに伝わる。 「・・・上!?」 そのほうを見ると、確かに召喚術のゲートがいくつも現れている。 「あそこは・・・リエルたちのいる場所!!」 それを察知すると、魔力の出所へ向かう。 「リエル、師範!そこをどいてえぇぇっ!」 力いっぱい叫ぶと同時に銃を構え、魔力を構成する。 (お願い、これだけ持たせて!) 「力を貸して、ローレライ!!」 銃に集められた魔力は簡単なゲートを作り引き金を引くと共に効果を発揮する。現れたローレライは一点に水を集め、それが槍のようになる。 「すべてを砕け、アクアスプラッシュ!!」 フィリィの言葉を受け、ローレライは自らを槍に見立て突き進む。 「なっ」 「おわっ」 間一髪の形で2人はフィリィの召喚術を避ける。それが分からない魔獣たちは一瞬にして肉をえぐられて絶える。だが、あるところに差し掛かったところでそれは破られた。 「へえ、こんな魔力を持つニンゲンがまだいたんだ」 片手にわずかに血をにじませ、ゆっくりと近づいてくる。その間、魔獣たちは何も仕掛けなかった。 「・・・やっぱりまだ生きていたという訳かい」 モーリンの顔は今までに見たことのないものになっていた。 「どうやら当たってしまったみたいですね・・・」 静かにシャムロックは剣を構える。 「あいつ同様、別のものに取り憑いていたわけかい」 「察しがいいねぇ。でぇもぉ、これならどうだい!!」 「・・・来る!」 「みんな、散れぇっ!」 シャムロックの言葉に全員その場から散る。刹那、辺りを召喚術の炎が4人のいた場所を燃やす。 「メイトルパの召喚術!!」 「間違いないね」 「ええ。これほどの破壊力、彼ら以外いないでしょう」 モーリンとシャムロックの2人は確信した。過去に自分達が倒したもの― 「こっちに来たらどうだい、ビーニャ!!」 「ふうーん、やっぱりアンタ達にはお見通しみたいだねえ?」 「当たり前だ。これほどの魔獣を操れるのは悪魔の中でもお前だけだからな」 「悪・・・魔?」 「あの人が!?」 「あいつは人じゃない、人の皮をかぶったとんでもない奴さ」 「ずいぶんふざけたことをいうねぇ」 しだいにビーニャと呼ばれた人物は近づいてくる。よく見ると左腕と足は無く、宙に浮いている。 「その様子だと、新たな肉体を手にしていないみたいだな」 「旅人から奪うつもりだったけど、このまま殺っちゃったほうがいいみたいだしね」 「どのみちあんたは血識を奪えないのにかい?」 「バカだねぇ。そんなことをしなくてもアタシの力は戻るんだよっ!」 そういうとビーニャは立て続けに召喚術・ダークブリンガーと魔獣召喚をおこなう。 「悪魔が、召喚術を!?」 「こりゃ立場が悪いね・・・」 召喚術を避け、フィリィをかばいつつ魔獣を倒しながらモーリンはつぶやく。もし、自分がやられたら間違いなくフィリィはビーニャに体を乗り移られる。そうなれば、フィリィは助 からない。 「アンタ、邪魔だよっ!!」 「しまっ・・・」 ビーニャの召喚術と魔獣の攻撃を同時に受け、モーリンは吹き飛ばされる。 「ぐっ」 「師範!!」 「その体、もらうよ!」 「!!」 一瞬の隙にフィリィの元へビーニャが近づいていた。先ほどの召喚術の反動と、とっさの事態に体が動かないでいた。 「どけええっっ!!!」 「な・・・」 一気に能力で加速したリエルは魔獣を倒しつつビーニャに接近し、二本の剣を同時に振り下ろす。しかし、その攻撃は空を切るだけだった。 「危ない危ない。まさかこんなことが出来るニンゲンがいるなんてね」 その声と共に、リエルたちの後ろにビーニャの姿があった。 「いつの間に・・・」 「でも、それだけじゃアタシには届かないよぉ?」 「空間移動・・・」 フィリィがつぶやく。 「空間移動?」 「悪魔の中でもごくわずかだけど、グリムゥみたいに場所を自分の意思で移動できるの。だからさっきのも・・・」 「ふうん、さすが召喚師だけあって分かっているねえ。でも、それが分かってもこのアタシには勝てないよ!」 そういうと今までよりも強力な召喚術を放つ。狙いはリエルとフィリィ。 「や、やめろおおっ!!」 「逃げるんだ!早く!」 「分かって・・・っ!」 「逃げ・・・うう」 だが、2人とも動くことは出来なかった。リエルは能力の使用による負担、フィリィは召喚術の反動で限界だった。 「・・・ごめん」 それだけをいうと、リエルは短剣を捨てフィリィを突き飛ばす。 「えっ・・・」 何が起こったかわからなかったが、わずかにこちらを見たリエルの目は、どこか切なげだった。 「・・・・・・ダメぇ!!」 ドガアアアン― 「そ・・・な・・・」 「早まったマネをっ」 「・・・・・・」 召喚術の余波で立ち込める煙の中にリエルの姿はなかった。そこには黒く焦げたバングルと、リエルが捨てた短剣だけだった。それを見たフィリィの手から銃が滑り落ち、人 形のようにうなだれていた。 「キャハハハッ。バカだねぇ、そんなことをしても無駄なのに」 「・・・っ。貴様あっ!!」 叫ぶなり、モーリンは一気にビーニャへ近づく。 「そんなに死にたいのなら殺してあげるよ!」 面白く言うとビーニャは召喚術をモーリンへ向け放つ。 「そうはさせるか!」 「これ以上誰も殺させたりなんかさせないんだから!」 その声が聞こえると共に、モーリンの前に盾を持った機械兵士が現れ、ビーニャの召喚術をはじく。 「マグナ、トリス!?」 「なんとか間に合ったみたいだな」 「なぜ、貴方達がここに?」 「この先の街で屍人があふれていたのよ。それを終えて帰る途中で出くわしたってわけ」 「では・・・」 「間違いありません、奴らは復活しました」 その後ろからトリスの護衛獣であるレシィとマグナの護衛獣のハサハ、2人の子供のティスとリィナが駆けつける。 「今はどれだけになるか分かりませんが、私たちも力になります」 「そんなことより早く片付けるわよ、ティス」 「わかってる」 そういうなり、2人は召喚術の詠唱に入る。 ―クレスメントの元にティスが命じる。炎氷の兄弟よ ―バスクの名においてリィナが命ず。異界のものと生きし鋼よ 2人の呪文がゲートを作る。 『我らとの誓約において魔を撃ちし力と化せ』 重なったその言葉と共に二つのゲートが重なる。 『エレメントブレイク!!』 力ある言葉により、シルターンの召喚獣、遠異・近異とロレイラルの召喚獣、とらわれの機兵が現れる。遠異の炎と近異の氷がとらわれの機兵の砲身に集まる。それを機兵 がピュノブレイクを放つ。異なる力はひとつになり、一撃ですべての魔獣を捕らえた。あるものは凍りつき、あるものは身を焼かれ、またあるものはひとつに集まった力により跡 形もなく消えた。 「たった一撃であれだけの数を!?」 「何なのよ、こいつらムカツクゥ」 「そこまでにしたらどうだ、ビーニャ」 「このままあたし達の召喚術の餌食になりたい?」 マグナとトリスは平然と言いのける。 「くううぅっ、覚えてなさい!」 それだけを言うとビーニャは虚空に消えた。 「なさけないねえ、あんなところでドジをするなんてさ」 「仕方ありません、貴女のは場合が場合ですから」 トリスが呼び出したサプレスの召喚獣、天使エルエルの力により、怪我した人の手当てをし、共に悪魔と戦った仲間と話していた。 「昔のあんたと同じだね。あたいはあの時、訳が分からなくなって突っ込んで・・・下手をしたら死んでいたんだから」 「ところで、彼女は大丈夫なんですか?」 重い雰囲気の中、ティスが口を開く。彼女とはフィリィのことだ。 「・・・精神的な部分をやられたようなもんだからね。このままってこともありえるね・・・」 「そんな・・・」 横目でフィリィを見ながらモーリンから重い言葉が出る。今のフィリィの瞳に意志の光はなく、人形同然になっている。 「どうだ、ハサハ?」 マグナがたずねるとハサハは首を横に振った。 「今、とても深い暗闇の中にいて、こっちの声も届かない」 「そっか・・・」 「ごめんね」 「気にしなくったっていいよ。とにかく、一度ファナンに戻る必要があるしね」 「そうね、ミニスにも話しておかないと」 「それなら早いほうがいい」 そういうなりマグナは召喚術の詠唱に入る。 「いでよ、レヴァティーン」 その言葉により、大きな竜が姿を表す。それに全員乗ると飛びたった。 目指すはファナン。金の派閥の本部へと― 第7話へ続く
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