いきなりですが、魚釣りです


 波も穏やか快晴のとある日。シーズンオフとはいえ、アウトウェイの誇る輸送艦・大運丸は久しぶりの航海に出ていた。このごろまったくと言っていいほど出番がなかったが、
ただ港に停泊して機体をさび付かせるよりは動かして異常がないかチェックをしよう、ということで久しぶりにエンジンに火が入ることとなった。チェック事態は問題なく進み、沖
合い5Kmまでのテスト運行が終わるところである。そして今1隻の大運丸には藩王への報告書作りのために摂政の空・藤田一・そして新しくアウトウェイにやってきた天流が
乗っている。その三人の手にはなぜかつり道具一式を持っている状態である。というのもどうせ海に出るなら一緒に魚釣りをしようという藩王の意見により、輸送艦という馬鹿
みたいに広い甲板で船上釣りを行うこととなった。

「さて、大物釣るぞー」
「カジキいくぞ、カジキー」

 空・天流は意気揚々として釣りの準備に取り掛かる。藤田もそこまで声に出してはいないが当人も真剣に釣りの準備をしている。そこへ百貨店などで聞くアナウンスチャイム
が甲板に響き渡る。

『あーてすてす、本日は晴天なれども所により戦艦が落ちてくるでしょう』

 どんな天気だそれはー!!と、三人が館内放送に突っ込んだところで空は今日このメンバー以外に誰がいたっけ?とちょっと考えた。どこかで聞いた声なのだが思い出せな
い。

(ああ、俺も若くないなぁ…ってまだ20代だろうが!!)

 思わぬ考えに自分自身に突っ込む空であった。

『そろそろ釣り場に到着するぞー。えさは用意したか?仕掛けは?魚釣りをしても自分だけ釣果0でもふてくされない根性はOK?』
「何だその館内放送はー!けど、(やっぱり)どこかで聞いたような…」
「確かに…」
「つうか、これじゃ釣りに集中できねぇ」

 三人がこの声のやつ誰だっけ?と思ったとき、向こうが答えてきた。

『今日のお耳の恋人は、アウトウェイ1・2を争おうにもライバル店がいない帽子がお送りします』
「ってあんたかぁぁぁぁぁ!!」

 と、空は思い出すと同時に思いっきり艦橋にいる帽子に向かって突っ込んだ。そんなこんなで第1回大運丸魚釣りが始まった。ちなみに第1回とあるが2回目があるわけでも
ない。

「じゃあ書くなよ!!」

 い、今空摂政のツッコミが届いた。まあはてない国人だからこれくらいは許容範囲内だろう。多分…



 開始早々当たったのは藤田であった。大運丸の広い甲板の上には鰯をはじめとする小魚が次々と跳ね回っている。現在その数約50。まさに入れ食いである。

「今日の大物はお二人に任せて僕は堅実にいこう」

 入れ食い状態で次々釣り上げる藤田は既に余裕が出来ていた。それを聞いた空は「え、プレッシャーかけてきた?」とひそかに感じ出した。実はこのとき天流も藤田と同じこ
とを考えており、藤田が堅実に攻めているので大物は空に丸投げを決め込んでいた。そしてこのとき空の考えは現実のものとなった。

「ん?…おおっ!」

 次にあたりを引いたのは天流であった。あたりが来る少し前までかなりの撒き餌を海に投じており、それが今かかったのだ。彼が釣り上げたのはイカ。しかもただのイカでは
なく宇宙でも平気で泳げるスペース槍イカである。そして釣り上げる少し前にタモを使おうとして海面を見た時、彼は目を丸くした。そこには撒き餌をした場所1面にスペース槍
イカの群れが跳ね回っていた。天流は都合よすぎるだろと思いながらも次々と釣り上げていった。

「まさかイカが釣れるなんてなぁ」

 それを見て空がイカリング食べ放題だ、藤田がイカリング1年分はありそうと考えたことを口に出した瞬間、天流も一夜干し・塩辛にイカそうめん…、と数々の料理の光景を思
い浮かべていた。そして打ち合わせたかのようにじゅるり、とたれかけたよだれを拭く。

『イカの群れとは…いかがなものかねぇ』

 帽子がそういった瞬間、本人も含めて場が凍りついたように寒くなった。天気はいいのに体の芯が一気に冷える変な感覚である。

『寒い…寒いよ…』

 いや、言った本人が言わなくても分かるから、と3人は心の中で突っ込んだ。

『あれ?なんだかとっても眠いんだ…もうゴールしても…いいよね?』

 どんどんか細くなっていく帽子の声に空がえーせーへー(衛生兵)!!と応えるがその声は艦橋に届くことはなかった。
 それはさておき、いよいよ空は追い込まれた状況になっている。他の二人が入れ食い状態なのに対し、自分は未だ一匹も釣り上げていないボウズという状態である。さら
に、日も傾いてきており、そろそろ帰港時刻も迫っている。のんびり構えているとはいえ、この状況は非情に耐えがたいものである。もし、ここに犬兵衛がいたら足元にそそうす
るか、倒されて額に肉の字を書かされたりするかもしれないだろうなぁと考えた。あの犬兵衛のことである。これくらいは想定の範囲内ではあるがこれに匹敵するものをやろう
とするかもしれない。例えばなんだろう、と空が考えて思いついたのは自分の体に紐をつけてそのまま海に落っことして某芸人のごとく素潜り漁をやらされるとか考えたら気分
がめいってきた。そんな時、空の竿が大きくしなった。

「掛かった!」

 一気にリールを巻き取って釣り上げようとする。一応空の竿や仕掛けは全て大物用のものである。それでもかなり相手がでかいらしく、うまくリールが巻けない状態だった。

「うおおおおおっ!!」

 それでも懸命にリールを巻く空に気づいてほかの二人や釣り上げた魚をコンテナ部に入れていた乗組員らが駆けつける。全員が緊迫する中どんどん獲物が海面に上がって
くる。

「これが、噂に聞く大物…」

 どんどん獲物が海面に上がってくる。

「大物…」

 海面に上がってくる。

「でけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええっ!」
『って、でかっ!!!』

 全員が驚くのも無理はなかった。懸命に釣り上げたその獲物が海面に出たのは顔の部分なのだから。その顔を見て空はスペース本マグロだと気がついた。このマグロも自
身が宇宙で泳げたりも出来てしまうスペース槍イカと同じとんでも魚類の1種である。それから考えると釣ったこの本マグロの全長は40mあるかもしれない。さすがにそこまで
きていくら大物釣り用の仕掛けでもこのクラスは釣り上げるのは不可能で、もはやマグロ釣り用の仕掛けでマッコウクジラを釣るような例えがぴったりだった。そこで大運丸の
アームを使って魚を揚げる。甲板は無理なのでそのままコンテナに入れた瞬間、はねる音と共に一同が「これ、装甲抜けるんじゃないか?」と思いたくなるほどみしみし音がし
ている上に時折船が揺れている。

「すげぇ、さすがアウトウェイ一の釣りバカ!」
「伊達に暇人してないぜ!」

 天流の感想に空は上機嫌で答える。この場合、釣りバカは褒め言葉ではない気もするがそれは流すことにする。ともあれ、この日空は新たに釣りバカ摂政または釣りバカな
暇人という二つ名がつくことになったのは確実である。


「いやー、大漁大漁。よかった〜♪」
「海釣り、楽しかったですねー」

 いまだにスペースマグロのはねる音が聞こえるが、大漁となった魚の山ですっかり積載量いっぱいとなった船の速度はぐんぐん上がっている。そんな甲板の上ですっかり空
たちは上機嫌である。そしてそこから見える夕日に混じってスペース本マグロの編隊飛行が見えた。

「おー、飛んでる飛んでる」
「空さんあれを釣ったんですねー」

 藤田が飛んでゆくスペース本マグロ編隊を見て、いまだ暴れている艦内のスペース本マグロに目をむける。どことなく悲しそうというか飛び立たせろという感じでもあった。

『さて、そろそろ戻らんと帰港時間に間に合わない。戻るぞー』
「あ、帽子さん復活したんですね」
『ああ、綺麗なお花畑で川の向こうに箱詰めにされて送られかけた…』

 帽子のその台詞に一同凍りかける。しかし空だけは売ってくれると以前言っていたけど、川を渡ったら帽子がタダになると考えていた。何気にせこい気もする。

「まあとりあえず…」
「帰りましょー」
「大漁旗あげよーぜー」

 なんだかんだで意気揚々と帰港する一同であった。ちなみにその後(というか背景)ではスペース本マグロ編隊と宇宙から降りてきたスペースヤリイカ編隊が激しいデッドヒー
トを繰り広げていた。




 えー、頼まれていたのが昨年11月か12月ごろで、完成したのがこの時期って、明らかに遅いですね(ゲーム自体は11月上旬に行われてました)。藩王さん、ごめん。でもシー
ズンオフ中にどうもモチベーションが下がってしまってなかなか続かなかったというのもあります。一度下がるとなかなか書きづらいんですよね…
 ちなみにこのSSは一部行動順番が入れ替わっています。この方が落としやすかったです、摂政さん。





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