安房峠道路


安房峠道路平湯料金所。北アルプスが背後に望める。

路線名 中部縦貫自動車道国道158号線
有料道路区間 岐阜県高山市〜長野県松本市
安房トンネル総延長 4370m
供用開始日 1997年12月6日
事業費 860億円
料金 普通車  750円
中型車  900円
大型車 1250円
特大車 2050円
軽自動車 600円
【歴史】
飛騨と信州を結ぶ交通は、永らく難渋を極めておりました。
特に高山市と松本市を結ぶ国道158号安房峠は、対向車とのすれ違いもままならないような、
極めて狭くカーブの連続する峠のうえ、冬季は厚い雪の中に埋もれて通行が不能となり、
交通は寸断されていました。
そこで1964年、日本道路公団による安房峠の現地調査が始まり、
世界でも類をみない、活火山の下にトンネルを貫通させるという、世紀の難工事がスタートしました。
1967年からは、13年間に渡ってボーリング調査が実施されると、
1980年には長野県中ノ湯側から、1983年には岐阜県平湯側からの調査坑の掘削が開始されました。
中ノ湯側の高熱帯・火山性ガス区間、平湯側の熱水帯区間、そして平湯側の低速度帯、
という3つも難関をが待ちうけていた調査坑の掘削は、
さまざまな難題に直面しながらすこしずつ掘り進めていきました。
1989年、安房峠道路は高規格幹線道路「中部縦貫自動車道路」の一部として格上げされると、
同年10月に調査坑の貫通を待たずして、ついに本坑の掘削を開始、91年には調査坑が貫通しました。
ところが同年、1998年長野オリンピックの開催が決定したため、
「オリンピック開催までに安房トンネルの開通を」という地元の声が巻き起こりました。
当初は2005年度の開通を見越していた工事は、効率的な行程によって、
2000年にまで工期の予定が短縮していたが、さらなる行程の見直しなどによって、
オリンピック開催までの開通にメドがたとうとしていました。
しかし1995年2月、長野県中ノ湯側の取り付け道路工事の最中に、
火山性ガスを含んだ水蒸気爆発事故が発生、4人の尊い命が奪われました。
その事故を教訓にして、2ヶ月後本坑がついに貫通、
調査開始から33年、着工から17年、860億円の巨額を投じた大プロジェクト安房トンネルは、
1997年(平成9年)12月に完成したのでした。長野五輪の開催まで、あと2ヶ月でした。
安房峠道路の開通によって、それまで峠を越すのにひどい時では5時間もかかっていたところが、
わずか5分で結ばれることになるうえ、通年交通が可能となり、
地域住民に大きな貢献を果たすこととなりました。
【現在の状況や問題点など】
この安房峠道路は現在、1日4000台程度の交通量がある。
安房峠道路開通以前の峠越えの国道ですら、1日3000台程度の交通量があったそうだから、
ちょっと少ない感じがする。
飛騨と信州を結ぶだけでなく、国道471号、41号と経由して富山県の人々にも、
松本への近道として利用が見込まれると思うのだが、
いくらいい道路といっても、1500mもの高地まで登らなければ越えられないとなると、
利用を控えてしまう人もいるからなのだろうか。
それとも、やはり普通車でも750円という高い通行料金が災いしているのだろうか。
中部縦貫自動車道として建設されたため、トンネル内ははまさに高速の設計であり、
非常に快適に走行できるので、もっと利用してほしいと思ってしまう。
もっとも、その中部縦貫自動車道は、現在この安房峠道路以外では、
同じ岐阜県内の東海北陸自動車道から分岐している、油坂峠道路くらいしか開通していないので、
本当の意味での効果を発揮しているとはいえないのかもしれない。
高山清見道路は建設中であるので、いつかは開通するだろう。
この道路が開通すれば、東海北陸自動車道からの車が丹生川村まで高速で乗り入れることが可能になるので、
今まで以上に安房峠道路への注目も高まるだろう。
ま、その丹生川インターから、安房峠道路の平湯までの区間は、建設の見通しが立っていないから、
高山まで高速で繋がるのはいつになるかわからないのだが。
また松本側も、松本波田道路が計画されているが、わずか波田インターまでの一区間では、
なんとも物足りないし効果も薄い。
この松本と中ノ湯までの区間が開通するのは、果たしていつのことだろうか。
将来は、今以上の交通量があることを、切に願うのみである。
なお、通行料が高いと思っている人も少なからずいるだろうが、
4000mを越すトンネルがあるのだから、私はこの料金は妥当であると思っている。
もっともこの料金設定でも、860億円などという事業費は、とうてい償還できないと思ってしまうが。

今回は、長野県側から岐阜県に向かって走行してみた。
国道158号線を松本から登っていくと、上高地へ向かう釜トンネルとの交差点をむかえる。
この交差点を過ぎると、ほぼ180度のカーブを経て、やがて安房峠越えの従来の158号線が分岐し、
安房峠道路が始まる。すぐに安房トンネルに差し掛かる。
トンネルは、4370m。内部は完全な高速道路の作りであり、道路公社の作ったトンネルとは明らかに違う。
とにかく広い。今まで登ってきた道とは比べ物にならないほど走行しやすく、
初めてここを通る人は驚くのではなかろうか。
中間点付近で、長野県と岐阜県の県境をまたいで岐阜県に突入する。


安房トンネル内部

トンネルを抜けると、下りに差し掛かる。
するとさらに湯ノ平トンネルが現れる。長さは380mなので、あっという間だが。


安房トンネル中湯側

湯ノ平トンネル料金所側

湯ノ平トンネルを抜けると、そこはもう安房峠道路中湯料金所である。
ここの料金所は、機械式になっている。
私はあまり機械式は好きではない。さすがに一度に車が連なってきた場合、
料金所渋滞が起こるかもしれない。
料金所の横には、日本道路公団の建物に併設して、トイレも設置されている。
その反対側には、数百台駐車可能のスペースも用意されていて、
そこからは北アルプスの見事な眺望を見ることができる。


料金所横の駐車スペースからの北アルプス

料金所を過ぎると、交差点に接続して有料道路は終了する。
右折は安房峠越えの従来の158号線、直進は国道471号線で神岡町を経由して富山方面へ、
左折がそのまま国道158号線が続き、平湯トンネルを経て高山市へと下っている。
今回は、その158号線から、安房峠道路の青看板を撮影して終わった。

【感想】
従来の安房峠越えの国道が通れる季節には、
高い通行料をケチるために有料道路を通らない車があるそうだが、
このとてつもない過酷な道路建設の歴史を知った私は、
「750円くらいケチらないで、通ってあげましょうよ」と言ってあげたい。
もうこれは、プロジェクトXですよ。ホント感動してしまいましたよ、私は。
上の歴史はかなり端折っているので、詳細な工事秘話を知りたい方は、ぜひ検索してみることをおすすめする。
私も初めて通った時には、この道路の歴史を知らなかったため、
「こんな山奥によくこんないいトンネルを作ったなぁ〜」
とは思ったものの、それ以上の感慨はなかったのだが、
今度通行する機会があったら、建設した人々の苦労を偲びながら、
この道路のありがたみをかみしめて走行したいと思う。

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