ひとりおもふ
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きたくらぶニューフォト

 さいはての地、稚内へ来て1年が経った。
 気分的には、あっという間の1年だったのかもしれない。

 冬の過酷さを除けば、気温が以外と気持ち良いくらいの数値なので、よくよく考えれば、こんなに過ごしやすいところはないと思う。
 
本州にお住まいの方々から見ればうらやましがられるかもしれないが、逆に暑さが恋しくなるという、まことに贅沢な感傷に浸ることもできる。

 12年前の2年間、北海道の東の果てにある「根室」で単身生活を送ったことがあったが、稚内は根室とは全然比べものにならないほど「都会」である。
 これは、おそらく「開発建設部」の存在が大きいと思う。
 そう、今、国家公務員削減のターゲットとされる「北海道開発局」のことである。

 市のデータによれば、稚内市の人口は、昭和40年前後で約5万8千人、昭和50年代で約5万人となっており、現在は約4万2千人と減少が続いている。

 市の基盤産業は従来から漁業であり、その漁業従事者が200カイリで行き場を失い、加えて、国鉄が分割民営されたことによる新会社「JR」の規模縮小等の理由により、人口が減少したとも言われている。

 これに、「稚内開発建設部」の縮小あるいは撤退と、北海道の出先である「宗谷支庁」の縮小あるいは撤退ということが将来的に発生すれば、市の人口は3万人前半から一気に3万人を割ることになるかもしれない。

 仮にもしこれが現実となれば、水産業界の落ち込みが著しい現状では、市の基盤産業が酪農しかなくなるので、マチの存亡自体が危うくなるのではないかといった懸念さえ発生してくる。

 「嫁に行くなら開発さんへ」というのが若い女性たちの合言葉らしいが・・・。

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 このマチの基盤産業は「漁業」なのに、不思議なことに「鮮魚店」が少ない気がする。
 大型スーパーと観光客相手の「冷凍魚」を扱う店にはそれらしいものがあるが、例えば「朝市」とかそういった施設がないのも寂しい。

 「稚内は、タコとホッケとホタテしかないから、しかたないべさ。」

と、言われればそれまでかもしれないが、やはり「朝市」くらいあってもいいような気がする。

 市民のなかには我々のような「よそ者」(転勤族)がけっこう住んでいて、過去に住んでいたマチには朝市のような「庶民の台所」みたいな施設があったと思うので、そういったニーズに耳を傾けてほしいのだが。

 前述の観光客相手の「冷凍魚」を扱う店は、今年の2月ころにリニューアルオープンし、5月からの観光シーズンにあわせて観光客を乗せた大型バスが駐車するようになり、かなりの盛況ぶりである。

 「よそ者」を含め、この店に魚介類を買い求める地元客もけっこういるし、それを見込んで、ときどき「チラシ」(折込広告)が新聞に入ってくることがある。

 相模原に住む女房殿と大学生の娘へ、この店で品定めした「北海道の味」を宅配便を利用してときどき送ることがあり、全て「冷凍もの」であるものの、猿払産の天然ホタテの貝柱(「玉冷」と言います)といくら醤油漬け、それにサケの半身やホッケの開きなどはかかせない。

 また、この店の周辺には、来年4月に温泉施設と土産品店、それとラーメン店などの飲食店が並ぶ「稚内シーグランド」が完成するということで、既存のガラス工芸店を含めて、観光地らしい一角がオープンすることになる。

たしかに今までそういった観光客向けの施設がなかったことも寂しいかぎりだが、さいはて観光に乗り遅れまいとする市と共同出資する民間活力に期待したい。

 最近、地元紙でこんな記事を目にした。
 老舗が並ぶアーケード街で露天やゲームなどのイベントを実施したら、約1万人の人出があったとのこと。市の人口が約4万2千人だから、これは驚異的な数字である。およそ4人に1人がイベントに足を運んだという勘定になる。
 裏を返せば、イベントに飢えた市民が多いということの表れであろう。

 たしかにそういう市民が集まるような場所がほとんどない。あるとすれば、市営の「童夢(どうむ)温泉」と去年秋にオープンした札幌資本のスーパーとホームセンターとドラッグストアとファーストフードなどが集まった郊外型ショッピング街くらいであろう。

 故に、前述の「稚内シーグランド」には観光客のみならず、市民の多くが期待を寄せているだろうから、開業と同時に多くの人出が見込まれるものと思われる。

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 『稚内には、「名物」というものがあまりないんだ。しいて言えば「たこしゃぶ」くらいかなあ。こっちの食べ物のほうが絶対うまいよ。』

 幌延(ほろのべ)町へ「ブルーポピー」を観に行った帰りに、豊富町にあるふれあい温泉センターへ立ち寄った。
 
そのとき、湯舟で知り合ったご老人がそう話してくれた。その方はなんと驚くなかれ「函館出身」だった。

 『函館は「いか」が名物で、全国的に有名になっている。豊富だと酪農が有名だし。だけど、稚内にはなにがあると思う? ないんだよなあ。あそこはもともと漁師マチなんだから、タコやホッケ、それにタラを名産にして宣伝していればよかったのになあ。今さらホタテって言ったって「猿払」や「サロマ湖」が有名だし、カニはロシア産だし、利尻昆布・・・。完全に、時代に乗り遅れたんだよ。』

 「時代に乗り遅れた」

 僕もそう思う。今からでも遅くないとは思うけど、確実に乗り遅れている。だから、どこでも捕れる水産物を他のマチに名産品として先行され、そして「ブランド」が確立されてしまった。

 逆に言えば、タコかタラを大PRすればいいと思う。
 
稚内の名産品として、本州方面のデパートなどで開催される「北海道物産展」へ積極的に出展すればいい。乗り遅れたのであれば、時間を短縮するなど努力して取り返せばいい。

 本州の人たちが、「やっぱりタコは稚内のものが一番」とか、「稚内のタラのチャンチャン焼きは絶品だ」と口コミしてくれればいい。

 余談になるが、根室名物「こまいの一夜干し」は転勤族が札幌などへ戻って口コミで伝わり、それが居酒屋メニューに、あるいはスーパーなどの店頭に並んだと言われ、今では北海道のいたるところで販売されているほどメジャーとなった。

 市内の宿泊施設も、夕食は稚内名産をメインに出してくれればいい。
 できることからはじめてみればいいと思う。

 また、市などもサハリンばかりに目を向けるのではなく、利尻・礼文・サロベツ国立公園のホスト都市として観光資源を掘り起こしてほしいと思っている。

 かつての水産都市「函館」が観光都市として再生していったように、モデルとなるマチはたくさんあると思う。

 貪欲に知識を吸収して、稚内を再生していけるようにまず観光となる土台を確立していってほしいと願っている。