ひとりおもふ
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きたくらぶニューフォト

 1年越しの恋人を待つという心境とでも言うのだろうか。

 「幻のブルーポピー」の存在を知って、厳しい冬を越し、遅い春がすぎ、そして、さいはては初夏を迎えたが、その間、ひとときもその名前を忘れることはなかった。

 『ブルーポピーですか、咲き始めましたよ。見ごろは、これから7月初旬あたりまででしょうか。』

 電話越しでそう聞いたとき、僕の鼓動は高鳴った。そして、この花は気温が25℃を超えたら枯れるとの予備知識もあったので、今週中に観に行こうと即決した。

 週末から暑くなるとの天気予報が出されていた。
 最近の天気予報は、かなりの確率で当たる。
 下手をしたら、週末までに枯れるかもしれない。
 本気でそう思った。
 だから、仕事を休むことにした。

 「西暦2006年6月28日」

そして、とうとう、その「対面する」日がやってきた。

 その日、稚内は今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲に覆われていた。
 国道40号線を南下し、豊富町へ入るころには予想どおり雨が降り出した。
 引き返そうと思ったが、とりあえず行くだけ行ってみることにした。

豊富温泉街を過ぎて、幌延町に入ると、雨は小雨となり、そして、止んだ。

「ヒマラヤの妖精、幻のブルーポピー」

その青い花たちを眼前にしたとき、僕はその可憐さにしばし立ちつくしてしまった。

こんなに青い花びらをつけた花を今まで見たことがなかったし、加えて、雨上がりだったので、雨の水滴で濡れていたのがなおさらその美しさに拍車をかけた。

この花びらの青さをどういうふうにたとえたらいいのだろうか。

例えばそれを「神秘的」と表現すれば、じゃあ「神秘的」ってどういうたとえなんだろうかと聞かれるだろう。極端な表現をすれば、今まで見たこともない青い色の花びらなのだから、幻想的あるいは空想の中での色と言ったほうがいいのだろうか。

 触れると、その青さが変色してしまいそうな、あるいは枯れてしまいそうな、そんな非常にデリケートな花かもしれないと勝手に思い込んでしまうほどだ。

 さらに、雨の水滴で濡れた分、みずみずしい印象を与えてくれた。

 写真愛好家の職場の先輩から、こう言われた。

『花は水滴がついたのが絵になる。キミのあの「旧イギリス領事館のバラ」はみずみずしくていい被写体だよ。』

 花の写真は、雨上がりに撮るのが一番いいそうだ。

 礼文のときも利尻富士が奇跡的に見えて、被写体としてカメラに収めることが出来たが、この雨上がりというロケーションも奇跡的なことであったにちがいない。

 この想定外の気象現象は、僕が「ツキ」に恵まれているのか、それとも神様が授けてくださったものなのか。僕は、おそらく後者だろうと直感的にそう思った。

 いずれにしても、幻のブルーポピーは、実際に自分の眼で見ることをお勧めする。

 その妖しい青の花びらを、ほほにすり寄せてしまいたいほど魅力的であることは間違いない。

 僕が「対面」したときは、サクラで言えば6分咲きという感じだそうで、これが満開であるピーク時には、500本くらいが一気に開花するそうである。

 でも、500本だと、「幻」という看板はおろしたほうがいいようなそんな気もするが、初夏の感動をありがとう! 「青い妖精たち」。