代表の選手たちは全力を尽くして第三戦に挑んだが、優勝候補筆頭のブラジルは、やはり強かった。
選手たちはニッポン国民の声援を感じたのだろうか、劣勢との予想どおりほぼディフェンスにあけくれる戦いぶりだったにもかかわらず、選手のプレーひとつひとつに気迫というものを感じさせてくれた。
特に、GKヨシカツの度重なる「ゴッドハンド」にもう感動してしまって、テレビ観戦しているうちに涙があふれでてきた。
また、試合の内容が信じられなかった。本当に相手はブラジルなんだよなあ。いつまでこのファイティングスピリッツが持続できるんだろうか。そう思った。
冷静さを見失いながら、テレビに釘付け状態が続いた。
(朝でなかったら、冷蔵庫の缶ビールに手が伸びていたのに)
そして、FW玉田の思い切りシュートがゴールネットにつきささった瞬間、思わずテレビに向かって両手を掲げガッツポーズをしてしまった。
いける! これはいけるよ! ブラジルなんか粉砕してしまえ!
スタンド観戦のサポーターも、早朝の眠い目をこすりながらのテレビ観戦のサポーターも、おじちゃん、おばちゃんも、そしてミーハーの「にわか」ファンも、もう誰でもいい! ニッポン国民はみんなそう思っていただろう。
しかし、ブラジルは強かった。
1−0で前半をとりあえず終了してくれと、誰もが思っていたのに・・・。
オー、マイ・ガッド! ロナウド・・・のヘッドが決まってしまった。
ロナウジーニョにディフェンスが引きつけられて、ロナウドへのマークがずれた瞬間のスキンヘッド・・・。さすがだと思った。
そして、前半が終了した。
僕は、この時点で、2点差で勝ってくれとは思わなくなっていた。
とにかく勝ってくれ! それだけだった。
実は、決勝トーナメント進出のことは、クロアチア戦終了後に僕はすでにあきらめていた。
天下のブラジルに2点差以上をつけて勝利できるわけがない。
仮に、ブラジルが1点を得点したとしても、それでは3−1以上で勝たなくてはならない。これは、ほとんど絶望に近い想定だ。
まして、オーストラリアとクロアチアが引き分け、もしくはクロアチアが勝利しなければならないという前提がついての話だ。
だから、初戦のオーストラリアに3点も取られて負けたことが、今になってボディブローのようにジワジワと効いてきたのだ。
「そんなことないって。絶対にニッポンがブラジルを破って、トーナメントへ進出するんだって、そう信じようよ。可能性がわずかだとしても、そう信じようよ。」
クロアチアに0−0と引き分けた直後に、湘南マリリンさんはそうやって僕にメールを送ってくれた。
彼女のサッカーに対する純粋な考えに頭の下がる想いを今までに何度しただろう。
だから、1点差でもいい、とにかく勝ってくれ!
僕はそう祈った。
後半に入ると、ディフェンスばかりで疲労が見え始めてきたニッポンに、ブラジルが怒涛の攻めを展開するようになった。地力という最大の武器を手にして。
悪夢の無回転ロングシュートが決まって1−2と逆転されると、ニッポンは力尽きたように鈍い動きとなっていった。
1点、そして1点と、ブラジルは容赦なく世界王者のパワーとプレーを見せつけた。アジア王者ニッポンの息の根を止めるかのように。
初戦のオーストラリア戦の悪夢がまたよみがえったように静まるニッポン応援スタンド、そして、耐えながらテレビ観戦するニッポン国民。
結局は、1−4で完敗した。
試合終了後、ヒデが涙を流しながらピッチのセンターサークル付近で仰向けになって動かなかった。
その光景を見ていると、自然と涙が出てきた。
一番悔しかったのは選手だったし、そのなかでもヒデだったにちがいない。
ここまでよく選手個々のモチベーションを上げてくれたと思う。
ありがとう! ヒデ。
第二戦で、GKヨシカツがPKを止めたときに抱きついたヒデ。
第三戦で、FW玉田が豪快なシュートを決めたときに抱きついたヒデ。
キミこそ、ミスター・サムライブルーだ!
こうして、4年に一度の夢を見せてもらったことに、僕は感謝する。
4年後までに是非「力」をつけて、決勝トーナメントへ進出してほしい。
それには、また、キミの力が必要だ。
そして、選手が帰国したときは、手をたたいて、
「ごくろうさま」
と、笑顔で迎えてあげたい。
彼らはベストを尽くしたのだから。
ニッポン国民の皆様、そうしましょう!
【追伸】
僕がこの連載エッセイで最初に予想した、
@ オーストラリア 引き分け
A クロアチア 負け
B ブラジル 負け
は、相手がちょっと違ったけど、1分け2敗は命中しちゃったし、その違ったオーストラリアが決勝トーナメントへ進出してしまった。