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ひとりおもふ
宇宙の法則
 甲子園球場で開催される夏の全国高校野球大会に北海道代表は、「北・北海道」「南・北海道」とに分かれて出場する。詳しく書けば、日本海側の留萌から旭川、富良野を通って帯広までのライン以北を「北・北海道」、それ以南を「南・北海道」とに区分けしている。

 つい最近まで北海道勢は1回戦ボーイで、勝ち進んでもせいぜいベスト8止まりであった。例外としては、春の高校野球での昭和39年ころに札幌の古豪「北海高校」が準優勝したという記録が残っているだけで、昔から「雪国のハンデ」とか「暑さに負けた」という言葉が北海道勢敗因の代名詞となっていた。

 そういうことから、対戦相手の本州勢からすれば格好の「お客さん」であり、その試合はもらったということで、対戦する前に早くも次の対戦相手のことが記事になっているという話を聞いたことがある。要するに、北海道勢はもはや眼中にはないということを意味していたのだろう。
 
 だから、当然のように応援側の北海道民からすれば、出場するんだから、せめてひとつは勝ってきて欲しいというシンプルな願いがある程度で、優勝なんて誰も考えたこともなかったし、間違って口にすることもなかった。

 しかし、昨夏、その定説が覆った。深紅の大優勝旗がはじめて津軽海峡を越えたのだ。それも、西東京代表の日大三、神奈川代表の横浜などの強豪を次々と破り、決勝は春の優勝校である愛媛代表の済美に打撃戦の末に打ち勝って・・・。

 甲子園球場では、北海道代表を声援する「判官びいき」の観客で埋め尽くされていたので大興奮状態だったし、優勝の瞬間は北海道のいたるところでもちろん大熱狂となったことはいうまでもない。

 570万道民の本音は、
 「北海道だも、まさか、優勝できるはずがないべさ。」
だったろうし、夢を見ているのだと思ったにちがいない。

 僕も北海道勢の初優勝は勝った勢いでのフロックだと思っていた。
 が、野球評論家はこぞって猛練習の成果だと分析した。冷静に考えてみれば、たしかにそうかもしれない。東京や神奈川代表にまぐれで続けて勝てるわけがなく、まして、春の優勝校にまで打ち勝ってしまうわけがない。

 優勝の瞬間、選手がマウンド付近に集まって、いっせいに人差し指を青空へ突き出した。北海道勢が今まで味わってきた屈辱の数々を払い去るかのようなすばらしくて涙の出る光景だった。

 地元苫小牧では、決勝戦の間、街が閑散としていたそうだ。
 もちろん、苫小牧出身の女房もテレビに釘付け状態で、例外にもれず発狂していた。

 こうして、深紅の大優勝旗は「白河の関」どころか、みちのくを一気に跳び越えて津軽海峡を渡った。

 優勝パレードが地元苫小牧で行われるのかと期待したが、高校生ということでパレードは自粛、変わりに北海道知事への優勝報告会が札幌にある道庁前で行われた。

 JR苫小牧駅のコンコースに選手一人一人のポスターが掲示され、携帯で記念撮影する市民であふれた。一番人気は、キャプテンの佐々木君だったそうだ。北海道新聞社が発行した甲子園での写真集が爆発的に売れた。購入層は、主婦が中心だったそうだ。余談ではあるが。

 あの感動から1年経ち、今夏、駒大苫小牧は57年ぶりの連覇という偉業を成し遂げ、深紅の大優勝旗は再び津軽海峡を越えた。

 対戦相手には失礼だが、2回戦(宮崎:聖ウルスラ)、3回戦(山梨:日本航空)は「横綱相撲」のような戦いであり、安心して観戦することができた。しかし、準々決勝の鳴門工戦では7回まで1−6と敗戦濃厚で、もはやこれまでと北海道民だれもが思っていただろう。しかし、奇跡は起きた。
 相手遊撃手の致命的エラーで流れが変わり、結果は7−6の逆転勝ちとなった。もし、ここで駒大苫小牧が負けていたら、おそらくは鳴門工か大阪桐蔭のいずれかが優勝していただろう。

 その大阪桐蔭との準決勝は事実上の決勝戦ということで、北海道民は気合いが入ったことだろう。相手はPLなどの強豪がひしめく大阪代表である。大阪は神奈川と同じ激戦区であり、個人的には2校代表でもいいのでは思う県でもある。いくら常勝の駒大苫小牧とはいえ、投打に超高校生級を擁する大阪桐蔭には勝ち目はないだろうというのが大方の見方であった。

 序盤で5−0と駒大苫小牧リードの試合展開となったのだが、なんせ相手は大阪代表である。このまますんなりと終わるはずがない。北海道民としては、1点でも2点でも積み重ねっていってほしいと願ったにちがいなかったが、なかなか追加点が取れない。いやな予感がした。

 大阪桐蔭の反撃がはじまり、5点差はまたたくまに縮まっていった。そして、終盤にとうとう追いつかれて、恐怖の延長へと突入した。勢いは追いついた大阪桐蔭にあり、俄然有利な状況となった。が、先に1点を取ったのは駒大苫小牧だった。その1点リードを守りきり、北海道勢としては初めて大阪勢に勝利したのである。

 北海道勢が大阪勢に勝ったということも歴史的快挙である。それも今大会優勝候補の筆頭にである。北海道中が大騒ぎとなった。2年連続の決勝進出は、あの清原・桑田を擁したPL以来とのこと。だからというわけではないが、あのPLでさえ達成できなかった連覇ができるはずがないし、連覇は57年ぶりの快挙だということから、そんな恐れ多いことを北海道勢が達成したら「バチ」があたるので、準優勝でいいと北海道民は誰もが思った。

 結果は、京都外大西には失礼だが、「横綱相撲」で優勝した。おまけに歴史に残る57年ぶりの連覇という快挙とともに。

 僕はその優勝の瞬間を、札幌は大通公園付近の「後楽園ホテル」横に路駐して、女房とカーテレビで見ていた。ちょうど夏休みで、稚内から苫小牧へ移動している最中であり、札幌での用を娘が済ませるまで決勝の模様をカーテレビで観戦していたのである。

 優勝の瞬間、選手がマウンド付近に集まって、いっせいに人差し指を青空へ突き出した。去年と同じ光景であった。

 深紅の大優勝旗を苫小牧から甲子園へ選手全員で返還し、連覇して再び苫小牧へ持ち帰ってきた。ほんとうにすばらしいの一言につきる。

 そのあとのゴタゴタ騒動にはあえてふれないが、この連覇のために甲子園で敗れ去っていった各高のこれからの「打倒駒大苫小牧」に決して臆することなく、ゴタゴタ騒動を払拭するために、是非、来夏も勝ち進んでもらいたいと願っている。めざせ、3連覇!