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ひとりおもふ
宇宙の法則
 ジンギスカンブームだそうである。
 
ジンギスカンと言っても「蒙古」のことではなく、羊肉を焼いて食べるジンギスカン料理のことである。

 北海道では、昭和30年代後半から広まっていき、代表的な北海道料理のひとつとして定着しているが、原料である「羊肉」が独特の臭みがあることから、タレに工夫を凝らして食べやすいようにしている。

 ジンギスカンの由来は、その鉄鍋のかたちがジンギスカンがかぶる「鉄かぶと」に似ていたことから北海道人が勝手に命名したものとされているので、モンゴルの固有料理ではないようである。僕がものごころついた昭和40年代には、「マトン」と呼ばれる成長した羊の肉を焼いていたのでかなり臭くて硬いという食感が残っているが、その後、子羊の肉である柔らかくて臭みがあまりない「ラム」を使うようになってから、料理の幅が広がったようである。現在では、保存技術が進歩して、「チルドラム」つまり「生ラム」が主流となり、例の牛肉のBSEや鳥インフルエンザ等で脚光を浴び、加えてダイエットや健康に効果があるとかで全国的にブームとなった。

 ジンギスカンは、ラム肉を焼いてからタレをつけて食べるものと、あらかじめタレで味付けしたラム肉を焼いて食べるものとがある。どちらがおいしいかといわれると非常に困ってしまうが、それは好みによると言うしかない。ただ、味付けの場合は、大手食品メーカーものと地元メーカーものとがあり、値段的には前者が圧倒的に安いので、手ごろに家庭で食べるができる。後者は、例えば「松尾ジンギスカン」「長沼ジンギスカン」「あづまジンギスカン」などがあり、値段的には割高であるものの、実にうまい。特に、「松尾ジンギスカン」は北海道内いたるところに専門店があるため、かなりポピュラーとなっている。さらにネット販売もしているので、わざわざ北海道へ足を運ばなくても、取り寄せのうえ、その味を確かめることができる。世の中、かなり楽になったものである。

 本州からの観光客が必ず立ち寄る名所としては、札幌市内の「サッポロビール園」が代表的であろう。「○○ビール園」では、味付けしていないタレをつけて食べるものがほとんどであり、2時間の時間制限があるものの、ジンギスカン食べ放題とビール飲み放題がセットになっている。
 「サッポロビール園」は、最近は訪れる機会はないものの、札幌在住のころは定期的に足を運んでいた。ここには、その食べ・飲み放題のコースと単品料理プラス飲み放題がつくコースとがあり、家族で訪れる場合は単品料理コースをいつも利用していた。単品料理としては、「ラム肉のたたき」「サケのチャンチャン焼き」「ソーセージ盛り合わせ」「ラーメンサラダ」などなどで、ジンギスカンのメニューはなく、ジンギスカンを食べたい客は、その専門のコーナーを利用することになっていたが、今はどうなっているか定かでない。

 北海道ではお花見やキャンプなど屋外でワイワイやるときの定番はジンギスカンであり、とにかくジンギスカンがないと盛り上がりに欠けてしまうことが多い。本州であれば、これがバーベキューになるのであろう。

 逸話がある。

 五稜郭公園での恒例の職場花見大会のことである。僕は都合悪く参加できなかったのが幸いだった。
 幹事の秋田県と岩手県出身の2人は、ジンギスカン材料買出しにスーパーへ行った。が、ジンギスカンというものがどんな肉を材料とするのか、全く把握していなかった。東北も本州であり、当然、ジンギスカンを食べる習慣はない。
 タレは、北海道ではポピュラーの「ベルの成吉恩汁(ジンギスカン)のたれ」で正解だったが、なんと、肉は「豚肉」だった。豚肉も羊肉も見栄えにそう変わりはない。が、焼くとすぐにわかる。
 「いただきま〜す。」「あれ、この肉、なんか違うんでないかい?」「これ、ラム?」「うえ〜、これブタじゃん!」
 結果は悲惨そのもの。多くは語るまい。

 屋外でのジンギスカンは、昔は炭をおこしてから「鉄かぶと」のような鍋でジュージュー焼いて食べていたが、今はカセットコンロにアルミ仕様の使い捨て鍋である。「鉄かぶと」鍋だと重いし、使用後の鍋洗いが面倒なので、屋外ではほとんど見かけることがなくなった。まして、家のなかで食べる場合は「ホットプレート」となる。

 北海道人としては、ジンギスカンが全国的にポピュラーとなり、浸透していくのは歓迎すべきことであるが、つい最近の「もつ鍋」のようにブームが去り、「あれっ、もつ鍋って最近見かけなくなったよね。」と同じ道を歩んでほしくない。が、羊肉のほとんどは、オーストラリアやニュージーランドからの輸入品であり、ブーム到来で価格が高くなってしまえば意味がなくなる。ジンギスカンは安くておいしいというイメージがあるからこそ北海道人にはかかせない郷土料理なのであるから、需要と供給のバランスが崩れて、その結果となる値上がりだけは避けてほしいと願っている。

 ジンギスカンのことをこうして書いていると、無性にビール片手に食べたくなってきた。今夜はジンギスカンにしよう。

 I LOVE HOKKAIDO。