トップ 随想トップ
ひとりおもふ
宇宙の法則
 CD(コンパクト・ディスク)が急激に普及して、あっという間にドーナツ盤は店頭から姿を消した。それと同じことが最近、またあった。
 MD(ミニ・ディスク)が普及して、カセットテープが姿を消した。そして、DVDが普及し、ビデオテープの存続がもはや時間の問題となっている。

 「統一規格」という言葉もあった。いわゆる「VHS対ベータ」「8mm対VHSコンパクト」の戦争であり、DVDレコーダーも「松下対パイオニア」の争いが続き、次世代DVDも戦争突入かと思われたが、ソニー・松下陣営と東芝が歩み寄り、「統一規格」として話し合いをすすめていたが、これも例外にもれず、その歩み寄りは決裂したと報道された。
 
レコードといえば、私の世代は33回転(LP)と45回転(EP)とが主流であったが、ひと昔は「SP」盤という78回転もあったそうで、父が大事にしていた「松山恵子」「春日八郎」「三橋美智也」などのジャケットを思い出す。また、母から聞いた話では、第二次大戦中は「ビクターの赤盤」をもっていると「非国民」と言われ、憲兵に取り上げられたとのこと。故に母は、赤盤があることを絶対に言わずに、夜、音を小さくして密かにクラシック音楽を聴いていたという。その父も母もすでに他界してしまったので、両親が大切にしていたその思い出のレコードがその後どうなったのかは全くわからない。

 レコードを聴くにはプレイヤーが必要であることは言うまでもない。が、我が家にはそのプレイヤーがなくなってしまったため、長きにわたって購入し続けたレコードは物置の隅の木箱に収納されまま、陽の目を見ることもなく深い眠りについている。
 
今から3・4年前に、女房殿から整理するよう最後通告を受けたことがあって、そのときはほんとに想い出がつまったレコードだけを残して、約3分の2を泣く泣くゴミにした。それでも30枚以上は残っただろう。もう聴くこともないのだから、すべてを捨ててしまえばよかったのだろうが、でも、どうしても捨てきれなかった。女房殿には、僕が死んだときは棺おけにこの残したレコードを詰めて、僕といっしょに焼いてくれと頼んだ。彼女は「レコードは燃えないゴミだから、それは無理ね。」と一蹴した。

 コンポーネントがレコードからCD主体となり、音楽好きの苦難の道がはじまった。CD化されたアルバムは購入できるのだが、マニアック的なアルバムは廃盤となってしまったので入手が困難となった。それらはかろうじてカセットテープに収録されているのだが、今度はそのカセットテープもなくなってしまった。それで、カセットテープからMDへのダビング作業が続いたのだが、そのうち、そのふりまわされている自分の姿がいやになり、とうとうやめてしまった。

 休みになると、女房殿の買い物につき合わされるが、大型店にはCDショップがあり、よく立ち寄っていたが、自分が欲しいというCDは並べられていない。若いころに聴いたあのアルバムはあるだろうかと探すのだが、結局は無駄な宝探しであった。

 そういう無駄な時間を費やしていたある日、ネットで知り合った方からCDはインターネットを通じて購入できるということを教えていただいた。目からウロコが落ちた。早速、そのサイトへ直行した。「HMV」「AMAZON」のサイトには、僕がノドから手が出るほど欲しかったアルバムがリストにこれでもかというくらい掲載されていた。毎月の小遣いがいっぺんに費やされた。

 宅配便で届けられる日が待ち遠しかった。旧友に再会するようなうれしさという表現がピッタリであろうか。年月が経過するにつれて、僕のCDライブラリーは膨らんでいった。CDショップには並べられていないアルバムも簡単に入手することができた。しかし、また異変が起きた。それも1年も経たないうちに。

 パソコンでCDがコピーできる時代へと今度は移り変わっていたのだった。

 CDには著作権上、コピーガードというものが組まれていることは知っていた。しかし、今のパソコンにはCDをコピーできるソフトがあらかじめインストールされていて、どういうわけかコピーできるのである。友人の説明では、販売目的は違法だが、個人で聴くものについては昔のカセットテープへのダビングと変わらないということらしい。そして、最近のアルバムにはコピーガードが施されていないとのこと。さらに驚いたことには、市販されている「音楽専用CD−R」には既に著作権料が含まれているということだった。ほんとかどうかは定かでないが、そう言えば「音楽専用CD−R」は通常の「データ収録用CD−R」より高い価格で市販されている。でも、自分で聴くのなら、別に「音楽専用CD−R」で録音するより、「データ収録用CD−R」で十分である。CDケースは「100円ショップ」で4枚100円で購入すれば足りる。

 今は、レンタルCDで好きなアルバムを「当日返し」で借りて、すぐにパソコン本体へ「バックアップ」してから「データ収録用CD−R」に焼き付ける作業をしている。レンタルCDでは「99円」のときがあるので、そのときに借りれば10枚借りても1,000円でおつりがくるし、「データ収録用CD−R」はセールで50枚1,200円のときがある。1枚100円ちょっとでCD化できるのである。便利な時代となった。

 が、しかしである。好きなアルバムをCDに焼き付けて聴くことができるという時代とは言え、気分の問題が発生する。要するに、それはオリジナルCDではなく単なるコピーCDなのである、という現実がいいかどうかという考えである。昔のレコードのように価値が付随しているのだろうか。別にカセットテープのようなものだから、そこまで気にすることもないでしょうがと言われればそれで終わりなのだが。

 10年後は、どうなっているのだろうか。そのころもまた音楽好きは、再生機器の変化に対応を余儀なくされているのだろうか。サイクルが短くなっていくにつれ、聴く側も大変な時代となっているようである。