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ひとりおもふ
続・煙草のけむり
 スカパー(「スカイパーフェクトTV」の略で、有料衛星放送のこと)を観るようになってから、僕の暮らしがかなり変わったし、ある意味で充実している。

 
地上波テレビを観るのは、月曜から金曜朝のテレビ朝日のニュース番組と日曜朝のTBS「サンデーモーニング」、それにフジテレビ「笑っていいとも増刊号」くらいであり、その他の民放やNHKはまったくといっていいほど観ることがなくなってしまった。

 
その日の事件や出来事などは朝刊で十分だし、詳しく知りたければネットで確かめることができるので、不自由はしていないと思う。

 
一日24時間あって、仕事に割く時間と睡眠時間以外は自分のために過ごしたいという単身生活の典型的なライフスタイルのなかで、僕の場合は「スカパー」がツールの大きなひとつとなってしまった。

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 週末の午後、僕は市内にあるトレーニングジムへ汗を流しに行く。
 
血液がA型のためか、その血液型の典型的な性格として時間どおりの規則正しい生活が大原則であり、ジムへ行く時間帯も12:00−15:00の間と決めていた。

 
しかしである。
 
スカパーで「Jリーグセット」を契約し、Jリーグが3月開幕となってからは我がコンサドーレ札幌の試合が毎週土曜日に生放送されるので、日課であるトレーニングが試合開始時刻に左右されるという現象が生じることとなった。

 
J2の試合開始はおよそ14:00が相場であるが、時には15:00、あるいは13:00ということもある。
 
14:00や15:00であれば、11:00くらいからトレーニングを始めれば試合開始時刻にはテレビ前に座れるのだが、13:00だと10:00からトレーニングを始めなくてはならない状況となる。

 
13:00の試合であれば、それが終了する15:00以降にでもジムへ行けばいいのではないかという考えもあるが、勝ち試合であればともかく、負け試合だったらモチベーションが最低となり、トレーニングに「身」が入らなくなる恐れがある。

 
おまけに単身生活なので、Jリーグが開幕する前の土曜は午前中に掃除・洗濯・食料等の買出しをしていたが、それができなくなったため、日曜の午前中へとシフトせざるを得なくなった。

 
が、日曜も予定が入ってしまうと、金曜に帰宅してから掃除・洗濯をするはめになってしまうこともある。

 
Jリーグの、それも愛するコンサドーレ札幌をスカパーで生観戦するために、週末の規則正しいスケジュールがすっかり変化してしまった。

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 スカパーではサッカーも観るが、それは土曜・日曜に集中する。
 
したがって、平日夜の時間帯は、映画鑑賞で「釘付け」となる。

 
4月に入って、映画「世界の中心で愛をさけぶ」が放送された。小説で読んだがあまりおもしろいとは思わなかったので、映画もテレビドラマも観なかった。が、この映画で、主演の長澤まさみと森山未来にはすっかり泣かされてしまった。ラストの柴咲コウにも泣かされたけど、特に長澤まさみのテープからのせつない声が流れると、おじさんはもうボロボロ泣いてしまった。4月中は結構放送されたので、2〜3回は観た。そのたびにボロボロ泣いた。

 
「世界の・・・」のように話題となった映画が放送されることもあるが、劇場では上映されないような「興行性のない」「地味な」秀作映画もかなり放送されるので、僕はそれを観るのを楽しみにしている。

 
「ジョイ・ラック・クラブ」(アメリカ)、「初恋のきた道」(中国)は首都圏では劇場上映されたのだろうが、北海道では札幌で上映されたかどうかの映画であろうが、両方ともこころに残る映画だった。

 
「ジョイ・・・」は、日中戦争でアメリカへ移住した中国人女性4名とその娘たちを描いた秀作であり、中国からの逃避中に捨てざるを得なかった双子の乳児姉妹が生存しているということを知ったアメリカで生まれ育ったその妹が、亡き母の代わりとなって中国へ渡航し再会するラストは、それまで抑えていた感動とともにおじさんはもうボロボロ泣いてしまったのだよ。

 
「初恋の・・・」は、今や中国のNO1女優チャン・ツィイーがデビューした作品で、「ASIANCE」というシャンプーのCMに出てくる長い黒髪の女性と言えば思い浮かぶだろうか。

 
1999年作品で、日本ではおなじみのベルリン映画祭銀熊賞を受賞している秀作で、設定18歳の彼女のあどけない顔やしぐさがこれでもかこれでもかと思うくらいアップで描かれていて、そのかわいい顔がおじさんの胸にグッとくるのだ。「ああ、野麦峠」の大竹しのぶより断然かわいい。

 
中国映画ってあまり観たことがないのだが、この映画は単純なストーリーではあるものの、風景描写が実に美しく、それにピンク色の服を着た彼女が映えるのだから印象がすごく残ったし、ラストのほうでの再会までのシーンは実に胸がしめつけられる想いだった。

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スカパーでは、他にも劇場上映されなかったと思われるような「興行性のない」「地味な」映画がかなり放送されているのではないかと思う。でも、その内容はすごく素晴らしく、思わずうなずいてしまうような作品ばかりだ。

 
また、テレビCMにまで出てくる話題性のある映画のそのほとんどはハリウッド映画であり、CMではいつものパターンのとおり観終えた客の「泣けました」「感動しました」の決まり文句ばかりである。

 
たしかに秀作の映画もたまには紹介されるだろうが、どちらかと言えば集客が期待できないような映画は紹介すらもなく、ましてやロードショーも珍しいのではないだろうか。

 
何故、こうなってしまったのだろうかと考えてみても、結論はとうに見えている。つまり、映画館も商売なのだから、集客が見込めない話題性のない映画をわざわざロードショーするようなボランティア的な映画館はないだろうということ。

 
でも、それは経済の大原則なのだから、それでしかたないと僕は思う。

 
また、たとえロードショーされなくとも、どんなかたちにせよ「陽の目」を見ることがない名作映画をこうして観ることができるのだから、僕はそれでもいいと思っている。
 
そして、スカパーで毎晩のように名作に触れることができて、ボロボロと涙するおじさんが日本に約1名いるのだから。

 
毎晩のように映画を観ていると、今さらながら、自分が微妙に変化していくのを感じている。

 
映画を通じて、人生とか恋愛とか人間愛とかいろんなことを吸収していた若いころと同じ風に吹かれているような気がするし、一方では、こんなに涙もろかったかなあと、今夜も番組表で映画を探す自分がここにいる。