トップ 随想トップ
ひとりおもふ
宇宙の法則

 インターネットを利用したメール交換や、HP管理人が主宰するBBS、掲示板等(以下「BBS」)がおもしろい。BBSに参加しなくとも、第三者の立場でそのやりとりを見ているだけでも結構世間の勉強になることもあるし、自身の世界が広がっていくような錯覚を感じることもある。

 しかし、20代の年齢層がメインのBBSは、少しばかり敬遠してしまう。というのは、全てではないが、眺めているうちに虚像の世界がそこに見え隠れしているようなやりとりに思えてきて、どうしてもそういう先入観が介在してしまうからだ。

 BBSでは、携帯電話と同じ「絵文字」がそのときの感情として表現されているが、書き込まれる文字だけを読んで、それをくんで想像することはできないものだろうかとも、ふと思うことがある。

 日本語が難解な言語であることは全世界の人々が証明しているように、言葉の使い分けによっては書き手と読み手とのニュアンスが微妙に違ってくる。

 ややもすると、それが原因でケンカをしたりすることも珍しくない。要するに、誤解がそこに生じているということになるのだが、僕自身もこの世に生を受けてから何度も経験していることなので、読み手にはていねいに表現するように努めている。それでくどくなったりすることが珠にあるのだが。

 たしかに「絵文字」というものはわかりやすく、便利であるかもしれない。しかし、人間本来の想像力というものを広げていくうえではいかがなものかと考えてしまう。

 同人雑誌に投稿していた若い頃に、その主宰者から投稿内容についてよくご指導を受けたことがあった。端的な例をあげると。

 「さきごろ投稿された詩に『言葉にあらわせない青い海』とありましたが、青い海をいかに言葉にあらわして読者にイメージさせるかが作者の課題です。その表現と読み手のイメージとが合致してことはじめてその詩が生きるのだと思います。」

 「青い海」のその青さとは一体どんな青さなのだろう。

 僕は当時油絵をかじっていたので、絵の具の色に例えることにしたが、では、絵の具の色を知らない読者はどうするのだろうと逆に考えてしまった。

 「ポリネシアの青さを彷彿させるコバルトブルーの穏やかな海」
 「昔、絵葉書で見たことのある沖縄のエメラルドグリーンの海」
 「油絵で描いたときの、どこまでも澄みきったあのオーシャングリーンの海」

 この3つの海の色をどう想像されるかは読者のイメージに頼らざるを得ないが、書き手と読み手とがイメージする色彩は、おおよそ一致するのではないかと思う。

 さて、40代以上の主婦が深夜にパソコンに向かっている姿が最近多くなっていると、新聞記者をしている知人が話していた。

 彼が言うには、子供に手がかからなくなり、カラオケも飽きてきて、以前から興味を示していたインターネットの世界を経てBBSに参加するようになり、あるいは自分でホームページを開設してBBSの主宰者となり、家族が寝静まる午後11時ころからBBSを始めるそうで、ネオン街から無事ご帰還の亭主が、灯りの消えた居間でモニターの光に反射したその姿を見て、はっとして酔いが覚めたそうである。

 BBSは、日本国内あるいは世界のどこかに住んでいる見知らぬ人との文章式の会話であるが、「ネチケット」と呼ばれる「中傷・誹謗しない」という基本的条件さえ守れば誰でも参加できる。管理人の人柄がトップページに見事に表現されているものや、美しい風景写真で飾られるものなどいろいろなホームページがあって、最初はそのホームページのBBSを眺めたりしているのだが、そのうち参加してしまって「常連」となったりする。

 特に40代以上の方が主宰しているものは、実名で参加する人もいるし、参加者がほとんど嘘偽りのない「ありのまま」の姿で書き込みしてくるものが多い。

 家庭のことや仕事のこと、共通する趣味のことなどを中心に深夜に会話が膨らむのだが、一番驚いたのは、70代にとどきそうな女性が主宰するBBSであった。

 ホームページ自体も構成が良く、ご自分がデジカメで撮影された風景や花の写真がいたるところに掲載されており、ほうんとうに驚くほど素晴らしいできである。

 また、社会現象に対しての痛烈な批判コラムや涙をそそるエッセイも数多く掲載されており、魅力的な内容となっている。

 登山がご趣味で、今なお現役であり、先週末も北アルプスへ向かわれたそうである。脱帽である。

 他に40代の主婦が主宰するBBSにも僕は参加させてもらっているが、この方の場合はトップページからセンスの良さが漂う上品な仕上がりとなっている。

 主催者は、アメリカの某ロックグループにお熱を上げており、全国のそのファンが参加するBBSと、英語好きな仲間がメインとなったBBSとの2つがあるのだが、とても40代とは思えないくらいの軽快なタッチとミディアムテンポなトークで参加者を魅了している。

 たしかに自分たちの世界を共有し合えるという前提に立てば、本当に素晴らしいBBSなのだが、前述のとおり、あまりにもその上品さが全面に出すぎてしまって、かえってそれが参加者の単発さを生む結果となりはしないかという懸念を僕は抱いているのだが、それは今のところ考えすぎのようである。

 しかし、どちらの主宰者も参加者に対して最大の魅力である「誠実さ」そして「誠心誠意」をもって常に対応されており、その絶妙なトークショーにひきつけられることが多々あるので、息の長いBBSとなっていただきたいとただ願うばかりである。

 とりとめのないものになってしまったような感じであるが、BBSを通じて自分を再発見することもまたおもしろいような気がして、僕は現在も全国のBBSを放浪している。

 ハンドルネームはあえて教えない。