シルエット・ロマンス
ひとりおもふ
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 日曜日の仕事を終えたのが午後3時すぎ。

 帰宅して、南のベランダを開け、海風の空気を迎える。

 眼前の海辺で、テーブルをかこみ、食事しているグループが見えた。

 かたわらで、子供たちが砂遊びをしている。

 あたたかな初夏を感じる日曜の午後に、海辺に溶け込んでいる光景。

 別にキャンプ場でなくても、公園でなくても、海辺があったか。

 来週の日曜日がこんなにいいお天気だったら、では、僕は海辺へ足を運び、折りたたみイスに座り、そうして冷たい缶ビールを口にしよう、と、思った。

 海まで1分。

 7階のベランダからでもいいが、裸足での砂の感触をなつかしみたかった。

 BGMは、高中正義の「BLUE LAGOON」にしよう。

 20代半ばに訪れたニュージーランド・オークランドの海辺で聴いた曲。

 1980年の2月のこと。

 当時は、ソニーの初代ウォークマン(カセットテープ式)が発売されたばかりで、予約してもしばらくは入手できないくらいの爆発的大ヒット商品だった。

 が、僕は近くのソニーショップ店主と懇意にしていたので、前年の12月には手にしていた。

 単三電池式だったので、重量感があったものの、携帯できるという利便性からいつも身につけて歩いていた。

 20代の僕といつも行動をともにしたそのウォークマンは、今は「お父さんの宝物」ケースに大切に保管されている。

 海辺には高中正義の曲が一番似合っている。

                             ★★★★★

 やっぱり、海辺に近いからなのだろうか。

 朝晩、霧がすごい。

 朝の部は午前9時すぎにはいちおう晴れるのだが、毎日のように濃霧状態が続く。

 この時期、いつもそんなものだと地元の人が話してくれたが、それにしてもすごい。

 自慢のベランダからの景色が全然見えなくなるくらい、ここはロンドンか(行ったことないくせに)。

 クルマ通勤しているので、仕事を終えて帰宅するとき、「漁火(いさりび)通り」にさしかかると、霧がだんだんと濃くなっていくのがわかる。

 帰宅してリビングへ進み、温度・湿度計で状況を確認すると、

  室温24℃  湿度75%

と、なっている。

 湿度75%はちょっと多すぎるかなと思っていても、これだけの濃霧なのだから仕方ないかと思ってしまう。

 でも、こんなに立ち込める濃霧の日々がいつまで続くのだろうか。

 空港はクルマで10分もかからない距離にあるので、「天候調査」がときどき入るそうだ。

 海辺に近いということは、僕としては「湘南」をかなり意識したのだが、湘南もこれだけの濃霧になるのかなと思ってしまった。

 生まれ故郷の函館に戻ってきてから3年になろうとしているものの、ここへ住みつくまでは「街中」に居住していたので、1年が巡らなければ身体で感じることはできないだろう。

                              ★★★★★

 7月に仕事内容がガラリと変わった。

 それまでは土曜日も日曜日もない仕事だったので、週休2日という言葉が戻ってきたとき、

 『ああ、やっと普通の生活にもどれるなあ。』

と、安堵した。

 ローテーションで日曜日に仕事が入っていることが多かったので、「片肺」の週末が多く、そのため、掃除・洗濯などの「主夫生活」はスピードをもってやっつけていた。

 要は、どこか遠くへ行き、その風景や花たちの写真を撮りにいくことができなかった。

 それが7月からできるようになったという自由が、当たり前の自由が保障されることとなった。

 だからというわけではないが、ETCもディーラーで簡単に取り付けてもらえたので、3連休は稚内へ行こうと決めた。

 思えばこの3年間、どこへも行くことがなく、時が過ぎるのをただ待っていたような気がする。

 毎年、夏には「サロベツ」へ会いに行こうと思っていて、その想いがとうとう3年越しに可能となった。

 高速自動車道を利用すれば、稚内へはゆっくり走っても8時間くらいで到着する。

 ただ、これは単純に走るだけの時間なので、これに休憩や食事などをプラスすると、10時間を見なくてはならないだろう。

 函館を朝5時に出れば、午後3時には着く。

 善は急げということで、さっそく「じゃらんネット」で稚内の宿を検索してみた。

 が、空き情報がほとんどなかった。

 仕方なく、そのなかで比較的「まし」な宿を予約した。

 サロベツと再会できる。

 ただ、それだけの想いが、約700キロのドライブへと駆り立てる。

 やっぱり、これはロマンなのだと、つくづく思った。