函館の老舗スポーツジムを9月いっぱいで退会して、10月から新しいスポーツジムのレギュラー会員となった。
退会した理由は数えきれないほどあるが、主な理由としては、
「つまらなくなった」
「施設の老朽化」
と、いうことになるだろう。
退会手続きをしたときに、用紙を渡された。
「良ければ、退会理由を書いてください。」
と、その用紙に書かれていた。
『すみません。どんなことを書けばいいのですか。』
いつもの態度悪い受付嬢へ尋ねると、無視された。
はは〜ん、そういうジムだったんだなあと、反発を覚えたので、さきほどの理由2つを殴り書きして、カウンターに投げつけた。
2年前に、稚内から故郷函館へ戻ってきて、このジムへ入会したのは、月会費が市内で一番安かったことに加え、以前「アクアビクス」を習っていたインストラクターが「ヨガ」を教えていたこともあった。
しかし、そのインストラクターも、今年の5月いっぱいで辞めてしまった。
人件費の抑制だと思われるほどインストラクターがいなくなった。
2年前は、かなりの会員でにぎわっていたこのジムも、施設やマシンの整備がほとんどなされなかったことから、ほぼ3分の1くらいにまで会員が減少した。
ジムトレで、いつも世間話をさせてもらった方たちも去り、今年の夏ころから、筋トレやランニングマシーンは閑古鳥状態となっていた。
ただ、ここのジムは、ジムトレ中心の会員というよりは、「ボディ・コンバット」「ボディ・パンプ」などのいわゆる「スタジオ会員」のカラーがますます鮮明化されてきただけのことかもしれない。
「スタジオ会員」といっても、常連は20名から30名程度であり、プログラムやインストラクター、それに時間帯によるが、おおよそ20名前後が受講しているのみである。
だから、僕のような「ジムトレ会員」は、ごくまれということになる。
だからというのも変な話だが、ジムトレのインストラクターは、もともとスタジオのインストラクターなので、「スタジオ会員」とは良く話をするのだが、逆に僕のような「ジムトレ会員」には声かけない対応差があった。
スタジオでは毎日のようにメニューが用意されているので、そのメニュー目当てにやってくる「スタジオ会員」が、お目当てのメニューが始まるまでの時間を利用して自転車をこいだり、ランニングしたりするので、その時間帯はものすごく混んでいて、活気あるジムと錯覚してしまうが、いざスタジオが始まると、さーっと人がスタジオへ消えていく。
ジムに残った会員は、それこそ数える程度になってしまう。
そういった光景が、冷静に考えれば、今年春くらいから目についたように思う。
引きどきかなと、そう思った。
そんな状況のなかで、僕が唯一楽しみだったのが日曜の午後にある「アクアビクス」だった。
だが、それもたかだか週1回のレッスンであり、そのために月会費を払ってまで会員を続ける必要があるのだろうかと、疑問視するようになった。
★★★★★
夏が過ぎ、思い切って近くのスポーツクラブへ「鞍替え」することにした。
ただ、そのクラブは、「初心者のためのスポーツクラブ」と、はっきり明示しているので、その真意はどうなんだろうかと心配したのも事実。
『いやあ、ご年配の方がけっこう多いですよ。』
『ここの特色は、「天然温泉」が楽しめるということでしょうか。』
「天然温泉」・・・。
そういえば、フロントの後ろの壁に、「天然温泉」という文字があった。
『スポーツクラブのご経験は。』
『10年くらいでしょうか。現在、○○の会員ですが、9月いっぱいで辞めます。』
『では、マシーンの扱い方はおわかりですよね。』
『はい、おおよそわかります。』
『○○からご入会されたお客様、けっこういらっしゃいますよ。では、10月から始められるまえに、一度、施設見学なさってください。』
★★★★★
とりあえず、2ヶ月分の月会費を払って、めでたく会員となった。
すでに会員となっている知人たちへそのことを話すと、
『ここは、いいよ〜。なんせ、汗かいたあと、温泉に入れるからね。』
『同じ会員でも「お風呂会員」っているんだよなあ。ジムやプールで全然汗かかないお年寄りのこと。若い人もけっこう「お風呂会員」やっている人いるよ。』
『「お風呂会員」?』
『だってさ、銭湯料金は420円でしょ。ここは「デイ会員」だと、月5,000円くらいでしょ。それに「天然温泉」だし、一日何回入りにきても5,000円ポッキリだからね。絶対にお得でしょ。』
そういえば、入会手続きのため受付カウンターにいたら、シャンプーセットみたいなバスケットを手にして、いかにも風呂上がりというご年配たちがいた。
「お風呂会員」
僕にはあてはまらない言葉だと、自分に言い聞かせた。
★★★★★
会員となって2ヶ月が経過した。
ジムトレをやっていると、たしかに初心者っぽい人が全体の約8割を占めていて、あとの2割は「ほほう、やっているなあ。」といった会員とに分かれるのがわかった。
「初心者のための」というフレーズどおり、ランニングマシーンでは70歳近いご婦人が1時間以上ウォーキングしている光景がかなり目につくし、20代、30代の会員の「いでたち」も、どこか新鮮であるような「初々しさ」を感じる。
どこか新鮮という表現については、以前のスポーツジムと比較してということなのだが、以前のほうは一言で言えば「ケバい」という「いでたち」だということ。
「いかにも、私(オレ)はスタジオで汗を流す常連メンバーなんだよ。」
環境が変わると、身体のほうも慣れるまで時間がかかるものだ。
マシーンひとつをとっても、設定が微妙に違うので、ようやく慣れてきたという感じがする。
それは特に問題ではないのだが、やっぱり気になるあの言葉。
「お風呂会員」
最近、日曜日になると、その言葉にぐらつく自分がいる。
明日からまた1週間が始めるとなれば、運動は控えめにという消極的な考えがでてくるものだ。
今日は(ジムトレ)、やめておくかなあ。
でも、温泉に入りたい。
いいや、僕はスポーツクラブの会員なんだ。
「お風呂会員」だなんて、プライドが許さない。
お風呂入るなら、せめて30分でもジムトレしなければ。
いやいや、お風呂に入るためにジムトレするとはなにごとだ。
お風呂は、ジムトレの延長にあるのだ。
このどうでもいいようなプライドは、いつまで続くのだろうか。