シルエット・ロマンス
ひとりおもふ
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 偶然というには、あまりにも偶然すぎた。

 強いて言えば、「神がかった偶然」という表現が適切だろうか。

 確率的にも、かなりの低い確率となるはずである。

 その「世にも不思議な出来事」が起きたのは、1月中旬のことだった。

★★★★★

 職場の新年会が滞りなく終了し、タクシーを拾うためテクテクと歩き始めた。

 月曜日だったので、明日のことも考え、1次会で切り上げることにしたのだ。

 が、昨夜からの雨で雪が融けだし、さらに夕方から気温が急激に下がったため、道路はアイスバーン状態となっていた。

 新年会が行われた場所は、繁華街から少し離れた五稜郭公園付近だった。

 タクシーを拾いやすいようにと、横断歩道で車道を横切ろうとしたその瞬間・・・。

 お見事!と、声がかかりそうな1本負け。

 なんと、ステンと滑って転んでしまったのだ。

 幸いにも?尻から「着地」したので、後頭部を強打することはなかったし、防寒衣がクッションとなったので痛さも感じなかった。

 「やれやれ」と思いながら、立ちあがろうとしたその瞬間・・・。

 なんと、二度めのステンころりんをしてしまったのだ。

 第三者的に観察すれば、スケート場での初心者が転んでは起き上がって、また転んでは起き上がっての光景に近かったかもしれない。

 散々な想いをして、恐怖の横断歩道を渡った。

 左折しようとしたタクシーが僕を避けるようにして通過していった。

 酒が入ると慎重さが薄れるので、足を取られて転ぶ心配はあったのだが、それにしても同じ「ポイント」で二度も転んでしまうとは・・・。

 二度も同じ転び方をしたので、尻がちょっと痛くなった。

 50を過ぎた男が尻をナデナデしながら歩くかっこうは、実に情けない光景だろうなあ。

 さて、恐怖の横断歩道を渡った先もこれまたツヤツヤした見事な氷が敷き詰めた舗道となっていた。

 冬の北国を代表するような小股歩きで、おそるおそるその舗道を歩く。

 50メートルを1分くらいかけてペンギンのように歩いていたら・・・。

 また、転んでしまった。

 今度は尻もちをついたかたちで「着地」した。

 「二度あることは三度ある」と、よく言ったものだ。データでも取っていたのだろうか。

 『や〜めた。ここでタクシーを待とう。』

と、ひとりごとした視線の2メートル先に青色の物体が見えた。

 尻もちをついたまま、右手をのばした。

 『な〜んだ、ケータイかよ。』

 そして、次の瞬間、笑ってしまった。

 『ここで、転んだときにポケットから落ちたんだな。それじゃあ、オレは2人目の犠牲者か。』

 立ち上がって、ケータイを開けた。

 『え〜! この船の写真。』

 壁紙を観て、驚いた。

 見慣れた被写体が壁紙になっているのだ。

 でも、電話会社の違うケータイだったので、「プロフィール」をどうやって見るのか操作方法がわからなかった。

 さっそく、1次会のあとにソバを食べに行くというグループへ電話した。

 『もしもし、僕です。○○の写真が壁紙になっているケータイを拾ったんだけど、だれかこころあたりないかい?』

 『ちょっと待ってくれないかな。』

 (お〜い、携帯電話を落とした人いませんか。)

 (おお、オレだ、オレだ。)

 『○○さんのですわ。ちょっと変わります。』

 『もしもし、それ、オレのケータイだわ。ありがと。』

 『明日でもいいよね。』

 『いいよ。ありがとね。』

★★★★★

 翌朝、ケータイの「落とし主」に渡した。

 『いあやあ、ありがと。実は、あそこで転んだんだよなあ。そとのときに落としたらしい。』

 つまり、僕と彼とは同じ場所で、ほぼ同じ時刻に滑って転んだことになる。

 そのとき落としたケータイを同じ職場の同僚が同じ場所で滑って転んだときに発見する。

 「こんなことって、あるのかい。」と、即思った。

 世にも不思議な話になる?