シルエット・ロマンス
ひとりおもふ
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 雪が降らない、降らないと話していたら、ドカッと降った。

 ドカッと集中的に降って、まだまだ降り続いた。

 そして、みるみるうちに積もった。

 案の定、飛行機もJRもフェリーも運休・欠航となり、交通機関はマヒ・遅れ状態の、久々の北海道の冬がやってきた。

 「おまけ」として、今冬一番の冷え込みも記録した。

 クルマが久々に「雪化粧」となり、それが解けずにそのままの状態が続いている。

 きっと、「冬将軍」サマの逆鱗に触れたのだろう。

 雪がなければないで文句を言うし、積もれば積もったで文句を言うし。

 だが、先週までの光景とはうって変わった2月らしい雪景色が、函館にももどってきたのだ。

 雨と雪不足に泣かされ続けたスキー場関係者は大喜びだろう。

 ウィンタースポーツ大好き人間たちは、週末が待ち遠しいことだろう。

 反面、僕のような「室内でじっとしていたい、こたつに丸まりたい」派は、ますます外へ出たくなくなる。

 だいたい、このクソ寒い時期に、わざわざ外で、やれスキーだ、やれスノーボードだと「鼻をたらしながら」騒ぐ人間の気がしれない。

 エネルギーを温存して春を待っていたほうが、絶対にいいと思っているのだが、そういう考えはマイナーなのだろうか。

 ただ、ウィンタースポーツにうつつをぬかさなくても、冬の函館には、とっておきのものがある。

 そう! 温泉へ行こう! 温泉へ!

★★★★★

 「空港から5分で温泉に入れます」

 函館・湯の川温泉は函館空港のすぐそばにある名湯で、僕はこの温泉で産湯をつかった。

 温泉街としては、この湯の川温泉が唯一であるが、どっこい、函館は実は温泉の宝庫なのである。

 公衆浴場料金が420円(北海道)。

 市内の銭湯のほとんどが温泉なので、420円で入浴可能であり、場所によっては泉質が全然違っていることから、いろんな温泉が楽しめるということになる。

 温泉ファンなら、よだれが出そうな函館というマチ。

 しかも、函館山のふもとにある「谷地頭(やちがしら)温泉」は、「市営」である。

 だが、赤字財政ということから、近いうちに「民営」へ変身するらしい。

 この谷地頭温泉は、函館を訪れたファンがリピーターとしてやってくることが多いと聞く。

 前述で紹介したように、函館には湯の川温泉という名湯があるのに、リピーターはそこへは投宿せずに市内のビジネスホテルへ泊る。

 ここからが「通」の違いであり、「通」は素泊まりのビジネスホテルでチェックインした後、路面電車で「谷地頭」へ向かうのだ。

 そして、いざ入浴。

 ポッカポッカに温まったら、再び路面電車で「十字街(じゅうじがい)」を目指し、降車後に「函館山ロープウエイ駅」へ向かう。徒歩でおよそ10分。

 ロープウエイで函館山山頂まで行き、夜景を楽しむ。

 もちろん、右手には「サッポロ・クラシック・ビール」に、左手は「いかのくんせい」。

 函館山からの夜景を堪能したら、ロープウエイで下山し、路面電車で繁華街へ向かう。

 さあて、遅めの夕食は居酒屋で新鮮な「イカ刺し」、「イカ焼き」から「ほたて」「たこ」「うに」などの海産物のオンパレードに舌鼓し、やはり「サッポロ・クラシック・ビール」。

 飲んで食べたら、「締め」はご存じ「はこだて塩ラーメン」。

 翌朝は、JR函館駅付近にある「朝市」で朝食をいただく。

 もちろん、すきとおった「イカ刺し定食」。

 それから、再度、谷地頭温泉へ向かう。

 朝風呂を終えて、空港へ向かい、そして函館を離れる。

 「通」の函館1泊2日の旅。

 予約は、往復の飛行機と素泊まりのビジネスホテルのみ。

 金の屏風があるような高級旅館や値段があってないような高級料亭などを利用する考えは毛頭ない。

 与えられたものではなくて、自分の好みをあくまで探究するという考え。

 東京からやってきたリピーターが、谷地頭温泉の露天風呂で話してくれた、「はこだての楽しみ方」だそうだ。

 う〜ん、さすがだと思った。

 それこそ、カネを出せば1泊3万円からの高級旅館もあるし、万単位の料理に舌鼓をしたいのであればそれなりの料亭やすし屋さんもあるし。

 だが、そうではなくて、あくまで地元と融合したようなひとときを過ごしてみたい、そういった考えが根底にあるのだと思う。

 すばらしい、トレビアンな考えである。

★★★★★

 さて、話を市内の温泉に戻そう。

 まずは、湯の川温泉。

 泉質は「塩泉」であり、原泉はかなり熱めである。

 湯上り後は身体がポカポカしていてすごくあったまる。

 どちらかというと、「ヌルッ」とした肌ざわりで、舐めると「しょっぱい」。

 海岸付近の温泉は無色透明か茶褐色であり、ほぼ「塩泉」である。

 海岸に面していない銭湯でも、おおよそが無色透明であり、あっさりしている。

 これが山間部へ行くと「硫黄」の匂いが鼻をさし、「ドロッ」とした肌ざわりとなる。

 噴火湾側の「ひろめ温泉」は、乳白色でここも硫黄の匂いがすごい。

 また、函館市と隣接したマチでもいろんな温泉があるので、函館に単身赴任した方の週末の楽しみ方としては、まず温泉めぐりだろう。

 一番なのは、ほとんどの温泉が公共料金で入浴できるというリーズナブルさ。

 420円という料金が魅力な温泉めぐりに勝るものはないと、僕は思う。

 それで、僕のオススメはと記したいところであるが、どれも個性的だし、ひいき目はしたくない。

 ただ、まずは「谷地頭温泉」と湯の川「日の出温泉」が妥当だろう。

 谷地頭温泉は市営なので、さすがと思うような広さで、大衆浴場という言葉ピッタリだろう。

 歴史が古く、10年くらい前にリニューされ、露天はあるのだが、既存の銭湯に配慮して「サウナ」がない。

 日の出温泉は銭湯であり、湯の川温泉の熱さを大衆料金で味わえる老舗。とにかく熱い。

 でも、熱いといえば同じ湯の川にある「永寿(えいじゅ)湯」だろうな。

 浴槽が3つくらいあって、段階的に熱さが設定されているが、一番低い温度の浴槽でもたしか43度だったかなあ、長湯は禁物で、身体じゅうが真っ赤になる。

 硫黄の匂いがすごく、「温泉!」という感じがピッタリなのが「陣川(じんかわ)温泉」。

 ここは、重曹泉というのだろうか、ドロッとした感触が味わえるし、硫黄の匂いもかなりすごい。

 こうやってひとつずつ紹介していくと大変なので、あとは省略。

 ただ、先ほども書いたように、これらはすべて温泉であるのに、420円で入浴できるのである。

 これが一番の強みでもあるし、だから「温泉リピーター」が存在するのである。

 ちなみに、僕の知っている単身赴任者は、2年間で市内の銭湯をほとんど制覇したそうだ。

 関東に戻ってから、思い出したように函館へやってくるようだが、特に印象に残った温泉をめぐり、大衆料金の居酒屋でうまいものを食べ、そして安いビジネスホテルで終身するそうだ。

 究極の「温泉リピーター」だろう。

 さあ、ものはためし、函館へ来てみるかい?