今年も新春を飾る実業団による「ニューイヤー駅伝」と、関東大学による「箱根駅伝」が開催された。
選手には申し訳ないが、観戦する側の「おとそ気分」は、ボルテージを引き上げる最大の要素だと思うし、のん兵衛にしてみれば、昼間から「公」に酒を飲みながら、テレビでのスポーツ観戦ができる唯一の「三が日」なのである。
前者の「ニューイヤー駅伝」には、マラソンでおなじみの選手が走るので、それなりのおもしろさも加わり、駅伝の醍醐味がヒシヒシと伝わってくる。
一方、「箱根駅伝」は、一言で言うと「ドラマ」が潜在しているので、目が離せないという緊迫した空気が画面に流れているように思える。
特に、今年の「箱根駅伝」は、その「ドラマ」がいっぱい詰まっていたので、観る側からすれば、非常に満足だった。
従来であれば、中継所で「たすき」が渡らないという悲劇がいつもクローズアップされていたし、今年も復路で「たすき」が渡せずに同僚に抱えながら無念の涙を流している選手がいた。
中継所を先頭ランナーが「たすき」をつないでから2位以下が20分以内に到達しなければ、運営上の都合から「たすき」がつなげなくなる。
つなげなかった大学は、運営側が用意した「たすき」をかけて、その中継所からスタートすることになる。
また、一区あたり20キロ前後の長い距離を走るため、ランナーが体調を突然崩して意識もうろうとなり、コースをさまよってリタイヤしたこともあった。
これがいままでの「ドラマ」のほとんどであったが、要するに「悲劇」が多かった。
だが、今年は全く違う「ドラマ」が生まれた。
第5区は、俗にいう「山登り」。
「山登り」のスペシャリストと言えば、最近では順天堂大学OBの今井クンが有名で、「山の神」とも呼ばれていた。
その「山の神」が作った区間記録は、おそらく破られないであろうとされていたのだが、おそるべし1年生が出現したのだ。
総合優勝を果たした東洋大学の立役者である柏原クンである。
1年生だからノーマークだったのだろうが、それにしても、「山登り」で悪戦苦闘している各ランナーをよそに、あれよあれよとゴボウ抜き状態で首位を独走する早稲田大学に肉薄してきた。
すごい素質の選手が現われたのである。
無心に走っているのだろうと思われる表情に、テレビ観戦する全国の視聴者が釘付けにされた。
長距離走の場合は、マラソンも含めて先頭に肉薄し並びそうになった場合は、様子を見るために「並走」するか、それとも一気に抜き去ってしまうかの戦略が選択される。
相手にダメージを与える意味で、また、ペースを乱させる意味でもここは一気に抜き去ってしまうのが有効だと言われている。
でも、彼の場合はそんな余裕などないような表情だったので、おそらく並走して「様子見」するだろうと、ほとんどの視聴者または沿道の声援者らが考えていたのだろう。
それが、一気に抜き去ってしまったのだ。
全国の視聴者はもとより、沿道の声援者らが「シビレる」瞬間だった。
「まさか」との表情の早稲田ランナーはあわてて並走しようとしたが、どんどん離されていく。
ゴールまで、このまま行くだろうと誰もが思ったに違いない。
が、解説者の話では、彼は「下り」にめっぽう弱いらしいとのこと。
案の定、コースが上りから下りになったとたんブレーキがかかったような感じとなり、早稲田ランナーが肉薄してきた。
さすがは解説者だと、感心した。ダテに解説していなかった。
『これは、おもしろくなってきたぞ〜! ワセダ、ほら、抜け! 抜け!』
と、酒量が一気に加速される。
が、コースが上りになったため、彼は俄然調子が戻ったような走りとなった。
そして、見る見るうちにまた距離が開いていった。
『うわぁ〜、すげえなあ、こいつ、まだ1年生だぞ!』
で、そのままゴールした。
最後は苦しいのか、それとも泣いているのか、どちらにも取れるような表情でゴールした。
僕は往年のマラソンランナー中山を思い出した。
『こいつはすごい。来年も楽しみだわ。』
理屈抜きにそう思った。
翌日の復路も下りからデッドヒートが繰り返されて早稲田が巻き返しを図ったが、東洋のランナーが1枚上手だった。
前半セーブして体力を温存し、後半に引き離すといった戦略が効果的だった。
勝利後の東洋のインタビュー風景を眺めていると、1年と2年生とで固められた編成は来年も再来年も脅威となるだろうと思った。
昨年の覇者でである駒沢大学が惨敗したことを考えると、東洋大学の時代が到来したようなそんな感じがした。
★★★★★
スポーツのどれでもそうだが、競い合うシーンがなければ血が騒ぐような感じにはならない。
野球でもサッカーでも、一方的な試合は観ていて全然つまらない。
だから、マラソンも駅伝も首位が独走してしまうと、チャンネルを変えてしまう傾向が強くなる。
スポーツの世界にも「絶対」という言葉はない。
勝てば「順当」、負ければ「番狂わせ」といった表現が使用される。
特に箱根駅伝の場合、区間の距離が20キロ前後なので、選手へのプレッシャーは想像を絶することだろうと思う。
自分がリタイヤすれば「棄権」となり、先輩らが築き上げた「伝統」に傷をつけることになり、さらには上位10校に与えられる来年の「シード権」もなくなって、「予選会」から挑まなければならなくなる。
そういういろいろなことが頭をめぐりながら走っているのだろうと思うと、かわいそうな感じもしないではない。
ただ、走破されたときはその思いも吹っ飛んでしまい、このうえない充実感に浸ることができるのであろう、と僕は思う。
来年の箱根駅伝、特にあの「山の神」が作った「区間記録」をあっさり更新してしまった「新・山の神」柏原クンの走りが楽しみであるが、彼にはその期待もプレッシャーとなって重くのしかかってくることだろう。
だが、それをはねのけて、がんばってほしい。