ひとりおもふ
トップ 随想トップ
シルエット・ロマンス

  僕が通っているスポーツジムで、アクアビクスやストレッチヨガを指導している女性インストラクターが急に辞めることとなった。

 『スケジュールをごらんになりましたか?』

 『いいえ、なにかありました?』

 『T先生、辞めるそうですよ。』

 『え〜っ! どうしたんですか?』

 『結婚の準備とか言ってましたよ。』

 『け・けっこん! ・・・、もったいないなあ。』

 『いちおう、12日が最後らしいですよ。』

 『そうですかあ、・・・、いやあ〜、もったいない。』

 去年の夏、稚内から函館に戻ってきて、アクアビクスとジムトレを引き続きやろうと、市内スポーツジムの個人会員となった。

 その個人会員となって1年が経過したが、受講しているアクアビクスのインストラクター2名のうち、Tさんは笑顔の素敵な推定25〜6歳のバリバリなインストラクターである。

 若さにまかせたプログラムは30分間の短いものであるが、これがまたかなりハードな内容なので、レッスンが終わるとぐったりしてしまうほど。

 でも、充実感がものすごくある中身の濃いレッスンである。

 彼女が受け持つレッスンは、日曜、水曜、金曜、そして土曜とあるが、そのうち僕が時間的に受講可能なのは金曜を除く3曜。

 僕は、その水曜の午後8時45分からの部に参加しているが、多い時で20名、少ない時でも10名は受講する人気インストラクターである。

 20名以上は受講したであろう水曜最後のレッスン終了後、生徒が集まって記念撮影をしたが、ほんとうに惜しい逸材だとつくづく思った。

★★★★★

 「寿退社」という用語がある。

 女性が結婚することになり、主婦業に専念するため、勤めていた会社を退職するという意味であるが、実に的を得たうまい表現だと思う。

 が、今は「共稼ぎ」が多くなっていることから、その用語はだんだんと死語になってきているという。

 結婚ぎりぎりまで仕事をして辞める人もいれば、花嫁修業をするために余裕をもって辞める人もいて、人それぞれである。

 ただ、結婚しても仕事を辞めないで主婦業を兼務する女性もいるので、見方を変えればそれだけ女性の立場に変化が生じているのだろうと思ったりする。

 共稼ぎの多くは、その過程の経済的事情が左右することは言うまでもないが、僕個人としては「専業主婦」が一番良い家庭環境となるのではないかと考える。

 まして、子供が生まれたら、なおさら子供のそばにいることが理想の母親像のような気がするし、子供のためにもそれが一番良いのではないかと。

 こういうことを書くと、かなりの確率で批判を浴びることになるだろう。

 実際、仕事と主婦との両立は個人差があるものの、可能ではあると思うが、大変なことに違いはなく、当事者はいつ心身を休めるのだろうかと思ったりする。

 「ダンナの稼ぎだけでは食っていけない」という共稼ぎ事情はよ〜くわかる。

 でも、その無理がどんどん大きくのしかかってくることになってきて、その結果、マイナスにならなければと願いばかりである。

 さて、話をもとに戻そう。

 Tインストラクターと近しい距離にある人に言わせると、彼女は無口の部類に入るほど話をしないそうで、したがってプライベートなことはほとんど話すこともないそうだ。

 そのため、彼女が辞める理由は「結婚準備のため」だとのうわさになっているが、その確証はない。

 「結婚の準備」とは、要するに「短期的な花嫁修業」ということなのだろうか。

 たしかに、インストラクターという職業で第一線を走ってきた女性には、調理などの家庭的要素を犠牲にしてきたのかもしれない。

 だが、生徒の立場からすると、そのために退職する必要があるのだろうかという疑問があり、実際に生徒のほとんども同じ考えでいた。

 要するに、結婚して子供ができたら、そのときにインストラクターを休業してもいいではないかということ。

 だから、生徒間では、きっと彼女は函館から離れることが結婚条件ではないのかという「野次馬」的結論に達していたのだ。

 記念撮影を終えて、

 『おめでとうございます。しあわせにね。』

と、祝福したら、

 『ありがとうございます。』

と、いつもの笑顔で微笑んでくれた。

 しかし、それにしても、

 『ダンナになる野郎は、どこのどいつだ!』