ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 北海道には「梅雨」がないと言われているが、函館では6月から7月にかけて短い期間ではあるが、「えぞ梅雨」と呼ばれる曇り空で湿気が多い時期が存在する。

 1週間程度のほんとうに短い期間ではあるが、これが終わるとさわやかな夏が始まる。

 以前、関西からやってきた知人が、

 『いいねえ〜、天然のクーラーだよね。さすがは、ほっかいど〜ぉ!』

と、函館の初夏を満喫していった。

 函館は三方が海に囲まれているため、「ハマかぜ」がマチを涼めてくれる。

 まさに天然のクーラーが存在しているという状況なのであろう。

 ただ、函館でもそれは海が近くにある場所であり、山側に近づく「内陸部」のほうはたしかに暑い。

 最近は、ガソリン価格が軒並み上昇しているご時世であるから、運転時はエアコンをつけずに窓を全開にして走行しているので、その違いを肌で感じている。

 つまり、「走るかぜ」が海に近づくにつれて、さわやかに変化していくのがわかるのだ。

 女房の調子が良かったので、先日、函館の隣町である七飯(ななえ)町の仲人宅へお邪魔した。

 七飯町は、名勝「駒ケ岳」と「大沼国定公園」を有するくだものの町で、どちらかといえば「内陸的」な位置づけである。

 我が家からわずか15キロほどしか離れていない場所なのに、室内は扇風機を必要とするくらいの暑い昼下がりだった。

 その帰り道、熱風のような風がクルマの窓から入り込んできたので、思わず窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。

 有名な松並街道を過ぎて函館市に入ったので、エアコンのスイッチを切り、窓を開ける。

 熱風は幾分しのぎやすくなった感がした。

 海の近くにある我が家へ近づくにつれて、走るかぜがさわやかになってくる。

 『海の近くはいいね。かぜがすずしいもの。』
 『七飯はほんとうに暑かった。やっと、もとにもどったね。』

 窓から入り込むハマかぜの気持ち良さに、サングラスをかける女房の髪の毛がゆれていた。

★★★★★

北海道と本州との違いは、きっと「熱帯夜」だと思う。

 「リトル東京」と呼ばれる北の都「札幌」も、真夏は下からの照り返しがかなり厳しく、東京都ほとんど変わらない状況であるが、夜になると幾分しのぎやすくなる。

 「熱帯夜」は、1年に2〜3回あるかないかであるから、それが夏バテしない要素なのかもしれないし、「天然クーラー」のゆえんなのであろう。

 函館は、いくら暑いといっても30℃を超える日は例年では数えるくらいしかない。

 それも、由緒ある「函館海洋気象台」は、それこそ市内の「内陸部」に所在していて、そこで観測しているので、津軽海峡に面する我が家のほうが絶対に涼しいことになる。

 まして、晴れた日には津軽海峡から青森の下北半島まで眺めることができる6階にあるのだから、風通しが良く、それこそハマかぜが容赦なくベランダから侵入してくるのである。

 函館市内でもエアコンを設置しているご家庭は多く、マンションタイプではそれが必需品となっているところもある。

 赤信号で停止して、ふと見上げたマンションのベランダ側面に設置されている扇外機が目にとまることがある。

 ただ、北海道洞爺湖サミットを境にして、「エコ」という言葉が流行して、全国で「省エネ」が復活しだしており、当然、「クールビズ」という言葉も蔓延しつつあるのが現状なので、できれば使用しないことが一番良いのかもしれない。

 そういった面を考慮すれば、我が家に侵入してくるハマかぜは、「エコ」そのものであり、「住むんなら海の近く」のメリットを最大限に活かしている典型的な実例だろう。

 今夏は昨夏より暑い日々が続いているので、ベランダでジンギスカンをやりながら、冷たいビールをジョッキでガブガブ浴びたいなあと。

 潮っぽい匂いのするハマかぜに吹かれて、昼間から、「ほろ酔い」気分で眺める津軽海峡は、さぞかし気持ちいいだろうなあ。