ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 『昔はねえ、FA(フリー・エージェント)宣言すると、ジャイアンツへ移籍する選手が多かったけど、今じゃ大リーグだからねえ。世の中、変わったもんだよ。』

 『昔は何がなんでもジャイアンツだったけど、ジャイアンツ自体の人気がなくなったのか、他球団のほうが魅力的になったのかわかんないけど、プロ野球全体のバランスが取れているよね。』

 『札びらで選手集めるのがいやになって、他球団をひいきにするファンが多くなったよね。』

 『ナベツネ(渡辺恒雄)がでしゃばりすぎだよ。あれがジャイアンツの印象を悪くしているんだよ。』

 『日本ハムや楽天のほうが、個性があっておもしろいよ。』

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 実は、僕はあの昭和49年10月まではジャイアンツ・ファンだった。

 昭和49年10月・・・、そう、長島が引退した最悪のとき。

 その年の4月、上京した僕は、ジャイアンツの開幕試合を後楽園球場で観戦した。

 当然のごとく、右翼外野席で。

 その試合で、王さんが特大のホームランを僕のところまで飛ばした記憶がある。

 そして、10月。

 中日ドラゴンズがペナントレースを制覇し、消化試合となった最後の試合が後楽園球場で行われ、長島が得意の「ダブルプレー」を最後に引退した。

 僕は、そのセレモニーを水道橋のすぐそばにある部屋のテレビで眺め、泣いた。

 長島が現役を引退して、僕は現在の阪神タイガースを応援するようになった。

 その理由は他でもなく、単に長島のあの背番号「3」と、華麗なプレイやパフォーマンスにあこがれただけのことだった。

 だから、監督となった長島に魅力を感じなかった。

 僕のジャイアンツ・ファン歴というか、正確に言えば、僕の長島ファン歴は、昭和49年10月で幕を閉じた。

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 チャキチャキの東京っ子で、大のジャイアンツ・ファンだった湘南マリリンさんは、

 『スターは、原サンが最後よ。生え抜きの阿部クンや高橋(由)クンらががんばっているけどさあ、今のジャイアンツに魅力は感じないし、応援する気にもなれない。』

と、電話で話した。

 まさにそのとおりだと思った。

 実は、女房殿も大のジャイアンツ・ファンだったが、他球団の大物選手をカネで買出してから、その体質に嫌気をさして、ジャイアンツから離れていった。

 元ジャイアンツ・ファンの言い分を分析すると、圧倒的に次の理由による。

@ ナベツネのでしゃばり

A 徳光和夫の私物化放送

B 札びらでの大物選手獲得

 以上の理由では、ジャイアンツというチームそのものが別に嫌いになったわけでなく、単にジャイアンツを取り巻く環境に「嫌気をさした」ということになる。

 もちろん、マリリンさんがご指摘された「スター不在」という要素もあるが、取り巻く環境が仮に改善されたとした場合は、離れていったファンが果たして戻ってくるのだろうか。

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 しかし、どうのこうのと言われようが、ジャイアンツ・ファンは健在であり、今も愛情をもって応援されていることは間違いのない事実である。

 だが、タイガース・ファンなど他球団を支持する側からすれば、ジャイアンツ・ファンも昔とずいぶん変わったなあと、思えてくるのだ。

 というのは、つい最近までは「球界の盟主」とか「ジャイアンツあってのプロ野球」など、「自意識過剰」な部分が多かったように思え、それが逆に他球団ファンから白い目で見られる要素でもあったのだ。

 ジャイアンツは、昨シーズン、久々にセ・リーグ制覇したものの、プレーオフでドラゴンズに破れて日本シリーズへの出場ができなかった。

 このような結果であれば、当然のごとく、

『たかが中日ごとに負けて、何、やってんだ!』

『日本一になってこそ、はじめてジャイアンツなんだ!』

との罵声がファンから聞こえるのが常であったのだが、

 『とりあえずリーグ制覇したんだ。それでよし。』

という変貌ぶり。ずいぶんおとなしくなったものだ。

 こういう状況になってしまうとあまり言いたくはないが、逆に哀れを感じてしまい、ジャイアンツは「蚊帳の外」としか捉えられなくなる。

 そうこうしているうちに、2007年のシーズンも終了したと思ったら、まただ。

 何十億円もかけて、スワローズやベイスターズに在籍して活躍した外国人選手を獲得するいつもの「札びら攻勢」がはじまったのだ。

 『別にどうってことないじゃん。悔しければカネはたいて獲得したら。』

とでも言いたそうな感じがするが、ほんとにこれでいいのかなあとあきれてしまった。

 ほんと、誰が指示してこうするんだろうか。まさか、原クンがやっているとは到底思えないのだが。

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 我が阪神タイガースにしろ、中日ドラゴンズにしろ、そして北海道日本ハムファイターズにしろ、共通点がある。

 それは、1・2番打者の機動性であり、この1・2番がグラウンドをかき回すからこそ試合がおもしろいと思えるのだ。

 ジャイアンツがV9という偉業を達成したころも、柴田、高田、土井、黒江などがかき回して、3・4番の王、長島が打って点数を入れるワクワクする試合運びだったはずだ。

 それが、清原やペタジーニなどの大物選手を大金はたいて獲得したころから、ホームラン攻勢のみの大味な打順となってしまった感がある。

見た目は派手で迫力があったものの、気がつけば大金はたいて獲得した選手は誰もいなくなったという結果に陥ってしまい、チームはガタガタとなった。

 今も、小笠原、李、谷らがいて、これに元東京ヤクルト・スワローズの4番だったラミレスが加わって、生え抜きで4番を打っても不思議のない高橋(由)や阿部、二岡がクリーンアップに名を連ねることのできない悲しさ。

 こういった大物選手獲得によって生じる、新人が育たないチーム事情。

 ファイターズやドラゴンズ、そして我がタイガースが今こうして強くなったのは、若手選手が公式戦で辛抱強く使われて、それで芽を出して開花したことによるものだろうと思う。

 加えて、地域に密着して強くなった福岡ソフトバンクホークスや、注目のまととなった東北楽天ゴールデンイーグルスにも目が離せない。

 全国人気だったジャイアンツは、地域密着型の球団が続々と誕生していくなかで、関東の一球団でしかなくなりつつあると思える。

 あり得ないと思うが、これで例えば、東京ヤクルト・スワローズが新潟や金沢へ移転したら、どうなってしまうのだろう。

 プロ野球って、ドラゴンズやファイターズの若手育成とジャイアンツのような大物選手獲得と、そのどちらの方法がいいのかわからないが、少なくとも読売ジャイアンツという名門チームが生き残るためには、生え抜きを育成していくことも重要ではないのかと、僕は憂いを感じている。

 そう考えていると、セリーグのペナントレースが始まった。

 かわいそうに、ジャイアンツは連敗街道まっしぐらで、最下位に低迷している。

 やっぱり、大味なチーム編成はねえ・・・。