ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 観光のマチ「はこだて」を訪れる旅行客のうち、おとなりの台湾から飛行機でやってくる方たちもかなりの数に及ぶ。

 どのくらいの方たちが訪れているのかなどの統計的な数値は把握していないが、台湾人旅行客に接する仕事もしている関係上、かなりの数の旅行客が函館を訪れていることは肌で感じている。

 台湾は暖かい地域なんだなと思うのは、10月くらいから函館空港に降り立つ彼らの服装がもう「冬バージョン」となっているのを見たとき。

 というのも、そのころにはもうすでにダウンジャケットや毛糸の帽子にブーツ姿が目立っていて、決して寒がりではなく、例えば沖縄から来る人たちだっておそらくこんなエスキモースタイルをするであろうから、冬用の「重装備」をすることによって寒冷地への旅行意識を高めているのだろう。

 12月に入り、「はこだてクリスマス・ファンタジー」が開催されると、その「冬バージョン」の数がどんどん増えてきて、金森倉庫群を訪れる観光客の半分くらいは、おそらく台湾人旅行客ではないかと思われるほどの盛況ぶりとなっている。

 何故、これほどまでに台湾では函館がブームとなっているのだろうか。

 その答えは、すごく簡単。

 台湾では、北海道は「アジアのヨーロッパ」と言われ、あこがれの土地となっているからである。

 つまり、本州と違い、春夏秋冬の四季がはっきりしていること、それに温泉、そして、特に函館は、洋風建築物が立ち並ぶエキゾチックな魅力があることが挙げられている。

 もっと大きな理由としては、わざわざ高い旅費をかけてヨーロッパへ飛ばなくても、そのヨーロッパと同じ気候を味わうことができるという「手軽さ」が人気を押し上げているとのことである。

 ただ、函館と台湾を結ぶ定期航空路線が就航していないので、すべてチャーター機となるが、台湾の旅行代理店もそこは「したたか」にルート化している。

 その「したたか」とは・・・。

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 台湾で人気がある北海道の観光地は、函館、旭川、そして帯広だと言われている。

 函館は前述のとおりであり、旭川はもちろんあの「旭山動物園」と「層雲峡(そううんきょう)」、でも、帯広の理由がいまいちわからない。

 函館市役所に勤める知人にそのことを尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「お菓子の宝庫」

 つまり、帯広は、銘菓「六花亭」をはじめとする多くの菓子工場があり、おみやげを買うには最適の地だというのだ。

 台湾のお菓子は、砂糖がたっぷり含有された甘すぎるものしかないので、北海道銘菓の程よい甘さと、乳製品をメインとしたスイーツ系もバラエティにそろっているため、台湾人旅行客からはモテモテらしいのだ。

 北海道に住む「現役」のこの僕が、その理由を聞いて、『ははあ、なるほど、そうか。』と、逆に納得させられた。

 観光には、「食べ物」も要素にあることをすっかり忘れていた。

 台湾人旅行客の観光ルートは、まず台湾から函館にやってきて、「エキゾチックな西部地区」と「世界一の夜景」を堪能して、名湯「湯の川温泉」で一泊、翌朝は、「函館朝市」経由で登別温泉へバスで移動して一泊。

 その後、札幌を経て富良野、旭川へたどり着き、層雲峡温泉で一泊して、翌日に旭川空港からバイバイとなるのが基本ルートらしい。

 帯広の場合は、登別温泉を飛ばして札幌で一泊し、翌日は富良野からオホーツクへ抜けて、網走あたりで一泊する。

 そして、知床を回って帯広へ到着して一泊後に、翌日バイバイとなるとのこと。

 チャーター機を効率よく運航するために、旭川か帯広へ到着して、函館からバイバイという逆ルートもあるので、到着と出発日をそれぞれリンクさせることによって、チャーター機の座席が往復とも利用されることから、ここが旅行代理店の「したたか」と言われる理由なのである。

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 夏場の台湾人旅行客のファッションについて、すこし触れてみたい。

 女性客は、そのほとんどがバレエシューズのような「靴底ペッタンコ」タイプであり、かかとの高いヒール系を履くのは稀で、最近ではスニーカーなども好まれているが、日本でのファッションを意識してか、ブーツも目立っている。

 服装は、どちらかといえば「10年前の日本人旅行者」スタイルであり、なつかしさを感じるし、何故かほのぼのとしてくる。

 それと、日本ではすっかり「死語」となってしまった感のある「ペアルック」の新婚あるいは恋人カップルも存在している。

 色は、赤や青などの原色が多いので、これは民族性なのだろうかと思ってしまった。

 でも、なつかしさを感じるという点では親近感があるので、僕には好意的な想いがあるのだが。

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 今の台湾は裕福だそうである。

 日本では人件費が高いため、製造コストを軽減するうえで、PC、AV機器をはじめとする精密機器類の生産が台湾へシフトしている現状はマスメディア情報で把握している。

 要するに、10〜20年前くらいの日本の生活がそのまま今の台湾で転化されているという図式となるらしい。

 その台湾が国内旅行と同じ手ごろな価格でセットされたお隣りの日本へ足を伸ばすことは必然のことであろう。

 台湾は、沖縄と同じ「亜熱帯地域」なので、四季がはっきりしている「アジアのヨーロッパ」へのあこがれが非常に高いと言われている。

 春にはサクラやツツジが咲き乱れ、夏には湿気がないさわやかな風が吹き、秋には紅葉があざやかに空を覆い、そして冬にはあこがれのホワイトナイトを体験することができる。

 加えて、温泉とグルメ。

 なかには、極寒を体験したいと、わざわざ「さいはて稚内」へ12月や1月に訪れる「ツワモノ」もいる。

 台湾での北海道ブームがいつまで続くかわからないが、若いころに京都を東西南北に分割して、時間をかけてゆっくりと訪れてみようと考えた僕の場合と同じように、広く果てしない北の大地を分割して旅行することで、「アジアのヨーロッパ」がもっともっと訪れてみたいと思うようになることだろう。

 そして、そのお手伝いをするのが道産子の務めだと、そう思って台湾人旅行客とにこやかに接することを心がけている。