ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 10月下旬に人間ドックを受診し、3年前に指摘された胃の「ただれ」を今回も指摘され、再検査で胃カメラを呑むこととなった。

 医者は、「念のため」という言葉を用いたが、「検査漬け」「投薬漬け」の医療事情が背景にあると僕は納得していたので、二つ返事で再検査をすることにした。

 つまり、ここの病院長は僕の仕事場の「嘱託医」であり、病院施設の老朽化で市内移転したばかりという「特殊事情」もあったからである。

 Xデーは11月16日と決まった。

 3年前に胃カメラを呑んだときは、結局「異常なし」という判定だったし、そのあとの2年間のブランクは稚内で仕事をしていたためでもあり、胃カメラのことはすっかり忘れていた。

 バリウムによる検査も検査後の「つらい」ものがある一方、胃カメラは呑むときが一番「つらい」。

 『さあてと、今日の朝食は「胃カメラ」か・・・、仕方ないなあ。』

と、受付をすませ、「内視鏡センター」の待合室で名前を呼ばれるのを待つ。

 機器を使用する検査は予約制のため、5分くらいで準備室へ入室する。

 待っている間、車椅子に乗った聖衣のシスターがやってきた。

看護師とのやりとりで、「十二指腸潰瘍」という言葉が聞こえた。

 その言葉を聞いて、神様に仕える方たちも、やっぱり人間なんだなと思ったりした。

 胃カメラを呑む準備として、液状のくすりと麻酔の角氷を飲まされ、筋肉注射を打たれた。

 麻酔の角氷を舌の上でころがしていると、口のなかが麻痺してくるのを感じた。

 看護師から名前を呼ばれ、内視鏡室へ入室し、ベッドに横たわる。

 そのあとは、マウスピースを噛んでカメラの管が通され、よだれがタラタラの「まな板の鯉」状態となる。

 カメラの管がのどを通るときに、食道に触れると、違和感から「ゲボッ」と吐き気をもよおす。

 やがて、胃のなかでカメラが活動すると、おぼろげながら動いているのがわかるので、『ははあ、カメラが動いているな。』と実感する。

 検査中はメガネをはずしているので、焦点の定まらないぼやけたモニターしか見えない。

 10分くらいだったろうか、いや、実際にはもっと短い時間だったのかもしれないが、とにかく胃の中を「ほじくられた」ような感触が続いた。

 カメラの管から解放された僕の食道は、「やれやれ」とひと段落したのもつかの間、医者からの説明がされた。

 『ただれた部分は問題ありませんが、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の痕跡がありました。胃潰瘍はすでに終了していますが、十二指腸のほうは最近終了したようです。念のため、「ピロリ菌検査」のため細胞をサンプリングしたので、その結果が判明するまで約10分かかりますから、待合室でお待ちください。』

 『「ピロリ菌」って何ですか。』

 『十二指腸潰瘍とかの根源なんです。胃の内部は酸性ですが、このピロリ菌はアルカリ性でして、これが繁殖すると潰瘍になります。ですから、このピロリ菌がいるかどうかの検査なんですよ。』

 『わかりました。』

と答えたが、全然わからない。

 第一、そのピロリ菌ってやつが何故胃の中にいるのかというそもそもの話と、除去するためにはどうしたらいいのかという説明が全然されていなかったのだ。

 一瞬だったが、不安がよぎった。

 が、すぐに名前を呼ばれたので、医者のところへ行った。

 『ピロリ菌がいるかどうかの判定は約10分くらいかかるのですが、貴方の場合は、すぐ結果がでました。ほら、この赤い色がそれなんです。陽性反応がでました。

 
と試験管の小さいものを僕に示した。

 血のような鮮やかな真っ赤なものが検査液を漂っていた。

 『このピロリ菌を除去するためには、抗生物質を1週間連続して服用しなければなりません。抗生物質は大丈夫ですよね。』

 『はい、大丈夫です。』

 『では、これからの予定をお知らせします。まず、抗生物質を1週間服用します。服用することで、およそ8割がピロリ菌を除去できます。除去できたかどうかの確認を約1ケ月後に、胃カメラで再検査します。それで、除去できていれば終了ですが、できていなければ除去できるまで投薬治療となります。ただ、「便」がかなりやわらかくなりますので。』

 『はあ・・・。先生のおっしゃることは理解できましたが、そもそもの話として、そのピロリ菌って何故繁殖するんですか。そして、繁殖しないための食生活とは・・・。』

 『とにかく、今はピロリ菌を除去する措置をしなければなりません。放っておくと、また潰瘍が発生します。』

と、間髪入れずに説明がはじまった。

 僕はピロリ菌を詳しく知りたかった。ただそれだけの疑問に対して、先生は何故答えてくれないのだろうか。

 『27日に内科検診を受けてください。そのときに、抗生物質を1週間服用したことの確認と、除去できたかどうかを胃カメラで確認しますので、その日時を決定します。よろしいですね。』

 よろしいも何もあったものではない。

 これが「検査漬け」と「投薬漬け」の医療現場なのだと実感した。

 抗生物質を服用したら、8割の確率で除去できるという説明。

 それなら、僕が間違って、除去できないその2割に入る可能性は当然20%。

 別にその確認をするために、あの胃カメラをまた呑めっていうのか。

 冗談じゃあ、ない。

★★★★★

 ピロリ菌のことを、知り合いに聞いてみた。

 ピロリ菌は、誰の胃にも潜在しているということらしいし、40歳以上の男性の70%以上が「キャリア」だと言われているそうだ。

それを抗生物質で除去しても、また発生するとのこと。

アルカリ性の食べものを摂取している限り、ピロリ菌は生きている。

 それじゃあ、その抗生物質の投薬治療とその除去を確認するための胃カメラは・・・。

 よ〜く考えてみると、そもそも僕が胃カメラを呑んだ理由は、「胃潰瘍」の疑いによるものだったはずで、その再検査で潰瘍は完治していた結果が解ったわけで、これがどういうわけかピロリ菌に検査が「転移」してしまった。

 そして、抗生物質による投薬と、その結果判定のための胃カメラによる再検査。

これは、誰がどう見たって、病院側の「点数稼ぎ」ではなかろうか。

ここまでやる?

 そう考えながら、当事者の僕は、締まりのない肛門ちゃま状態が、現在進行形・・・。

 最悪の11月だなあ。