ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 「tears of anri」というアルバムが発表された。

 「anri」とは、もちろんポップスシンガー「杏里」のこと。

 このアルバムに収められている曲のほとんどが他ミュージシャンのオリジナルなので、おそらく彼女の「お気に入りの曲」なのだろうと思う。

 そのアルバムを聴きながらクルマを運転しているとき、秋という季節に妙にマッチしているというか、フロントガラスに映る紅葉の風景が彼女のボイスに合わせて過ぎて行くのをなつかしく感じる。

 彼女のシンガーとしての生き方は知らないけれど、デビューのころや復活したころのことは鮮明に記憶している。

 当たり前だが、人間はトシをとっていくと、それなりに変わっていく。

 彼女もそれなりに変わってきているが、その変わり方がだんだんと魅力的になってきていると、僕は感じている。

 彼女には悪いが、特段「美人」だとは思わない。
 
が、気品の良さと知的センスの良さとがあふれているので、それが彼女の魅力となっているのではないかと思う。

それに、あの魅惑のボイスと歌唱力とが独特の雰囲気となっていて、それらが圧倒的に支持されている要因なのではないかと思っている。

 最近、徳永英明など、他ミュージシャンのオリジナル曲をアルバム化したCDが発表されているが、オリジナル至上主義の僕としては、あまりうれしくはない心境にある。

 オリジナルをカバーするのは別に悪いことではないし、カバーしたシンガーがその曲の魅力をもっと引き出してくれるかもしれないので、プラスになり得ることもあるだろう。

 でも、僕の場合は「理屈」も「屁理屈」もなく、カバーという行為が単純に嫌いなだけであり、例えばリサイタルで歌っている程度ならまだ許せるが、それをCD化するという商業的な暴挙は許されないという考えがあるからなのである。

★★★★★

 杏里の「オリビアを聴きながら」を聴いたのは、もう30年近くも前のこと。

 当時は、今のようにレンタル店がなかったので、レコード(今のCD)を購入するか、「エアー・チェック」と呼ばれるFM放送での録音しか入手方法がなかった。

 僕の場合は、FM放送のリクエスト曲や番組の特集を「カセット・テープ」に録音して、それをカセット・テープにダビング編集してクルマで聴いていた。

 もちろん、お気に入り曲はレコード店で購入し、テープへダビングするという方法がメインで、その方法で録音されたテープは200本近くになり、今でもちゃんと保存されている。

 「オリビアを聴きながら」を初めて聴いたのは、記憶では確かNHK−FMのリクエスト番組だったと思う。

 ユーミンを初めて聴いたときのような「震度6の衝撃」はなかったが、メロディや歌詞の繊細さに加えて、あどけなさがまだ残る歌い方に、心臓を打ち抜かれるような想いだった。

 杏里は、1961年生まれだから、僕の6歳下ということになる。
 
つまり、今年46歳ということか。・・・若い。

デビューは1978年というから、この曲を歌ったのは初々しさがまだ残る17歳のときということになる。

要するに、少女の面影を残すそのあどけなさに、僕を含めた多くのファンが「メロメロになってしまった」という表現がピッタリだったのだろう。

 この曲は、尾崎亜美が作詩・作曲し、日本のポップス史上に名を残すことになるが、彼女も後で歌うようになる。

 彼女の情感がこもった歌い方は、たしかに作者自身のみが表現できるような雰囲気を感じるので、それはそれでまたいいのだろうが、ただ、声質というのだろうか、もしくはあどけなさというのだろうか、この曲がイメージする想いを引き出すには、ちょっとばかり難があるように僕は思えた。

 それは、杏里というあどけない17歳の少女が歌うからキラリと光る曲なのであって、そのオリジナリティにみずみずしいインパクトがあるからこそ、この曲が至上の愛の歌として位置づけされているということが言えるのではないだろうか。

 そして、彼女の声質から感じる清潔さが、この別れの曲をいっそうもの悲しくしていることを、聴いている誰もが感じているに違いないと、僕は思う。

 また、カラオケの定番として、いまだに多くの女性から支持されているこの曲は、永遠の愛の歌として歌い継がれるだろうとも、僕は思っている。



  お気に入りのうた ひとり聴いてみるの

  オリビアは寂しい心 なぐさめてくれるから

  ジャスミン・ティーは 眠り誘うくすり

  私らしく一日を 終えたいこんな夜

  出逢ったころは こんな日が

  来るとは思わずにいた

  Making good things better

  いいえ すんだこと 時を重ねただけ

  疲れはてたあなた わたしの幻を愛したの



  眠れぬ夜は 星を数えてみる

  ひかりの糸をたどれば 浮かぶあなたの顔

  誕生日には カトレアを忘れない

  優しい人だったみたい けれどおしまい

  夜更けの電話 あなたでしょ

  話すことなど 何もない

  Making good things better

  愛は消えたのよ 二度とかけてこないで

  疲れはてたあなた わたしの幻を愛したの



  出逢ったころは こんな日が

  来るとは思わずにいた

  Making good things better

  いいえ すんだこと 時を重ねただけ

  疲れはてたあなた わたしの幻を愛したの




          「オリビアを聴きながら」
           作詩・作曲 尾崎 亜美

            歌    杏里