八月下旬のけだるい暑さが残る日曜の午後は、やっぱりボサノバに限る。
昨夏に掲載したエッセイ「ボサノバ」でも紹介したとおり、単純に暑いだけの日中よりも、景色全体が暑さに疲れて、空気のよどみがピークに達する夕暮れの浜辺が、ボサノバを聴くには一番フィットしていると思う。
それも、名曲「WAVE」に限る。
いつもなら、アントニオ・カルロス・ジョビン演奏のオリジナルを耳にするのだが、今回は、ジャズを弾かせたらおそらく最高のリズムを刻んでくれるであろう僕が首ったけのピアニストの演奏を聴いている。
そう、クニさん。
彼女が演奏するジャズ・ピアノには、独特の「カラー」を感じるし、都心のナイトクラブでも十分通用するであろう即興性も秘めたピアニストだと思っている。
あんまりほめると「絶交」させられそうなので、このへんでとどめておこう。
ただ、彼女のサイトに収録されている「WAVE」は、ジョビンのよりもリズムがはっきりしているし、どちらかというと「メキシカン」っぽい仕上がりとなっているので、逆に聴きやすいかもしれない。
欲を言えば、彼女に1曲だけリクエストしたいスクリーン・ミュージックの定番ものがある。
この曲も、八月下旬のけだるい暑さが残る日曜の午後にピッタリだと思う。
ミシェル・ルグランの「おもいでの夏」。
第二次世界大戦中のアメリカのニューイングランド地方の避暑地を舞台に、新妻のドロシーが、出征した夫の戦死を知らされ、主人公の高校生ハーミーとチークダンスで過ごす夜に、延々と流れていた名曲。
★★★★★
ミシェル・ルグランはフランス人で、スクリーン・ミュージックではおなじみの有名な作曲家。
彼の代表曲は、スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェイ共演のアメリカ映画「華麗なる賭け」(1968年製作)の「風のささやき」がある。
この「風のささやき」も「おもいでの夏」も、ジャズっぽい匂いが漂ってくる独特のメロディであり、ルグラン自身もジャズにのめりこんでいくこととなる。
1970年代中ごろにオーケストラを率いて来日し、函館市民会館で開催されたコンサートを僕は聴きに行ったことがある。
今でも薄っすらと記憶にあるが、バックにスクリーンが下りてきて、その曲が挿入されている映画のワンシーンが上映されるという気のきいた演出だった。
オーケストラをバックにしたルグランのピアノ演奏は、もうすでにそのときからジャズの世界に足を踏み入れたようなテンポのとり方だった。
フランス人にジャズは合うのだろうかと、素朴な疑問がそのころからあった。
ジャズに傾倒していったルグランの演奏を偶然テレビで聴いたのは、それから10年も経ったであろうか。
心配するまでもなく、ジャズピアニストとして、ルグランは見事に花を咲かせていた。
★★★★★
フランス人とは付き合ったこともないし、友達もいないので、慣習的なものは全く知らない。
考えてみれば、フランスという国は歴史が古いものの、音楽は「シャンソン」が代表的であり、そのシャンソンが大々的になったのは第二次世界大戦後なので、あとは失礼だがビゼーかドビッシー、そしてラベルくらいしか名前が浮かばない。
どうしても絵画のほうへ目が向いてしまうのだろう。
でも、ラベルの「ボレロ」を聴いていると、僕的にはルグランがジャズに傾倒していった理由がなんとなくわかるような気がする。
まして、ドビッシーはどうもボサノバ的要素がプンプンしてきそうな曲ばかりだ。
その3名の偉大な音楽家をベースにしたと勝手に思うシャンソンは、独特の雰囲気で歌われることが多く、これからジャズやボサノバへ流れていく傾向は必然的なのであろう。
故に、ルグランがジャズへ傾倒していったことが僕は肯定されるべきではないかと思っている。
ジョビンの「WAVE」とルグランの「おもいでの夏」とに共通するものは、「終わりかけた夏の海」である。
函館の終わりかけた夏の海に、どっちの曲もマッチしてしまうので、今週末は缶ビール片手に、6階のベランダから津軽海峡を眺め、そうして、この2曲を聴いてみようと思う。
きっと、心地よいカゼが舞ってくれるんだろうなあ。
1年のうち何回かは、こういう週末があってもいいよね。