ひとりおもふ
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シルエット・ロマンス

 朝日新聞の全道(北海道のこと)版に、道内の離婚率に関する記事が掲載された。この記事の「仕掛け人」は、もちろん同新聞の稚内支局長で、本人から連絡があり、支局でその記事をさっそく読ませてもらった。

同時に、その支局長から、『おんなの県民性』(矢野新一著、光文社新書刊)という本をお借りし、JRでの函館間の長旅の「おとも」とした。

この本は、女性の様々な「顔」にスポットライトを当て、それを都道府県別に分け、データに基づき徹底的に解剖したおもしろい内容となっていて、僕は車中で苦笑いしながら真剣に読ませていただいた。

内容的には、「好みと性格の県民性」「恋愛と結婚の県民性」「美と健康の県民性」「職業の県民性」などの6章に分かれて紹介されているが、なかでも県別の男女に分けた相性度や結婚に関する項目がなかなか興味深かった。

 そのなかで、離婚率に関することが特段僕の目を引いた。

厚生労働省の2003年データによれば、都道府県単位での離婚率(1,000人あたりの件数)が多いのは、沖縄、北海道、大阪の順で、逆に一番少ないのは新潟とのことである。

 いずれも女性からの視点で説明がなされているのだが、第1位の沖縄は男女とも楽天的であるという気候風土、第2位の北海道は開拓時代から男女の地位が平等であること、そして、第3位の大阪は女性が現実的で気が強いという、要約すればそういった理由だそうである。

 一方、新潟の女性は辛抱強くて良妻賢母だということから離婚率が低いと紹介されている。

 北海道は離婚率が高く、さいはての稚内も5本指に入ると、前述の支局長が以前からお話されていたので、とうとうそのネタが記事化されたのだと思った。

 前述の朝日新聞に掲載されたデータ(北海道保健福祉部総務課調べ「2005年」)では、北海道での離婚率が高い都市は、釧路市(3.08)、苫小牧市(2.93)、稚内市(2.78)の順となっていて、同年の全国平均が2.08、北海道は2.42、さらに全国第1位の沖縄県が2.71であることからすれば、第4位の旭川市(2.73)までがそれを上回っているということになる。

 この記事と並んで、このデータに対するコメントが次のとおり掲載されている。

【恋愛小説のハーレクイン社マーケティング部(東京)の話】

 
北海道の場合、若くして結婚するが、経済的に自立できずに離婚してしまうケースが多いのではないか。「強い」と言われる道産子女性には、夫が頼りなく見えてしまうことも多く、そう感じた後は、束縛を嫌う道産子気質のせいで離婚に発展してしまうのかもしれない。
 夫婦が2人で過ごす時間が十分でなかったり、仕事上のストレスを家庭に持ち込んだりして、お互いに思いやりを示せないことも離婚の大きな原因と思われる。

恋愛のエキスパートのコメントらしい分析で、なるほどと感心してしまったが、「夫が頼りなく見えてしまうことも多く」という部分に、女房殿から僕もそういうふうに見えているのかと、あせった。

本題に入るが、稚内市が第3位となっているその理由とは。

★★★★★

 『ここ(稚内)は、昔から漁師マチですからねえ。男性は気が荒いんで、女性もそれなりにけっこう気が強くなきゃあ、女房なんか務まりませんし、そういう親の姿を、子供も見て育ってきたんでしょうね。』

 『えっ? 離婚が多いって? だって男性はそんなに働き者じゃないんで、それで女性が「三行半」を突きつけて離婚しちゃうんだと思いますよ。ここは女性が強いマチですからねえ。「ナデシコ」なんか、いませんよ。』

 『このマチで男女が知り合うきっかけの場所? 飲み屋しかないでしょ。男と女が出会う場所なんか、ないですよ。それで、全部がそうだとは言いませんが、その飲み屋に出没する女性のバツイチの確率は相当なものだと思うよ。そういう女性と知り合いになって、子持ちでなければお付き合いしたいという気持ちになるだろうけど、子持ちだとその子供の年齢にもよるけど引きますね。』

 このマチのことを直接表現した、いわば笑えない現実であろうか。
 それにしても、想像をはるかに超えた、ものすごいマチだと思った。

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 あたしね、これでも32になるんだよ。
 稚内生まれの稚内っ子。
 そうよ、バツイチなんだ。

 こどもは2人いて、どっちもオトコ。
 大きな声でいいたくないけど、11歳と10歳。
 27で離婚した。
 慰謝料も養育費も請求しなかった。
 請求したって払ってくれないだろうし、早く縁を切りたくてさ。

 だってさ、元ダンナはダメオトコの典型なんだよ。
 結婚したら、急に仕事しなくなってさ。
 パチンコ屋に入り浸り。
 それで、「三行半」をつけたの。

 バツイチになってから、食べていくために、必死で働いたわよ。
 昼間は、普通の飲食店で働いて、夜はこの店で週2回のお勤め。
 生活もかなり厳しいけど、なんとか親子3人で食べている。
 食べていけるだけで十分。
 小学生の子供たちにも苦労かけているしね。
 がんばらなくちゃ。

 将来のこと?
 考えてるヒマないよ。

★★★★★

 稚内に限らず、地方都市のほとんどにあてはまるタイプと言えるものが2つあると思う。

 ひとつは、大学や専門学校へ進学、あるいは学校を出て旭川や札幌、または本州の都市部へ就職して、何年か生活して、その後、何かの理由でUターンしてきたタイプ。もうひとつは、一度もこのマチを出たことがないタイプ。

 どこでもそうだけど、Uターン組はものさしを持ち帰るから、メリット・デメリットの比較ができるので、いわば「良識派」となる傾向にあるが、地元から一度も出たことがない組はその比較ができないので、このマチでのことがあたりまえという考えが定着する傾向にあると言えるのではないだろうか。

 そして、決定的なのは、Uターン組のほうが魅力的であるということ。

 僕が問いかけたいのは後者のタイプであり、そして、どういうわけかこのマチは早婚が多いということ。

 まず、この地から一度も出て暮らしたことがない人たちには、おそらく「このマチでのことは、ごくあたりまえのこと」という考え方があると思うが、残念ながら稚内で見かける現象は他市町村では通用しない場合が多い。要するに「稚内ルール」というものなのだろう。

 スーパーや建物の玄関前に堂々とクルマを駐車すること。

 加えて、身障者用の駐車スペースにも堂々とクルマを駐車すること。

 スーパーの食品売り場の通路でカートを並べ、それが他の客に迷惑をかけているとも知らずに堂々と井戸端会議をしている主婦たち。

 一対一では絶対に話さないことなのに、会合となると勢いで話してしまい、どういうわけかそれに皆が同調してしまうこと。

 薄味にするとケチっていると思われるのがいやなので、極端に味が濃かったり、甘すぎたりすること。それでいて、内容が伴っていないのに妙に値段が高く設定されていること(特にお菓子、ケーキ等)。

 値引きはせずに、値段を据え置きにして、グリコのようにおまけをつける習慣があること。

 次の「早婚が多い」については、実際に市役所等の公共機関で婚姻に関するデータを教えてもらったことがないので(聞いても教えてくれないだろうし)その裏付けはできないものの、まだ若いのに幼い子供を連れて歩いている女性の姿を他市よりも多く見かけるし、アクアビクスのスクール後のサウナ室での主婦らが会話する内容からの推測の域のことでもあるが。

 詮索はしたくないが、幼い子供を連れて歩いている光景は、「できちゃった婚」なのかどうかはわからないが、さきほどの在稚内の女性の話とオーバーラップしてしまう。

 早婚に関しては様々な理由がそこにはあるのだろうが、ひとつには就職難ということが掲げられるのかもしれない。

このマチでは、若い女性が正社員として仕事を持つ確率はかなり低いのではないだろうか。はっきり言えば、そのほとんどはパートではないだろうかということ。

故に、早婚が多いという結論には至らないだろうが、一理あると思える。

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 前述の支局長がときどき顔を出すネオン街のママさんたちは、どういうわけかUターン組のバツイチが多いらしい。

 また、何故Uターンしてきたのかその理由(わけ)について聞くことは、どうやら「ご法度」のようだし、稚内でバツイチになったわけではなく、Uターン元でバツイチとなって戻ってきたというママさんが多いという。

 変な話、昨年の夏に息子が母親を殺害した事件が発生し、稚内という都市名が全国的に知れ渡ったが、この母親も横須賀でバツイチとなって、息子と故郷に戻ってきた経緯があるし、逮捕されたもう一人の未成年者もバツイチの家庭だったそうだ。

 こんなことを書くと誤解されがちだが、決してバツイチを揶揄(やゆ)しているわけではない。

 僕が書きたいのは、バツイチとなった理由は様々であると思うので、一概には言えないかもしれないが、その夫婦に幼い子供が存在している場合、自分たちのエゴのために、その子供を不幸にするようなことは親として絶対にしてほしくないので、まずは思いとどまって欲しいということである。

 また、「子は夫婦の鎹(かすがい)」とは、よく言ったものだと感心する。
 当たり前のことだが、夫婦は血ではつながっていないが、その子供には父親と母親との血が流れている。

 子供の親権はどうするとか、そういうことを考えるまえに、子供の立場になってもう一度考え直してみてからでも遅くはないと思う。