11月に女房殿が来たとき、市内の札幌系スーパーへ食料の買出しに出かけた。
レジを終えて、食料品をビニル袋に詰めていると、その近くで老舗の菓子屋さんがシュークリームなどを臨時販売しているのが目に止まった。
ここの菓子屋は、以前から稚内にしてはおいしいと耳にしていたので、
『ちょっと、寄ってみようか。』
と、女房殿を誘った。
女房殿は、昔から手作りパンやケーキ、お菓子などを手がけていたので、その道ではかなりうるさい「グルメ」でもあり、故に、母親の遺伝というか、その娘も自分で作りはしないものの、舌はうるさいほどこえているので、「外食評論家」の肩書きを付してもいいと思うくらいの素質がある。
『おいしそうだけどさ、シュークリームが1個250円って高すぎない?』
『夏に食べた「流氷まんじゅう」みたいに、これでもかっていうくらい甘すぎたりして。』
この会話に出てきた「流氷まんじゅう」のいきさつをここで紹介しておきたい。
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8月の夏休みに、「外食評論家」の娘が女房殿とやってきたとき、娘が雑誌「ノンノ」を片手に僕にこう話した。
『お父さん、ノンノにさあ、稚内のお菓子が紹介されているんだけど知ってる?』
『何ていうお菓子さ。』
『○○ってお菓子やさんの「流氷まんじゅう」っていうんだけど。』
『○○っていうお菓子やは知っているけど、稚内も有名になったもんだなあ。場所は知っているから、買ってみてこようか。』
ノシャップ岬の売店で「まりもっこり」が入荷したという情報もあったので、そのついでに家族総出で、その菓子屋へ直行した。
『ばら売りしていたんで、試しに3個買ってきたから。カウンターに「ノンノ」が置いてあって、「ノンノにも紹介されました。」って誇らしげに書かれていた。』
お行儀が悪いと指摘されそうだが、さっそく車内で試食してみることにした。
女房殿が袋を空けてみたとたん、
『うえ〜、何これ!』
と、絶句した。
あんこが入ったまんじゅうではなくて、立派な洋菓子だった。
それも見るからに甘そうな蒸しケーキの上にホワイトチョコがこれでもかとたっぷりかけられている。
娘がひと口食してみた。
『あまあ〜い、うへ〜。甘すぎて、食べられない。』
『蒸しケーキの上にホワイトチョコはねえ・・・。』
と、娘の食べ残しを女房殿がつまんだ。
『うわ〜、甘い。だめ、食べられない。お父さん、食べて。』
『オレは糖尿だから、甘いのはだめだってわかってるべさあ。』
『そうだったわね。仕方ない。もったいないからわたしが全部食べましょう。・・・また、太るわ。』
といった具合いだった。
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さて、シュークリームが1個250円の臨時販売の話に戻そう。
折りたたみテーブルの上に置かれたプラスチックケースの中をのぞくと、「流氷まんじゅう」のこともあって、シュークリームもショートケーキも全部がものすごく甘そうに見えている。
『お客さん、ロールケーキの試食あるから、ほら、食べてみて。』
との甘い言葉と同時に差し出された1センチくらいに薄く切られたそれを女房殿はちゅうちょなく試食した。
『生地がカステラっぽいね。これ、ひとつちょうだい。』
『お客さん、シュークリームもおいしいよ。』
『このつぎにするわ。』
家に帰ると、女房殿が、
『さっきのロールケーキ、ちょっと食べてみようか。』
と、僕を誘った。
白いビニル袋からロールケーキを出したとたん、女房殿の驚嘆する声が聞こえた。
『お父さん! このロールケーキ見て!』
その声に、僕は食卓に広げられたロールケーキを見た。
『え〜! 砂糖かよ。』
『そう、砂糖がまぶしてある。』
『甘すぎない?』
『すっごく甘いと思う。』
『だって、お母さんが試食したのは。』
『まさか、砂糖がまぶしてあるなんて・・・』
『オレは、食べないぞ。糖尿患者の自殺行為だ。』
結局、上部に大量に砂糖がまぶされたとてつもなく甘いであろうロールケーキの「処分」は、相模原に戻るまでの女房殿の日課となった。
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「味付けが薄くて文句を言われるくらいなら、最初から濃くしておいたほうがいい。」
これがご当地のポリシーなのかもしれないが、それにしても、お菓子やケーキまでがこのポリシーどおりだなんて、これでは病院と歯科医が儲かるだけだろう。
世の中、ダイエット!ダイエット!で騒がれているのに、ちょっとというかかなりの時代錯誤だと思わないのかなあ。
「塩分控えめにしました。」
「減塩醤油を使用しております。」
「糖分を50%カットしました。」
「ノンカロリーの飲料です。」
「砂糖は一切使用していません。」
こんなキャッチコピーは、ここでは不要なのだろうか。
糖尿患者にとって恐怖の土地は、銘酒が揃う秋田や新潟だけでなく、あま〜いお菓子やケーキが当たり前の稚内もリストアップしておかねば。
「えらいこっちゃ。」と思っていたら、今度は地元の熱烈な支持を受け、稚内空港でもかなり売れているという評判のお菓子を教えてもらった。
「モカ大福」!!!
菓子司は、あの「流氷まんじゅう」のお菓子やだ。
『すみません、今は小さくなって「モカ小福」なんですよ。』
なるほど、大福・・・いや、小福だ。
一口食べてみた。
・・・あんこは、モカだ! モカの味がする。むむっ、バニラ味をかすかに感じる。
食べ口を見たら、もちの中に、あんこ色のモカがアイボリーのバニラを包んでいる。
ビミョウ!
コーヒー好きは「美味い!」と言うかもしれないが、とにかく微妙だ。あんこはあんこでないと、やっぱりへんだよ。
ここは、来年の2月か3月にやってくると思われる「外食評論家」の娘に判定させてみるか。
それまで「封印」。