ひとりおもふ
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幻の「キラク」
 「ジョイ・ラック・クラブ」というアメリカ映画での母親と娘との会話。たしか、こうだったと思う。

 『ママの自慢できるような娘になれなくてごめんなさい。』

 『おまえは、誰よりも気のつくいい娘だよ。この間、私が作ったカニ料理をみんなで食べたとき、優等生のあのコは形のいいカニばかり食べていた。それに比べて、おまえは、かたちのくずれた誰も食べないようなカニを選んで食べていた。その光景を見て、私はおまえが私の娘であることを確信した。おまえは誰よりも気のつくこころのやさしい娘だよ。』

 そして、父親から、亡くなったその母親が娘へ渡せずにいたペンダントのことを話しはじめた。これもたしか、こうだったと思う。

 『ママの大事にしていたこのペンダントを、どうしてママが自分から渡してくれなかったのかしら。』

 『それは、ママが私にはおまえに渡す資格がないと口ぐせだったからだよ。ママは、戦争でおまえのお姉さんたち(双子)を祖国へ捨ててきた。どんな理由があるにせよ、娘たちを捨てた母親は、母親を名乗る資格はない。その母親がどうしてその妹のおまえにこのペンダントを渡せるのだろうかと。』

 そのペンダントを身につけて、彼女は中国へ渡り、母親が中国へ置き去りにした双子のお姉さんたちと会う。

 当時、赤ん坊だった双子のその姉妹は、戦争で中国の重慶から避難してきたとき、荷車に乗せて母親が押してきたのだが、その荷車が壊れてからは母親が二人を抱きかかえながら歩くのだけれど、とうとう力つきてしまう。

 それで、自分が身に付けていた宝飾品と金品を全部包み、その姉妹に添えた。面倒を見てくれたら、重慶の父親がもっとカネを出すとの手紙を残し、大木のところへ置き去りにした。

 
そして、母親は天に向かって泣きながら祈った。

いずれもラストに近いシーンであるが、その光景に涙がボロボロ流れだし、押さえることができないほどの感動が僕を襲った。

 良い映画にめぐり会ったときの感動をいつまでも大切にしたい。
 
そう思って、僕は50歳になった。

★★★★★

 秋の気配が忍び寄るさいはての夜は、スカパーで放映される秀作映画を鑑賞するに限るし、週末は週末で、冬支度をはじめるサロベツを堪能しながら、近場の温泉に浸かることが一番いいような気がする。
 もちろん、単身生活という前提に立ってのことであるが。

 また、北海道の秋は農作物の収穫時期でもあるので、じゃがいもや玉ねぎなどを素材とした料理に舌づつみすることも可能であるし、これに「秋サケ」を味噌仕立ての「石狩なべ」で食するのもまた格別である。

 「石狩なべ」は味噌でこしらえる「なべ」であり、北海道の風物詩となっているが、これが道南(北海道南部のことを「どうなん」と呼ぶ)の函館周辺だと、こんぶ出しに塩味の「三平汁(さんぺいじる)」風となる。

 「三平汁」は、もともとは江戸時代末期の松前藩で食されていた「味つけ」であり、魚材は「にしん」だったと言われている。
 この「にしん」が応用されて、「ほっけ」「サケ」でも「三平汁」と呼ばれるようになった。

 つまり、塩味であれば「三平汁」というジャンルに統一されたかたちとなっているので、今では「石狩なべ」の塩味版という考えが定着しているようだ。

 しかし、「三平汁」はお椀で食する「汁もの」であり、「石狩なべ」は「なべ」であることをいちおう区分けして覚えていただきたい。

 いずれにしても両者の具には、ねぎ、にんじん、いも、だいこんが入るし、だしはこんぶが使用される。

 応用が応用を呼んで、「浜ナベ」というものがある。

 これは、漁師が漁を終えて昼時に食する「汁もの」であり、取れたてのさかな(サケ、マス、ホッケ、タラ、カジカなどなど)を味噌か塩をベースに、先ほどの具と、地方によっては豚バラ肉か鶏肉を入れてできたものが「浜ナベ」となる。
 この「浜ナベ」は魚材にこたわらないので、ありあわせのもので食することができるので、かなり便利である。

 特に、商品価値はあまりないが「だし」がすごく出ておいしい「カジカ」を入れる「浜ナベ」が多いし、味噌でも塩でも味がバツグンにいい。

 以上が「石狩ナベ」「三平汁」「浜ナベ」といった北海道を代表する「汁もの」であり、秋が一番おいしいようであり、ちょっと贅沢に「イクラ」なんぞを乗っけると、もう言うことなし。

 でも、独り身の「ナベ」は、どうも寂しくてネ、箸がすすみません。

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 灯油の配達小売価格は、去年よりもさらに値上がりして、北海道平均は1リットル当たり86.6円となっているそうで、さらに稚内市を含む宗谷地方での平均は90円にもなっているそうだ。

1年で15円も値上がりしたと新聞は報道しており、ポリタンクで購入する場合は18リットルか20リットル入りの容器を使用するので、仮に20リットルとすれば、小売価格を90円として1,800円/缶ということになる。

また、一軒家の場合は、480リットル程度の屋外設置のホームタンクに保管することになるので、満タンにすると43,200円となる。
 
ごく普通の家庭であれば1ケ月から1ケ月半くらいでの消費ということになるので、毎回それだけの出費ということになるし、1年前を75円とすれば7,200円の差が生じている。

さらにその1年前つまり今から2年前は65円くらいだったと記憶しているので、2年間で実に20円以上も値上がりしたということになる。これはとんでもない価格上昇である。

僕のような単身であれば日中は留守宅となるので、1週間で20リットル×2タンクを消費したとして、1週間で3,600円、1ケ月で14,400円の出費となる。
 
これはあくまで1リットル90円の計算だから、最低ラインとして考えていただきたい。

 今年はまだ需要期に入っていないので購入していないが、以上のことから暖房節約に努めようと思っていても、やはり限度というものがある。
 僕のような単身者であれば我慢の範囲で節約できるが、お年寄りや乳幼児がおられる家庭では節約するわけにはいかない。

 僕のような単身者にとっては幸いなことに「セルフスタンド」で82円くらいの店頭販売なので、今冬もポリタンクをもって買いに行くしかないが、お年寄りたちは業者配達に頼らざるを得ない状況なので、ほんとうにお気の毒でしょうがない。

 節約方法として、ハロゲンの電熱器や電気こたつ、それに電気式カーペットなどで灯油消費を節約しているご家庭が多いと聞く。

 何故、灯油をはじめとする石油製品が世界的に高値となっているのかについては、いろいろな解説が報道媒体でされているようであり、その要因としては「オイルマネーゲーム」がダントツで、そのほかには「中国の需要増」や「産油国の不安定さ」と続く。

 「オイルマネーゲーム」は、昨年アメリカを襲ったハリケーンでクローズアップされたもので、いろんな不安定要素を元に原油価格を上昇させているということらしいが、供給面ではそんなに危機感はないらしく、国内では在庫がだぶついていると報道されており、むしろ何故値下がりしないのかという疑問の声すら聞こえているそうである。

 世界の日本のその北海道のさいはてのその片隅の離島である礼文島や利尻島では、今冬、灯油価格は1リットル100円以上となる可能性もある。100円の大台に乗れば、これはガソリンと変わらない値段であろう。そんな島民の苦しさを知るよしもなく、世界的な「オイルマネーゲーム」は続いている。

そして、拍車をかけるようにしのびよる秋のうしろで、冬将軍は待ってましたとばかりにその出番をいつものように伺っている。