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ひとりおもふ
全国ワースト第2位
 
 
地元の人たちからは、「あてにならない空港」と呼ばれている。

 
というのも、稚内空港は欠航率で全国ワースト第2位という不名誉な肩書きを持っているからである。
 その不名誉な肩書きは、稚内空港関係者から聞いたことなので間違いないが、全国ワースト第2位という具体的な事実を地元の人たちは知らず、単にワースト10の常連という認識程度でしかない。
 ちなみにワースト第1位は青森空港とのことである。

 
稚内空港の運航状況は、羽田が2往復、関空・中部・新千歳・丘珠(札幌)が各1往復という夏季スケジュールと、羽田・新千歳・丘珠が各1往復という冬季スケジュールとになっている。 これは、夏季間の礼文・利尻島、サロベツ原野等の観光客受け入れ空港という面と、そうでない冬季間の体制とを意味しているが、「客足」の少ない冬季間に欠航が集中するというデータがある。

 
何故、冬季間に欠航が集中するのだろうか。

 
前述の関係者は、まず、空港の所在する地形自体を疑問視している。

 
稚内空港は、市街から宗谷岬方向の「声問(こえとい)」に位置し、東西に滑走路が延びている。
 関係者が疑問視するのは、この声問はまわりに丘陵が多く、吹雪くと雪雲が停滞してしまうということ、また、冬季は「北風」が吹きやすく、東西に延びている滑走路では障害物が全くないため「横風」をまともに受けてしまうという最悪条件の場所に何故建設したのかということである。

 
丘陵地帯であることは仕方がないとしても、宗谷海峡を北方真横に望んでいるため北風をまともに受けてしまう東西に延びる滑走路を設置した理由は、冷戦時代の産物であろう。北には宗谷海峡を挟んでロシア領のサハリンがある。1970年代に起こった大韓航空機撃墜事件を思い出していただきたい。

 
こういった気象条件や歴史的背景の理由もあるが、観光客の冬季間の利用低下ということも見え隠れしているらしい。要するに「ロードファクター」という専門用語で、つまり、「搭乗率と採算ライン」の問題である。

 
ほんとうかどうかわからないが、航空機やフェリーでは欠航理由として「機材繰り」という用語を用いることが多いと聞く。

 
稚内などのローカル空港では「ナイトステイ」と呼ばれている「航空機の1泊」は、よほどの理由がない限りあり得ない。つまり、羽田などの主要空港から航空機が稚内へ飛んできて客を降ろし、稚内で客を乗せて再び羽田へ戻るといった主要空港起点によるためである。

 
であるから、例えば、羽田から稚内へ航空機が到着しなければ、稚内から羽田への便は航空機が確保できないことから「機材繰りのため欠航」ということになる。
 逆に言えば、航空機が到着すれば羽田行きの便は、羽田が悪天候でない限りまちがいなく飛ぶということになる。

 
欠航率が高いのは、稚内の気象状況が悪く着陸できないため、稚内発の便が「欠航」するという理由がほとんどである。

 
その羽田〜稚内便を利用することになった。

 
暮れも押し迫った12月28日。僕はお正月を女房殿と娘がいる相模原で過ごすこととなったため、午後1時50分発羽田行きの便を利用した。

 
「稚内から羽田へ飛ぶ便は欠航が結構あるけど(ダジャレを言うなよ!)、羽田からは余程の理由がない限り飛びますから安心してください。その代わり稚内へ到着するかどうかは確約できませんが。・・・大丈夫ですって。」
 
空港関係者である知人は出発する際にこう激励?した。

 
出発日の天気予報は「曇り」だったが、朝、カーテンを開けると雪が深々と降っていた。
 絶句して、あわてて空港へ電話すると、「羽田からの便は五分五分ですね。確実なのは午前9時30分発の新千歳便に乗って新千歳を経由することです。」

 
稚内の空を埋め尽くす雪雲と同じ不安が脳裏を横切ったが、結果は無事着陸し、羽田へ飛ぶことができた。離陸してから約2時間のフライトは完全熟睡した。

 
復路は明けて1月8日。午前11時20分発に搭乗するため羽田へ着いたのは10時20分ころ。案内板には予想どおりの「天候調査」という表示。
 しかし、10時40分には飛ぶことが決定したので、見送りの女房殿と娘と別れ、セキュリティ・チェックを受けてスポットへ向かった。
 そして、稚内便は「条件付き」ながらも定刻どおり離陸した。

 
羽田を飛び立って安定飛行となったころ、機長アナウンスが入る。

「当機は稚内空港へ向けてフライトしておりますが、稚内空港が悪天候等により着陸できない場合は旭川空港、または新千歳空港へ着陸することもございますのでご了承願います。」

 
仮に旭川や千歳に着陸した場合は、稚内まで専用バスが走るとのこと。でも、旭川だと約5時間から6時間はかかるだろうし、千歳だと・・・。せめて旭川であってほしいと願った。

 
が、その考えも札幌上空での機長アナウンスで一掃された。

 
「今入りました連絡では、稚内空港は除雪作業が終了次第着陸可能ということですので、当機は稚内へ向けてフライトすることとなりました。ただし、除雪作業終了予定時刻が午後1時30分ころですので、到着は30分遅れが予想されます。」

 
午後1時ころには稚内上空を飛行していた。到着は午後1時10分が定刻であり、30分遅れということになれば1時40分かなと考えていた矢先のこと。

 
「除雪作業が大幅に遅れており、午後2時ころの到着となる見込みでございます。着陸の許可が下りるまで当機は稚内上空を旋回することになります。」

 
それでも稚内に到着するのであればと安心した。旋回している事実が把握できるように、サハリンや宗谷岬、ノシャップ岬や市街がはっきり見下ろせられる。
 結局は上空を約1時間も旋回し、無事着陸した。
 航空機嫌いの2時間50分の旅は無事終了した。
 神様は僕を見捨てなかったようだった。が、次回は旭川か千歳を利用することを決意した。
 こんな経験は、もうたくさんである。

 
稚内から羽田行きの航空機が欠航となると、活カニを空輸する手段が断たれるため、カニ業者は最も近い約300キロ離れた旭川空港まで保冷車を飛ばすことになるそうである。
 
 
さらに、冬季間は利用者も少なくなるので、航空機が「小型化」されるため、活カニを運ぶカーゴ・スペースも当然「小型化」となることから、前述の航空関係者は、冬季間の観光資源を模索するようにと稚内市へ要望しているとのことであるが・・・。

 
冬の稚内観光で目玉にしたいものがある。

@ 稚内空港で無事離着陸できるかどうかわからないスリル
A 利尻・礼文島へ渡り時化のためフェリーが欠航するかもしれないスリル
B ブリザード状態で立ち往生するかもしれない観光バスでの「孤立」体験
C 日本最北端の「童夢(どうむ)温泉」露天風呂での「しばれ」入浴体験

 
この4つと酷寒の冬景色を売り物にした観光ツアーはいかがだろうか。ツアー名は「予定どおり行かないツアー」なんかどうだろう。

 
羽田へ帰る便が欠航となり、急遽、旭川あるいは千歳までバスで行く「オプション」ツアーやフェリー欠航による「もう一泊」ツアーで、予定がたたなくなるという声も聞こえそうだが、その予期せぬ出来事がちょっとおもしろいかもしれないし、そのほうがスリルがあっていいという方もおられるかもしれない。

 
また、聞くところによれば、青森の津軽地方では冬の観光の一環として「地吹雪体験」ツアーなるものがあって、結構人気があるそうである。内容は地吹雪の平野を歩くという単純なものであるが、同様に稚内でも人間が「自然」を相手にする観光を売り出してみてもおもしろいと思う。

 
でも、この自然を相手にしたツアーを一度味わってしまったら、また行きたいという「リピーター」はおそらくいないだろう。なんせ、全国ワースト第2位の空港をまず最初に利用するツアーだから、稚内へ降りないことには予定が立ちませんからね。